知的財産権に関するQ&A 商標法(5) 異議申立て、無効審判、取消審判


弁護士 大石 裕太
弁護士 小林 英了
弁護士 中原 明子

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も前回に引き続き、商標法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は、異議申立て、無効審判、取消審判に関するご質問についてお答えいたします。

知的財産権に関するQ&A 商標法(5) 異議申立て、無効審判、取消審判

Q41 異議申立てと無効審判という制度があるようですが、それぞれどういう制度なのでしょうか。

A41 異議申立てと無効審判は、いずれも、登録商標が登録要件(商標法3条、4条等)を満たしていなかったことを理由に、登録商標の効力を失わせるための制度ですが、申立(請求)期間や申立(請求)人等にいくつか相違があります(Q42参照)。
これらの相違は、異議申立てが商標登録に対する信頼を高めるとの公益的な見地に基づく制度であるのに対し、無効審判は当事者間の紛争を解決するための制度であるために生じるものです。

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Q42 異議申立てと無効審判で、何が同じで何が違うのか、教えてください。また、それぞれのメリット、デメリットをあわせて教えてください。

A42 異議申立てと無効審判には、以下のような異同があります。

異議申立て 無効審判
根拠条文 商標法43条の2~同条の15 商標法46条~同法47条等
申立人/請求人 制限なし(同法43条の2柱書) 利害関係人のみ(同法46条2項)
(具体的には、侵害の警告を受けたり、侵害訴訟を提起された者、同一又は類似の商標を使用している者など)
申立/請求期間 商標掲載公報発行日から2月以内(同法43条の2) 制限なし

★但し、一定の無効事由については、5年の除斥期間あり(同法47条1項)

審理方式 審判官の合議体
職権審理
査定系(=商標権者と特許庁の対立構造) 当事者系(=商標権者と請求人の対立構造)
不服申立 《取消決定》知財高裁へ 知財高裁へ(同法63条)
《維持決定》不服申立不可
取消決定/無効審決の効果 原則として、遡及

異議申立てでは、①請求人適格が問題とならない(ダミーを立てて申し立てることができる)、②無効審判と比べると審理期間が短く、印紙代が安いといったメリットがあり、紛争を解決したい当事者にとって使い勝手がいい制度です。

一方で、デメリットとして、①申立てができる期間が短いこと、②登録維持決定には不服申立ができない(但し,別途無効審判請求ができる)ことなどがあり、注意が必要です。

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Q43 無効審判の手続の流れを簡単に教えてください。

A43 審判請求人は、特許庁長官に対して、請求の趣旨及び理由等を記載した審判請求書を提出することにより、審判請求を行います(商標法56条1項、特許法131条1項)。
審判請求がされると、審判長より、審判請求書の副本が被請求人である商標権者に送達され、商標権者は指定された期間内に答弁書を提出できます(商標法56条1項、特許法134条1項)。
このように、両当事者の主張をふまえて、本案審理が始まります。
その後、特許庁は、原則として口頭審理を経て(商標法56条1項、特許法145条1項。ただし、商標については、口頭審理の必要はないと判断されるケースも多くあります。)、事件が審決をするのに熟した場合、審理の終結を通知し、無効審判は審決により終了します。

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Q44 他社が「iplaw」で、文房具について商標登録しているのを発見しました。当社はこの商標の出願よりずっと前から「iplaw」のネーミングで文房具を販売しており、テレビでも紹介されたことがあります。ただ、登録から5年が経過してしまっております。何か手立てはありますでしょうか。

A44   「iplaw」との商標が、御社の長年に亘る使用やマスメディアへの掲載等の様々な事情から、御社の文房具であることを表示するものとして「需要者の間に広く認識されている商標」(周知商標)にあたる場合、本来であれば、他社は商標登録を受けることはできず(商標法4条1項10号)、また、御社としても無効審判を請求できるはずでした(同法46条1項)。
しかしながら、周知商標にあたることを無効事由とする無効審判請求については、「設定の登録の日から5年」との除斥期間が定められていますので(同法47条)、既に登録から5年が経過した本設問では、他社が不正競争の目的で商標登録を受けたとの特別な事情がない限り、無効審判請求はできません。
なお、仮に他社が御社に対して侵害訴訟を提起してきた場合には、御社としては、除斥期間経過後であっても、その訴訟で、先使用の抗弁を主張したり、また、登録商標が商標法4条1項10号(周知商標)に該当するので、周知商標について自己の商品等表示として周知性を獲得した当人である御社に対しては、商標権の行使が許されない(権利濫用の抗弁)と主張することは可能です(最判平成29年2月28日民集71巻2号221頁・判タ1438号87頁 【エマックス事件】)。

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Q45 商標の取消制度がありますが、条文を見ても長すぎて分かりません。それぞれ、どういう場合に適用されるのか、簡潔に説明してください。

A45 取消審判には、以下の5種類があります。
【不使用取消審判(商標法50条)】
登録商標が、継続して3年以上、日本国内において、商標権者・使用権者に使用されないまま放置されている場合は、保護すべき業務上の信用が発生しておらず、また、商用使用希望者の商標選択の自由を不当に制限することになりかねないため、誰でも、その商標登録の取消審判を請求できます(Q46~Q49参照)。
【商標権者による不正使用取消審判(同法51条)】
商標権者が故意に、登録商標に類似する商標で、商品の品質・役務の質の誤認、又は、他人の業務に係る商品と混同を生じるものを使用した場合(=不正使用)、制裁として、誰でも、その商標登録の取消審判を請求できます(商標法51条。Q50参照)。
【商標権の移転の結果の不正使用取消審判(同法52条の2)】
商標権が移転された結果、同一の商品・役務の類似商標、又は、類似の商品・役務についての同一・類似商標が、異なった商標権者に属することとなり、その一方の商標権者が、不正競争の目的で、他方の商標権者等の業務に係る商品・役務と混同を生ずる使用をした場合、誤認混同を防止するため、誰でも、その商標登録の取消審判を請求できます。平成8年の法改正で、類似関係にある商標権の分離移転や、類似関係にある商品・役務についても商標権の分割移転が認められるようになったことに伴い、導入された取消審判です。
【使用権者による不正使用取消審判(同法53条)】
使用権者等が、登録商標に類似する商標で、商品の品質・役務の質の誤認、又は、他人の業務に係る商品と混同を生じるものを使用した場合(=不正使用)、制裁として、誰でも、その商標登録の取消審判を請求できます。
【代理人等による不当登録取消審判(同法53条の2)】
パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の代理人(又は1年以内に代理人であった者)等が、権利を有する者の承諾を得ないで商標登録をした場合、権利を有する者は、その登録商標の取消審判を請求できます。

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Q46 A社から不使用取消審判を請求されたのですが、どう対応すれば良いか教えてください。登録商標を付して商品を販売したことはあるのですが、それで大丈夫でしょうか。 あと、A社から商標を使っていないのなら譲ってくれと言われたので、審判が請求される1月ほど前に、登録商標を付して商品を販売したことがありますが、それで大丈夫でしょうか。

A46 不使用取消審判が請求された場合、これを防ぐためには、商標権者が使用の事実を主張立証する必要があります。具体的には、①不使用取消審判請求の登録前3年以内(要証期間)に、②日本国内において、③商標権者又はその使用権者が、④請求に係る指定商品(又は役務)について登録商標を使用していることを主張立証しない限り、商標登録の取消しを免れません(商標法50条2項本文。但し、A49で説明するとおり、登録商標を使用していないことについて「正当な理由」がある場合を除きます。)。
今回のケースでは登録商標を付して商品を販売していたとのことですが、上述した要証期間内に販売していた事実を証拠で示すことができるかどうかを検討する必要があります。この検討をするに当たっては、専門家のアドバイスを受けることが望ましいといえます。

また、商標法では、いわゆる審判請求前の駆け込み使用を防ぐため、登録商標の使用が、不使用取消審判の請求の3ヶ月前からその請求登録の日までの間にされたもので、その請求がされることを知った後になされたものである場合は、不使用取消を防ぐための登録商標の使用に該当しないものとされています(商標法50条3項本文)。そして裁判例では、「その請求がされることを知った」とは、交渉経緯その他諸々の状況から客観的にみて、相手方が審判請求をする蓋然性が高く、かつ商標権者がこれを認識している場合等をいうと解されており、商標権者が単に審判請求を受ける一般的、抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないとされています(知財高判平成18年11月8日(平成18年(行ケ)10183号))。
今回のケースでは、「A社から商標を使っていないのなら譲ってくれと言われたので、審判が請求される1月ほど前に、登録商標を付して商品を販売した」とのことです。A社から単に「商標を使っていないのなら譲ってくれ」と言われたのみでは、抽象的な可能性を超えて「不使用取消をする蓋然性が高い」と考えることは難しく、上述の裁判例に照らせば、その他の特別な事情がない限り、販売によって取消しを防ぐことができる可能性が高いと思われます(但し,リスクはあります)。他方で、例えば、A社から「不使用取消審判を請求するつもりである」などと言われ、A社がそのような発言をしたことを証明できる場合には、販売を理由に不使用取消しを防ぐことはできません。

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Q47 当社の「アイピーローネット」の商標登録について、B社から不使用取消審判を請求されました。当社では「アイピーローネット」そのものの商標は使っていませんが、英語の方がかっこいいと思い、「iplaw-net」という標章を使っていました。 また、日本語訳の「知財法ネット」としても使っていました。 これでも大丈夫でしょうか。

A47 A38で説明したとおり、登録商標と全く同じ商標でなくとも、「社会通念上同一と認められる」商標を使用している場合には、不使用取消を防ぐことができます。そして、片仮名とローマ字を変更するもので、かつ称呼(呼び方)と観念(意味)が同じ商標については、「社会通念上同一と認められる」商標であると考えられています(商標法38条5項括弧書参照。)。

設問では「iplaw-net」という標章を使っていたとのことですが、これは片仮名とローマ字を変更するもので、その称呼(呼び方)を変更するものではありません。したがって、「アイピーローネット」と「iplaw-net」とが、別の意味(観念)を示すという合理的な解釈の余地がない限り、両者は「社会通念上同一と認められる」ものだと考えられます。よって、(上述の合理的な解釈の余地がない場合には)、「iplaw-net」という標章の使用で、「アイピーローネット」という登録商標の不使用取消を防ぐことができると思われます。

これに対して、「知財法ネット」は、「アイピーローネット」と称呼(呼び方)が異なりますので、「社会通念上同一と認められる」商標にあたらないと考えられます。したがって、「知財法ネット」という商標を使っていたとしても、「アイピーローネット」という登録商標の不使用取消を防ぐことができないと思われます。

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Q48 当社の「iplaw」の商標登録について、C社から不使用取消審判を請求されました。当社では、「designlaw」「patentlaw」の商標を使った商品を販売しており、商品カタログの中に「iplaw」と書かれたものはありますが、小さく書かれており全く目立ちません。 これでも大丈夫でしょうか。

A48 裁判例には、「商標法50条所定の『使用』は、当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである」と判示したものがあります(知財高判平成27年11月26日(平成26年(行ケ)第10234号)等)。この裁判例によれば、商品カタログに「iplaw」と書いた以上、登録商標を使用したといえ(商標法2条3項8号)、不使用取消を防ぐことができると考えられます。
もっとも、この裁判例は例外的なものではないかとも言われており,単に「何らかの態様で使用されてい」るということでは足りず、出所表示機能を果たす使用態様で使用する必要があると考える裁判例・学説もあります。この説によると、商品カタログの中の「iplaw」という記載が、商品の提供者を識別するために役立つかといった観点からの検討が必要になります。
したがって、今回のケースのような場合に、登録商標の使用が不使用取消を防ぐために十分かどうかを判断するに当たっては、専門家のアドバイスを受けることが望ましいといえます。

Q49 不使用取消審判が請求されました。要証期間(審判請求の登録前から3年以内)での使用の事実はないのですが、使用の準備はしており、要証期間の経過後に実際に使用しています。 これで大丈夫でしょうか。 「正当な理由」があれば取消されないようですが、どのような場合に認められるのでしょうか。

A49 審判請求の登録前から3年以内に登録商標を使用していなくとも、その不使用について「正当な理由」があれば、不使用取消を防ぐことが可能です(商標法50条3項本文)。
「正当な理由」とは、裁判例上、地震・水害等の不可抗力によって生じた事由、放火・破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等公権力の発動に係る事由、その他の商標権者等の責めに帰すことができない事由が発生したために、使用することができなかった場合をいう、と解されています(知財高判平成19年11月29日(平成19年(行ケ)第10228号)等)。裁判例や審決で「正当な理由」が認められた具体例としては、薬事法や農薬取締法に基づいて使用ができなかった事例や、大地震が発生したことにより使用が妨げられたなどといった事例に限定されています。
そして、裁判例上、単に商標の使用の準備が進められていたという事実のみでは、「正当な理由」を認めることはできないと解釈されています(東京高判平成14年9月20日(平成14年(行ケ)67号)。よって、上述の裁判例に照らせば、今回のケースでは「正当な理由」は認められず、取消を免れないと思われます。

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Q50 当社は、2010年頃から、「iplawnet」の商品名でマスクを販売し続けています。大々的に宣伝広告を行ったこともあり、現在はかなり知名度が高いと自負しております。競合他社であるA社が、「Iplaw-Net」で衛生マスクを指定商品とした登録商標を1990年に取得していましたが、類似していないと考え放置しておりました。最近、類似品の問い合わせが入ってきたため調べてみると、A社が昨年末から「iplawnet」の商品名でマスクの販売を開始していたことを知りました。A社から商標権を行使されないかと不安なのですが、何とかならないでしょうか。

A50 A45で説明したとおり、①商標権者が故意に、②登録商標に類似する商標で、③他人の業務に係る商品と混同を生じるものを使用したときには、誰でもその商標登録の取消審判を請求できます(商標法51条1項)。したがって、今回のケースでは、A社の「iplawnet」という商品名の使用によって貴社の商品とA社の商品の混同を生じると主張して、「Iplaw-Net」という登録商標の取消審判を請求する、という対応が考えられます。
もっとも、「①商標権者が故意に」「②登録商標に類似する商標で」「③他人の業務に係る商品と混同を生じるもの」を使用したかどうかは、具体的な事実関係から判断されることとなります。したがって、今回のようなケースで、取消審判の請求を検討する場合には、専門家による個別具体的なアドバイスを受けることが望まれます。

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