【知財よもやま話】 第1話 「ひこにゃん事件」に学ぶ「ゆるキャラビジネス」


「ひこにゃん事件」に学ぶ「ゆるキャラビジネス」
知財よもやま話 第1話

ペンネーム ハードキャラ

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知財弁護士への道を歩き始めた2 年目弁護士若葉が、知財弁護士大丸と「ゆるキャラ」について話します。

【ゆるキャラの元祖】

若葉:ゆるキャラの元祖は2006 年5 月に誕生した「ひこにゃん」といわれていますが,この頃は「くまモン」はじめ,いろいろな「ゆるキャラ」が登場しています。世の中,くらい話もありますが,ゆるキャラには本当に癒やされます。地域おこしにも役立っていると思いますが,「ひこにゃん事件」として大阪高裁平成23 年3 月31 日決定がありますね。知財弁護士として,この事件からどんなことが学べるのでしょうか。

 

【契約での留意事項:特に61 条2 項】

大丸:著作権紛争は結構多いのですが,それは書面化することが少ないからだといわれています。例えば,キャラクターのもとになるイラストを公募する場合,一番のポイントはなんだと思いますか。

若葉:う~ん,著作権法61 条2 項です。「著作権を譲渡する契約において,第27 条又は第28 条に規定する権利が譲渡の目的として『特掲』されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。」という規定です。「特掲」という言葉は少し難しいですが、特に契約書に記載されていないときは、第27 条の翻訳権・翻案権(著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利)や第28 条の二次的著作物に関する原著作者の権利(著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物にも、もともとの著作者の権利―複製を禁じたり、譲渡を禁止したりできる権利)は、譲渡した者にそのまま帰属していると推定する規定というふうに理解しています。

公募の結果イラストの譲渡を受けたとしても,地域のイベントやぬいぐるみの制作,さらには商品化権と言われたりしますがグッズ販売等でビジネスが広がってゆく場合には,元のイラストから少し変わるのが通常ですよね。判例も調べましたが,第27 条の変形権(翻案権)や第28 条の二次的著作物の利用などは明文で書かないと原則的にはもとの人に残ってしまうのですね。「ひこにゃん事件」でも問題となりました。

大丸:「一切の権利が移転する」と契約で書いたらよさそうなものですがだめなんです。創作者は弱い立場だということへの配慮でしょう。
今までにこの推定が覆された裁判例は,ひこにゃん事件以外にもう1 件あるだけで,せっかく企画したビッグビジネスがふいになることもある重要な条文です。

若葉:元のイラストからデザインが変わった場合の,キャラクターの同一性については,最高裁平成9 年7 月17 日判決(ポパイ事件)がありました。「複製というためには,第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく,その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる」としているのが参考となります。問題となったポパイはずいぶんとイメージが異なりますがそれでも翻案ではなく複製なんですねえ。

 

【ビジネスモデルとしての無償利用】

大丸:「ひこにゃん」は当初は主催者が無償での利用を認めていました。「くまモン」は今も無償でしょうね。フリーソフトみたいな感じ。クリエイティブ・コモンズという思想にも一脈通じるところがあるように思います。このビジネスモデル,いいですね。

若葉:クリエイティブ・コモンズというのは、著作権に関する比較的新しい考え方で、一定の条件さえ満たせば、特定の著作権を自由に使ってよいですよ、というものですよね!

 

【著作者人格権との関係】

大丸:ところで,元のデザインを変更した場合,イメージに傷がつくこともあります。気をつけなければならないのは,第59 条で、創作者の著作者人格権はその創作者の一身に専属するもので、譲渡できないとされているということです。実務では,契約に際し,「著作者人格権を行使しない」という条項も是非とも入れておくべきですが,あまりにひどい改変の場合は,創作者本人からのクレームが来ます。いろいろな場合を想定して利用規約等できちんと縛りをかける必要がありますね。これらは自治体のHP で公開されています。

 

【ありがたい契約支援システム】

若葉:いろいろと配慮した契約書を作成するのはなかなか大変ですが(弁護士に任せなさいということですよね(笑)),なにかいい方法はないですか。

大丸:文化庁HPにアクセスし,「著作権に関する教材・資料等」⇒「誰でもできる著作権契約」⇒「著作権契約作成支援システム」⇒「主催者が利用するイラストなどの公募」と順次クリックして必要事項を入力すれば簡単にできますよ。

若葉:へえ。私もすぐに試してみます。それをベースにいろいろと修正すればいいですね。あと,なにか気をつけるべきことがありますか。

大丸:公募の際に,〇〇祭のための公募だとかに限定すると,そのお祭りが終わったら返してくれと言われトラブルに発展することもあります。著作権の世界では,期限付き譲渡というパターンもあるのです。譲渡契約書には,念のために,その後も自由に使いますよとの確認条項も加えたほうがよいでしょう。また,実際の許諾に際しては,事前のリーガルチェック等も大切ですから,法律の専門家の関与も検討すべきでしょう。

 

【ゆるキャラの他の法律での保護】

若葉:ゆるキャラは,著作権法以外でも保護されることがありますか。

大丸:商品のデザインは,例えば,販売から3 年間は不正競争防止法2 条1 項3号(商品形態模倣行為)で,また有名になれば同1 号(周知商品等表示)で別に保護されることもあり得ます。意匠も登録から20 年保護と強力な権利です。また,「ひこにゃん」は商標登録もされています。
いずれにしても,ゆるキャラの周辺で紛争が起こらないよう事前に気配りが大切ですね。

 

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