知的財産権に関するQ&A(11) 特許法(10)|その他(特許権侵害訴訟手続等)


弁護士 山崎道雄
弁護士 前田将貴

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。
今回も特許法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は、特許紛争、特に訴訟手続に関する実務的な質問にお答えします。

知的財産権に関するQ&A(11) 特許法(10)|その他(特許権侵害訴訟手続等)

Q91 特許権侵害紛争の解決手段としてはどのようなものがありますか。裁判外紛争手続の種類についても、教えてください。

A91 特許権侵害紛争の解決は、権利者と被疑侵害者間の任意交渉からスタートする例が多いかと思います。
任意交渉で成案が得られない場合においては、裁判外紛争解決手続(ADR)、民事保全の申立て、民事訴訟提起による解決が考えられます。また、事案によっては、刑事告訴、税関に対する輸入差止の申立て(関税法69条の13)といった手段も考えられます。

裁判外紛争手続の代表例としては、「調停」と「仲裁」があります。
「調停」とは、民事紛争の解決のため、第三者(調停人)が中に入って双方互譲により内容についての合意を成立させる手続のことをいいます。知的財産紛争の調停は、日本知的財産仲裁センターによるもののほか、民事調停法に基づく調停、すなわち、裁判所の民事調停制度を利用することができます。日本知的財産仲裁センターの調停では専門の弁護士・弁理士が調停人となり、また、(地方)裁判所の民事調停は、東京・大阪地裁知財部が担当(知財裁判官と知財弁護士等が担当)しますので、専門性をもった調停人による公平・中立的な調停を期待できます。
「仲裁」とは、第三者である私人(仲裁人)を選任して、その仲裁人の審理を受け、その結果仲裁人から出された判断内容には有利不利にかかわらず服することを約束して、紛争を解決する手続のことをいいます。仲裁は、「判決」(国権の行使として行われ、強制力を有する)と「調停」(当事者が内容に合意しないと成立しない)の中間に位置する紛争解決手段(第三者である私人の仲裁判断に従う)といえます。仲裁は、仲裁合意がある場合に、日本知的財産仲裁センター等に申立てることができます。同センターによる場合は、弁護士・弁理士が少なくとも各1名参加して構成される3名の仲裁人の判断に委ねられ、両当事者の希望があれば、各当事者が仲裁人を1名ずつ選任し、残りの1名をセンターが選任することになっています。そして、仲裁人が示した仲裁判断は、紛争当事者を拘束し、原則として不服の申立(裁判を含む)はできません。
調停・仲裁による紛争解決では、判決のようなオールオアナッシング的ではなく、柔軟な解決をすることが可能です。また、手続は、非公開ですから、紛争自体についても、審理内容及び解決内容についても秘密を守れます。また、一般的に審理期間は短期間であるとされ、費用も低額に抑えることができるというメリットがあります。

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Q92 特許権侵害品の販売の禁止を求める仮処分の申立てについて簡単に教えてください。

A92 特許権侵害品の販売の禁止を求める仮処分は、仮の地位を定める仮処分(民事保全法第23条2項)の1つであり、「販売を禁止する」との不作為義務を暫定的に被疑侵害者に課すことを求めるものです。
仮処分は民事訴訟の結論が出るまでの間に権利を保全するために行われるものですが、販売禁止の仮処分が認められると、相手方は商品の販売を禁止されるので、あたかも本案で差止めの認容判決がでたのと同様の効果を得ることができます(このような類型の仮処分を「断行の仮処分」とか「満足的仮処分」ともいいます。)。また、審理の過程で、和解が成立して紛争解決に至ることもあります。
仮処分による場合は、民事訴訟を提起する場合と比較して、訴訟印紙代を低額(一律2000円)に抑えることができ、また、特にシンプルな事案では、迅速に審理が進行するといったメリットがあります。
しかし、断行の仮処分としての特質上、最終的救済の内容を実行してしまう影響をもつことから、申立人と相手方の双方の審尋を必要とし(民事保全法23条4項)、また、疎明とはいいながら本訴と同程度の証明が求められますので、争点が複雑な場合等においては、結局、本案と変わらない程度の審理期間にならざるを得ないでしょう。さらに、申立てが認められても、立担保の負担や本案敗訴時における損害賠償のリスクがあります。

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Q93 特許権侵害品の仮処分の申立てをするにあたっての留意点を教えてください。

A93 仮処分を行うにあたって注意が必要な点の一つは、申立てが認められた場合に相当な金銭を担保として供託しなければならない点です。民事保全手続における担保とは、違法な保全命令によって債務者に生じ得る損害賠償のために裁判所が提供を求めるものです。担保を求めるか否かは裁判所の判断に委ねられていますが(民事保全法第14条1項)、特許権侵害品の販売禁止の仮処分において保全命令の結論が誤っていた場合は被疑侵害者に営業損害が生じることは避けられないので、担保なしに仮処分が認められることはあまりないといえます。担保額は、当事者が提出した資料を基に種々の事情を考慮して裁判所が決定しますが、高額となることも珍しくありません。また、一旦納付した担保金は、紛争が解決するまで取り戻すことができません。このように、仮処分を申し立てる場合には担保金の負担に留意する必要があります。
また、登録料不納付により権利が消滅していたにもかかわらず、実用新案権に基づいて製造販売禁止等を求める仮処分命令を申立てたという事案で、権利の消滅にもかかわらず、これを看過して仮処分を申し立てた点に重過失があるとして、不法行為に基づく損害賠償請求が認容された事案があります(大阪地裁平成13年12月11日判決・平成13年(ワ)第7358号)。仮処分申立ての段階に限った問題ではありませんが、権利の存否については、注意して確認する必要があるといえます。

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Q94 実施権の範囲とは何でしょうか。

A94 特許権侵害訴訟は、東京地方裁判所、大阪地方裁判所のいずれかに提起する必要があります(民事訴訟法6条1項)。東京地方裁判所、大阪地方裁判所以外で審理をしないという意味で、両裁判所に専属管轄があるということになります(なお、稀だとは思いますが、訴額が140万円を超えない場合は、簡易裁判所も可。同法6条2項。)。
特許訴訟において、東京地方裁判所は、福井県、岐阜県、三重県以東の東日本に裁判籍のある事件を管轄し、大阪地方裁判所は、京都府、滋賀県、奈良県、和歌山県以西の西日本に裁判籍のある事件を管轄します。東日本、西日本の双方に裁判籍のある事件については、原告において、東京地方裁判所か大阪地方裁判所かを選択することができます。
このように、東京地方裁判所、大阪地方裁判所のいずれに訴訟提起しなければならないのかについては、当該事案の裁判籍によります。
そして、特許侵害訴訟では、被告の住所・本店所在地、侵害行為地に裁判籍があります。また、損害賠償を求める場合には、原告の住所・本店所在地、侵害物等の廃棄を求める場合には当該物の所在地にも裁判籍があります。

以上を事例に基づいて、整理すると以下のとおりとなります。
<事例>
原告=本店所在地 神戸市
被告=本店所在地 横浜市
侵害行為地=新潟市
<裁判籍の所在>
①被告の住所・本店所在地  → 横浜市
②侵害行為地        → 新潟市
③もし損害賠償も請求するなら→ 神戸市も(原告の住所・本店所在地)
<管轄>
①→ 東京地裁
②→ 東京地裁
③→ 大阪地裁
<結論>
差止請求のみであれば、東京地裁。損害賠償請求を行うのであれば、東京地裁と大阪地裁を選択できる。

Q95 特許権侵害訴訟で裁判所に納付しなければならない訴訟印紙は、どれくらいになりますか。

A95 訴訟印紙の額は、訴額の合計額に応じて決定されます。

損害賠償請求については、賠償を求める金額(元金)がそのまま訴額となりますので、元金1億円の損害賠償を求める場合においては、訴額は1億円となります(遅延損害金部分は、附帯請求となり、訴額の基礎となりません。民事訴訟法9条2項。)。
差止請求については、特許権の存続期間や被告製品の売上等により決まります。詳細は、http://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/sinri/ip/index.htmlを確認ください。侵害物品の廃棄等の請求は、付帯請求ですので、訴額は0円です。

訴額がいくらの場合に、訴訟印紙代がいくらになるのかについては、以下のURL等を参照ください。
【裁判所HP 手数料】
http://www.courts.go.jp/saiban/tesuuryou/
【裁判所HP 手数料早見表】
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf#search=%27%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E5%8D%B0%E7%B4%99%E4%BB%A3%27

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Q96 特許権侵害訴訟の流れについて、簡単に教えてください。

A96 特許権侵害訴訟の手続も、基本的には通常の民事訴訟と異なるところはありません。

裁判所に訴状を提出すると、まず訴状審査がなされ、問題なければ、被告への訴状の送達とともに、第1回口頭弁論期日が指定されます。特許権侵害訴訟に限らず民事訴訟では、原告と被告が主張・反論を記載した書面(準備書面といいます。)を提出して期日(口頭弁論期日、弁論準備手続期日)でそれを確認する、ということが繰り返されて審理が進んでいきます。期日は、概ね1ヶ月から2ヵ月毎に指定されます。

特許権侵害訴訟の第1審の一つの特徴点として、通常の民事訴訟とは異なり、まず、特許権侵害の有無を審理する「侵害論」が先行して行われ、侵害が認められた場合には損害について審理する「損害論」へ移行する、との運用がなされている点です。そのため、損害論に移行すれば、原告の勝訴、反対に損害論に移行しなければ被告勝訴が見込まれます。

特許権侵害訴訟の大まかな流れについては、大阪地方裁判所、東京地方裁判所のそれぞれが、審理モデルを公開していますので、こちらも参考になります。
【東京地方裁判所】
http://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/singairon/
【大阪地方裁判所】
http://www.courts.go.jp/osaka/vcms_lf/sinrimoderu2013331.pdf

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Q97 技術説明会とは何ですか。

A97 特許権侵害訴訟では、技術内容が複雑であったり、争点が多岐にわたることがあります。この点について、当事者は、準備書面等で丁寧に説明を行いますが、それ補完する趣旨で、技術内容と主要争点について、口頭でプレゼンテーションをすることがあります。これを技術説明会と呼んでいます。
技術説明会は、裁判所からの要請や当事者の希望に基づいて行われることがあります。その実施の要否、時期については、裁判所の訴訟指揮で決定されますが、訴訟の終盤で、主張立証が概ね尽くされたあたりでなされることが多いように思われます。

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Q98 裁判所調査官、専門委員とは何ですか。

A98 特許権侵害訴訟で問題となっている技術に対する裁判所の理解をサポートするのが裁判所調査官や専門委員です。裁判所調査官は特許権侵害訴訟毎に1名ずつ任命されています。専門委員は、より高度・専門的な技術が問題となる等の必要な場合に任命されるものです。http://www.ip.courts.go.jp/documents/expert/#1

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Q99 損害論の審理はどのように進行しますか。

A99 損害論においては、まず、原告が特許法第102条1項ないし3項のいずれに基づく請求であるかを明らかにしたうえで、その請求に必要な主張(販売数量や販売価格等)を行います。次に、被告が原告の主張に対する認否を行います。被告の認否に対して原告が納得できない場合には、原告から被告に対して様々な根拠資料を提示することを求め、場合によっては文書提出命令の申立も行われます。他にも、鑑定費用等の点からあまり利用されていませんが、計算鑑定人制度(特許法第105条の2)もあります。

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Q100 判決に対して不服がある場合、どうすればいいですか。

A100 第1審判決に対しては、控訴、控訴審判決に対しては、上告・上告受理の制度があります。
控訴審は、知的財産高等裁判所が審理し、上告・上告受理については、最高裁判所が審理します。控訴及び上告・上告受理の申立期間は、それぞれ不服を申立てる判決の正本が送達された日の翌日から起算して2週間です。

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