【知財よもやま話】 第9話 競争法と知的財産法のあいだ


競争法と知的財産法のあいだ
知財よもやま話 第9話

 古城春実

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LIDC

「国際競業法連盟」(略称:LIDC)という名前を皆さんはお聞きになったことがあるでしょうか。国際競業法連盟は、第2次世界大戦前の1930年代に設立された古い歴史を持つ団体で、正式名称をLa Ligue Internationale du Droit de la Concurrence(英語名称:The International League of Competition Law)といいます。LIDCは、その名が示すとおり、独占禁止法(独禁法)、知的財産法および不正競争法など、競争法一般の問題を主として扱う法律家の団体です。現在、ドイツ、オーストリア、ベルギー、ブラジル、フランス、英国、ハンガリー、イタリア、ルクセンブルグ、北欧諸国、チェコスロバキア、スイス、ウクライナ、米国、それに日本に支部があります。年1回、各国持ち回りで開かれる国際会議には、支部のある国以外にブルガリア、香港、リトアニア、モルダビア、オランダ、ポーランドといった国々からも法律家が参加します。

競争法?

この団体のユニークなところは、「競争法」(Droit de la Concurrence)という括りの下に、独占禁止法、不正競争防止法、商標法、著作権法、意匠法、(ときどき特許法)といった知的財産法全般に関する種々の問題を横断的に取り上げる活動を行っているところです。独占禁止法も知的財産法(知財法)も、広く市場で公正な競争が行われるようにするための法制度であるという理解に基づいて、その中で生ずる問題を横断的に検討しようというのが、LIDCの設立趣旨ということになります。実際、LIDCのメンバーには独禁法等を主に扱う弁護士と知財法を主に扱う弁護士の両方がおり、年に1回開かれる大会では、出席者同士が互いに「あなたは知財法?」「競争法?」などと尋ねあっています。

国際会議

LIDCでは、通常の活動(研究会、出版活動等)の他に、年に1回、総会を兼ねた国際会議(Internatinal Conference)が開かれます。事前に、事務局から各国の支部に対し、国際会議で討議する問題について質問が送られます。質問は、毎年、競争法関係の質問Aと、知財法関係の質問Bに分かれており、各国支部の担当者(National Reporters)が自国の法律、判例、実務等にもとづき回答を送ります。大会では、報告担当者(International Reporters)が各国の回答を参考にしながら、その年の議題(問題)について報告を行い、報告・討議の最後に、LIDCとしての見解をまとめた「決議」(Resolution)が採択されます。

 ちなみに、直近の2015年大会(ストックホルム)の質問 Aは、「支配的地位の濫用:支配的地位の濫用に関する各国の最近のアプローチには統一性があるか?法的権利及び事業に対する過度の制約は存在しないか」というものであり、質問Bは、「ノウハウの保護と開示:各国のノウハウ保護は過大か・過小か」というものでした。

 また、2014年の会議(トリノ)では、質問Aが独禁法の手続における司法取引と手続的保証に関するもの、質問Bが知的財産権の消尽の原則はon-line industryにどのように適用されるか、というものでした。少し遡りますが、2010年の会議(ボルドー)では、質問Aが、垂直的関係(vertical relationship)における価格情報の交換に関する合意はどこまで禁止されるか、質問Bが、知的財産権による比較広告の制限はどこまで及ぶか、というものであり、毎年興味深い題材が取り上げられています。

ゲストスピ-カー

 大会には、毎回、ヨーロッパの競争当局の担当者、大学教授といったゲストスピーカーが複数招かれ、講演を行います。例えば、中国で独禁法の施行(2008年8月1日)を控えた2007年の会議(カターニャ:シチリア)には、中国の立法担当者がゲストスピーチを行いました。また、2014年の大会(トリノ)では、EUのライセンスガイドラインの立案担当者が最新の情報に基づく講演を行いました。その中には、Pay-for-delay(医薬の特許権に関して、後発薬メーカーが参入を遅らせる見返りに先発薬メーカーが一定の対価を払うという内容の和解)に対する当局の考え方もありました。こういった大会に出てみると、ヨーロッパで何が問題になっているか、どのようなことが共通理解になっているか、といったことを肌身で感じます。

言語

 会議は、英語とフランス語で行われ、同時通訳がつきます。以前は、ドイツ語も同時通訳がついていたそうです。もっとも最近はほとんどの報告、討議が英語で行われます。ときどき、フランス語の質問に対して、回答者が英語で答えるというやりとりも見られます(言葉は違っても話はちゃんと通じています!)。このような光景を目にすると、英語は本当にコミュニケーションのツールだなあと感じます。東欧の方々を含めて、ヨーロッパ人は本当に英語が上手で、自由に使いこなしています。

日本支部の活動

さて、日本には、本間崇先生(故人)、大場正成先生、松尾和子先生などが中心となって設立された日本支部があります。支部の活動としては、毎年来る質問に対し、レポータを決めて日本の法制度や実務に基づき回答する、大会前の研究会で回答の内容を検討するといったことが中心になっています。その後、懇親を兼ねた食事会が催されます。食事会は、ワイン通の先生セレクトのワイン会も兼ねています。おいしいワインをいただきながら、種々の情報交換をし、ときには先輩の先生方の昔話を伺うのも楽しみの一つです。

競争法の一環としての知財法

日本では、知的財産法と競争法(独禁法)では、弁護士同士の接点があまりありません。しかし、知的財産法の中に競争法の視点を入れていくこと、あるいはその逆に、競争法の中に知的財産法の視点を入れていくことは、今後、ますます重要になってくると思われます。とりわけ、最近は、公正取引委員会も「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」の一部改定案中で、FRAND宣言をした標準規格特許の権利行使に関わる考え方を示すなど、競争法と知的財産法がかかわりをもつ局面が増えています。

ここで、個人的な印象を少し申し上げれば、競争法の当局者や実務家の方々の中には、知的財産権の特有の性質、さらには、知的財産権は技術革新を促し、競争を促進する働きもするという側面についての理解が薄く、法体系としては競争法が知的財産法の上位にあるという意識をお持ちの方がおられるのではないかと思うことがあります。しかし、知的財産法と競争法は、互いに補完しあう車の両輪のような関係にあります。我々知財関係者も、今後は競争法の分野に視野を広げつつ、より一層の情報発信が必要になってくるのではないでしょうか。

ストックホルム会議

2015年のLIDCの国際会議は秋の青空の広がるストックホルムで開催されました。会議の合間を縫って、ノーベル賞の晩餐会会場に使われるストックホルム市庁舎も、ノーベル博物館もしっかり見学してきました。

大村博士、梶田博士のノーベル賞受賞を寿ぎつつ、ほんの少し、日本の知的財産法の将来についても考えてみました。

 

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