知的財産権に関するQ&A(6) 特許法(5)|職務発明


弁護士 山崎道雄
弁護士 前田将貴

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も特許法に関するよくある質問と回答をお届けします。今回は、職務発明に関する質問にお答えします。

知的財産権に関するQ&A(6) 特許法(5)|職務発明

Q41 職務発明とは、何ですか。

A41 職務発明とは、従業者等がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするにいたった行為がその使用者等における従業者の現在又は過去の職務に属する発明をいいます(特許法第35条1項)。

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Q42  当社の従業者において、発明を完成させました。当該発明の特許を受ける権利は、誰に帰属しますか。

A42 特許を受ける権利は発明者に帰属しますので(Q32参照)、ご質問の場合も、原則として、従業者に帰属することになります。御社において、特許権の取得を希望するのであれば、個別に従業者と契約を締結して、特許を受ける権利又は特許権の譲渡を受ける必要があります。
特許法第35条1項にいう職務発明(Q41参照)に該当する場合でも、特許を受ける権利は従業者に帰属するのが原則となり、使用者等は、その発明について特許が成立した場合に通常実施権を得ることができるに留まります(特許法第35条1項)。通常実施権があるだけでは、発明者が競業者にライセンスすることもあり得ます。
そこで、職務発明については、予め契約を締結し又は就業規則等を作成しておくことで、使用者において、事後に合意がなくとも、特許を受ける権利を取得することができます(特許法第35条3項)。現在、多くの企業では、特許を受ける権利ないし特許権を企業に取得させることを予め定める職務発明規定を作成していると考えられます。
なお、平成27年特許法改正前は、予約承継(原始的には従業者等に特許を受ける権利が帰属し、使用者はそれを従業者等から承継します。)のみが認められていましたが、平成27年改正特許法第35条3項により、予め契約又は就業規則等で定めることで、特許を受ける権利を使用者等に原始的に帰属させる(原始使用者帰属)ことも認められるようになりました。
平成27年改正法を踏まえ、就業規則、職務発明規定の作成・見直しを検討されている場合には、是非、知財ネットにご相談ください。

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Q43 就業規則等で職務発明の特許を受ける権利を会社に取得させるとしている場合、従業者には、特別にボーナス等を支払う必要がありますか。

A43 職務発明について、使用者等に特許を受ける権利又は特許権を取得させた場合、従業者等は、使用者等に対して相当の利益を受ける権利を取得します(特許法第35条4項)。この規定は強行法規と解されており、相当の利益を支払わないとする規定を置いても、従業者等は、相当の利益を請求することが可能です。また、相当の利益についての定めがないとか、利益の支払いが不合理と認められる場合も同様です(特許法第35条7項)。
なお、平成27年の改正前特許法第35条3項は、「相当の対価」という文言であり、原則として金銭に限られていましたが、企業戦略に応じて柔軟なインセンティブ施策を講じることを可能とするとともに発明者の利益を守るべく、金銭に限らず金銭以外の経済上の利益を与えることも含めるようにするため、平成27年改正特許法第35条4項は「相当の利益」という文言に変更されました。

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Q44 従業者に取得させる利益が「相当な利益」といえるか否かは、どのようにして判断されるのですか。

A44 契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であってはならないとされており、不合理性が認められない限りは、その額をもって相当な対価とされることとなっています(特許法第35条5項)。
そして、特許法第35条6項は、平成27年の改正で導入されたものですが、同条5項の不合理性判断の法的予測可能性を向上させるために、経済産業大臣において、同項に例示される考慮事項の判断のあり方について具体的に明示するガイドライン(指針)を定めて公表する旨を規定しています。このガイドラインは、平成28年4月22日に経済産業省告示として公表されており、特許庁のホームページでもみることができます(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm)。

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Q45  「相当の利益」は、金銭以外ですと、どのようなものが考えられますか。

A45 「相当の利益」というためには、抽象的には、従業者に付与するものが経済的価値を有すること、職務発明について特許を受ける権利を取得等したことを理由とするものであること(牽連性)が必要とされています。
そして、ガイドラインにおいては、具体例として、以下のようなものが挙げられています。
 ① 使用者等負担による留学の機会の付与
 ② ストックオプションの付与
 ③ 金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格
 ④ 法律及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与
 ⑤ 職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾

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Q46  就業規則で定めた利益の内容が「不合理」と判断された場合には、どうなりますか。

A46 相当の利益についての定めがないとか、利益の支払いが不合理と認められる場合には、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して」相当の利益の内容を定めるとされています(特許法第35条7項。なお、平成27年改正法適用前に承継された職務発明についても改正前特許法第35条5項で、ほぼ同様に考えられます)。
そして、平成27年改正前の理解に基づくと、この場合の使用者等が受けるべき利益の額とは、特許法第35条1項で既に通常実施権が与えられていることから、特許権者として発明を実施することによる利益ではなく、排他的独占権を有する地位から客観的に見込まれる利益をいうとされています(他人に実施許諾した場合の実施料は排他的権利から生じたものといえます)。さらに、その他にその発明に関連して使用者が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めることになります。

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Q47  相当利益請求権の消滅時効は、何年ですか。

A47 学説上争いがありますが、10年と判断する裁判例が多い状況です(知財高裁平成21年6月25日判決・平成19年(ネ)第10056号)

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Q48 相当利益請求権の消滅時効の起算点は、いつからですか。

A48 消滅時効は、「権利を行使することができる時」から進行するため(民法第166条1項)、職務発明規程等に、出願報奨・登録報奨・実績報奨等について相当の利益の支払時期の定めがある時は、その時から進行することとなります。
勤務規則等に支払時期の定めがない場合、特許を受ける権利を原始的に使用者等に帰属させているのであれば(原始使用者帰属)、消滅時効は、職務発明について特許を受ける権利が発生した時、すなわち、職務発明の完成時から進行すると考えられます。また、原始的に従業者等に帰属させたうえで使用者等への予約承継を定めている場合(原始従業者帰属)には、権利の承継時から進行すると考えられます。

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Q49 従業者がした職務発明について、職務発明規定に基づいて、当社が特許を受ける権利を取得しました。にもかかわらず、従業者は、勝手に自己の名義で特許出願をしてしまいました。この場合、当社は、どのような対応をすることができますでしょうか。

A49 特許を受ける権利を御社が取得したわけですから、従業者による出願は、冒認出願となります。
Q38~Q40でご説明したとおり、当該出願は、拒絶理由及び無効理由となります。また、御社は、特許登録前であれば、当該従業者を相手方とする特許を受ける権利の確認判決及びその確定証明書を提出することで、出願人名義の変更をすることができますし、特許登録後であれば、特許法第74条に基づく特許権の移転登録請求をすることができます。

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Q50 従業者がした発明について、職務発明規定に基づいて、当社が特許を受ける権利を取得しました。ところが、職務発明をした従業者は、当社に無断で、特許を受ける権利を第三者に譲渡してしまいました。この場合、特許を受ける権利は、誰に帰属することになりますか。

A50  職務発明規定に基づき、御社が特許を受ける権利を原始取得したのか、それとも承継取得したのかで結論が異なってきます。
Q42でご説明したとおり、平成27年特許法改正により、使用者は、職務発明に係る特許を受ける権利につき、原始取得することも承継取得することもできるようになりました。
原始取得の場合には、特許を受ける権利は、職務発明の完成と同時に使用者に帰属し、従業者には一度も帰属しませんので、設問の第三者は、無権利者から特許を受ける権利を譲り受けたに過ぎないこととなります。そのため、特許を受ける権利は、御社に帰属したままとなります。
これに対し、承継取得の場合は、一旦は従業者に特許を受ける権利が帰属することから、「従業者→御社」、「従業者→第三者」といった二重譲渡状態となりますので、先に出願をした者が確定的に特許を受ける権利を取得することになります(特許を受ける権利の承継の対抗要件は、特許出願。特許法第34条1項)。

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