知的財産権に関するQ&A 商標法(6) 商標権侵害(主に権利者側)


弁護士 伊藤 真愛
弁護士 大住 洋
弁護士 河合 哲志
弁護士 田中 伸顕

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も前回に引き続き、商標法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は、商標権侵害(主に権利者側)に関するご質問についてお答えいたします。なお、商標の「権利者」という時には、商標権者のほか、商標権者からライセンスを受けて商標を使用する使用権者を含む意味で用いられることがありますが、以下では、商標権者を念頭に置いてご説明します。

知的財産権に関するQ&A 商標法(6) 商標権侵害(主に権利者側)

Q51 他人の商標権を侵害するとどうなりますか。

A51 他人の商標権を侵害した場合は、商標権者より、差止請求(商標法36条1項)及び廃棄除却等請求(商標法36条2項)を受ける可能性があります。差止請求等を受ければ、使用している標章の変更が必要となりますし、既に標章を付した商品、包装、看板、店内表示、広告物及びホームページ等の廃棄や変更を余儀なくされ、事業に大きな影響を与えます。
また、商標権侵害は、損害賠償請求(民法709条)の対象ともなります。商標権侵害による損害賠償額は、商標法38条1項や2項等の適用の結果、高額となることも少なくありません。
さらに、粗悪な侵害品に登録商標を付して販売する等した結果、商標権者の業務上の信用が害された場合には、謝罪広告等の商標権者の業務上の信用回復に必要な措置を求められることもあります(商標法39条及び特許法106条)。
以上のほか、商標権侵害は、一定の場合に刑事罰の対象にもなりますので(商標法78条及び78条の2)、注意が必要です。

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Q52 商標権侵害は、色々なパターンがあるようですが、簡単に教えてください。

A52 ず、商標権は、指定商品・役務について、登録商標を独占的に使用できる権利ですので(商標法25条、これを「専用権」といいます。)、他人の登録商標と同一の商標を指定商品・役務と同一の商品・役務に使用することは商標権者の専用権を侵害する行為として商標権侵害となります。
次に、商標権者には、上記の専用権を実効的なものとするため、登録商標と類似する商標を、指定商品・役務と類似する商品・役務に使用する他人の行為を禁止する権利が与えられています(商標法37条1号、これを「禁止権」といいます。)。そのため、他人の登録商標と類似する商標を指定商品・役務と同一の商品・役務に使用する行為や、指定商品・役務と類似する商品・役務に使用する行為も商標権侵害となります。
以上が商標を使用することによる商標権侵害であり、これを整理すると次のとおりとなります。

以上のような商標権の専用権や禁止権を直接に侵害する行為(これを「直接侵害」といいます。)のほか、商標法は、商標権侵害を誘発しやすい一定の予備的・準備的行為についても商標権侵害とみなしており、これを商標権の間接侵害と呼んでいます(商標法37条2号ないし8号)。間接侵害について、詳細はQ57を参照してください。

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Q53 使用による商標権侵害の要件を教えてください。

A53  Q52でもご説明しましたとおり、商標の使用による商標権侵害(直接侵害)が成立するのは、①他人がある標章(マーク)を「使用」していること、②当該標章が登録商標と同一または類似すること、③当該標章が、指定商品・役務と同一または類似する商品・役務に使用されていること、をいずれも満たす場合です。なお、商標権は、「商標」(標章のうち、「業として」商品や役務を提供する者がその商品・役務について使用するもの〔商標法2条1項〕)の使用に関する権利であることから、ここでいう「使用」は業としての使用に限られ、ある標章を家庭内で使用する行為などは、商標の使用にあたらず、商標権侵害は成立しません。また、商標の「使用」それ自体も難しい概念です。具体的にどのような行為が商標の「使用」にあたるかについては、商標法2条3項に列挙されていますが、これらに該当する場合でも、その使用態様によっては、侵害が否定されることがあります(商標法26条1項)。この商標の「使用」の問題については、Q55やQ56の解説を参照してください。

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Q54 当社の登録商標と似た名前で、指定商品と同種の商品を売っている会社があります。相手の会社に対して、どのようなことが請求できるのでしょうか。

A54   貴社の登録商標と似た名前で、指定商品と同種の商品を販売する行為は、貴社の商標権の侵害行為といえます。この場合、Q52の解説のとおり、相手方の会社に対して、以下の請求を行うことができます。

・差止請求(商標法36条)
相手の会社に対して、商標権の侵害行為の差し止めや(商標法36条第1項)、これと併せて、侵害品の廃棄等を請求することができます(同条第2項)。具体的には、登録商標と似た名前の同種商品の販売の停止や、その商品の在庫の廃棄等を求めることが考えられます。

・不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)
相手の会社が、故意又は過失によって商標権侵害を行った場合、これによって貴社に発生した損害の賠償を請求することができます(民法709条)。
なお、商標法では、商標権者の立証責任を軽減するために、商標権侵害に関する過失を推定する規定や(商標法39条で準用される特許法103条)、発生した損害額を推定し又は算定を容易にする規定(商標法38条)があります。

・不当利得返還請求(民703条)
上記の不法行為に基づく損害賠償請求以外に金銭請求を行う方法として、商標の使用料相当額等を不当利得として返還請求する方法も考えられます(民法703条)。例えば、商標権侵害の損害及び加害者を知った時から3年が経過しており、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効によって消滅してしまった場合は(民法724条1号)、不当利得返還請求の行使を検討することが考えられます(なお、2020年4月から施行された改正民法では、不当利得返還請求権を含む一般の債権についても、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しない場合には時効によって消滅するとの規定が新設されました(民法166条1項1号)。そのため、商標権の侵害に気づいた場合には、早めの相談・対応を行うことが重要です。)。

・信用回復措置の請求(商標法39条で準用される特許法106条)
商標権侵害により貴社の業務上の信用が害された場合(例えば、相手の会社の商品が粗悪品であったため、貴社の商品の評判も落ちてしまった場合等)、信用の回復に必要な措置を請求することができます。具体的な措置としては、謝罪広告の掲載や謝罪文の配布等が挙げられます。

・その他、場合によっては、相手の会社の商標権侵害行為について刑事責任(商標法78条)を追及することも考えられます。

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Q55 商標の「使用」とは、具体的にどのような行為のことをいうのでしょうか。

A55 (1)商標法2条3項1~10号に定める「使用」
商標の「使用」に該当する行為は、商標法2条3項各号に細かく定義されています。各号に定義される「使用」行為の概要と、その具体例は次のとおりです。
なお、各具体例はあくまで各行為の一例にすぎませんので、実際の行為について商標の「使用」に該当するか悩まれた際には、是非、弁護士知財ネットやその他専門家にご相談ください。

①商品又は商品の包装に標章を付する行為(1号)
例)販売用のワインやその箱に、商標(商品名、ブランド名等)を刻印したり、商標を付したラベルを貼る

②商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(2号)
例)①で商標を付したワインを販売したり、店のショーウィンドウに陳列する

③役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為(3号)
例)喫茶店で利用する食器類に商標(店名等)を印刷する

④役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(4号)
例)③で商標を付した食器類を用いて、喫茶店で飲食サービスを提供する

⑤役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為(5号)
例)喫茶店で、商標(店名等)を刻印したコーヒーメーカーを店内に展示する

⑥役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為(6号)
例)クリーニング店で、クリーニング後の衣類に商標(店名等)を印刷したタグを付ける

⑦電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為(7号)
例)オンラインセミナーの映像に、商標(セミナー運営会社名等)を表示する

⑧商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(8号)
例)販売用のワインのカタログやCMに、商標(商品名、ブランド名等)を表示する

⑨音の標章にあっては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為(9号)
例)DVD再生時に鳴るサウンドロゴが音商標として登録されている場合に、当該DVDの販売のために、当該DVDを店頭のテレビで音声ありの状態で(サウンドロゴを含めて)再生する

⑩前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為(10号)
現時点では政令で定められている行為はありません。

(2)いわゆる「商標的使用」
ただし、商標権侵害と認められるには、商標法2条3項各号の行為に該当するだけでは足りず、商標が商品の出所や役務の提供主体を表す態様で使用されていること(いわゆる「商標的使用」と呼ばれます)が必要となります(商標法26条1項6号)。これは、商標の本質的な機能が、商品の出所や役務提供の主体を示すことにあるためです(「自他識別機能」、「出所表示機能」などと呼ばれます)。「商標的使用」に関する詳しい具体例についてはQ56をご確認ください。
なお、この「商標的使用」に関する論点は、従前は法律では明記されていませんでしたが、平成26年の商標法改正により商標法26条1項6号において明文化されました。

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Q56 次のような行為は、商標の使用にあたりますか。
   ① ノベルティとしてのTシャツに標章を付すこと(指定商品:被服)
② 株主総会の通知に標章を記載すること(指定商品:ソース)
③ ウェブサイトのトップページを表示するためのhtmlファイルに、メタタグとして標章が含まれる文章を記載して、google検索の表示にその文章を表示させること

A57 ①について
Tシャツに標章を付す行為は、原則的には、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」として、商標法2条3項1号に定める「使用」に当たります。

しかし、ノベルティへ付された商標は、あくまで別の商品や役務の宣伝広告を目的とするものであって、ノベルティ(Tシャツ)自体の出所を表示するものではないため、この点から、「商標的使用」に該当しないとみられる可能性があります(東京高判平成13年2月27日・判時1749号154頁)。
(なお、商標権侵害が成立するかという観点からすると、ノベルティは広告媒体に過ぎず、それ自体が独立の取引の目的物ではないため、そもそも、(指定商品と同一又は類似する)「商品」への使用に該当しないと判断する裁判例も複数あります(大阪地判昭和62年8月26日・判時1251号129頁等)

加えて、商標をTシャツの前面に大きくプリントするなど装飾・柄として使用されている場合には、それがブランドやメーカー等のTシャツの出所を表示しているとは認識されない可能性があるとして、「商標的使用」に該当しないと判断した裁判例もあります(大阪地判昭和51年2月24日・判時828号69頁)。但し、一方で、ブランドの商標(モノグラムマーク)をTシャツの柄として利用した事案で、「商標的使用」が認められた裁判例もあるため(大阪地判昭和62年3月18日・無体集19巻1号66頁)、他人の商標を「装飾・柄」として使用すれば商標権侵害にならないというわけではありませんので、注意が必要です。

②について
商標法2条3項各号に定める「使用」のうち、商品商標の利用に関するものは以下のとおりです。
・商品又は商品の包装に標章を付する行為(1号)
・商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(2号)
・商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(8号)
株主総会の通知に商標を掲載する行為は、上記いずれにも該当しないため、「商標の使用」にはあたりません。

③について
google検索結果で表示されるトップページの説明文は、このページの商品・役務に関する広告といえます。そのため、メタタグとして標章が含まれる文章(トップページの説明文)を記載し、google検索結果において当該文章を表示させる行為は、商標法2条3項各号に定める「使用」のうち、「商品又は役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(8号)に当たると考えられます。
また、google検索結果において、標章が含まれる文章がトップページの内容の説明文として表示された場合、この標章がこのページの商品・役務の出所を表示していると考えられるため、「商標的使用」に該当すると考えられます。
そのため、メタタグとして標章が含まれる文章を記載し、google検索の表示にその文章を表示させる行為は、「商標の使用」に該当すると考えられます(大阪地判平成17年12月8日・判時1934号109頁、東京地判平成27年1月29日・判時2249号86頁等)。

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Q57 商標を使用していなくても商標権侵害になる場合があると聞きました。どのような場合でしょうか。

A58  登録商標と同一・類似の商標を、指定商品・役務と同一・類似の商品・役務に使用しなくても、その予備的な行為についても商標権侵害とみなすとされています(商標法37条2号から8号)。これを間接侵害と呼びます。
例えば、マグカップで例えると、次の行為が商標権侵害とみなされています。
①登録商標の指定商品がマグカップとされている場合において、登録商標が付されたマグカップを、譲渡するために所持する行為(2号)。

 ②登録商標の指定役務が飲食物の提供とされている場合において、登録商標が付されたマグカップを、飲食物の提供に供するために所持する行為(3号)。

 ③登録商標の指定役務が飲食物の提供とされている場合において、登録商標が付されたマグカップを、飲食物の提供をさせるために、譲渡する行為(4号)。

 ④登録商標を使用するために登録商標の表示がある包装容器を所持する行為(5号)。

 ⑤登録商標を他人に使用させるために、登録商標の表示がある包装容器を譲渡するために所持する行為(6号)。

 ⑥登録商標を自らが使用するために、登録商標の表示がある包装容器を製造する行為(7号)。

 ⑦登録商標を表示する包装容器を製造するためにのみ用いる機械を、業として製造する行為(8号)。

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Q58 当社の商標権を侵害していると思われる会社に対して、警告書を送ろうと考えています。どのような内容で、どのような方法で送ればいいでしょうか。また、相手の会社の取引先に送ってもいいでしょうか。

A58 1 警告書の内容
相手方が使用している標章が自社の登録商標と同一又は類似すること、及び相手方の標章が使用されている商品・指定役務が自社の登録商標のそれと同一又は類似することを指摘するとともに、製造や販売の中止を求める内容を記載することになります。
また、商標権侵害の範囲を明らかにし、差止の対象や損害賠償請求額を検討するため、相手方に問題の商品の製造開始日などの一定事項の開示を求める内容を記載することもあります。
このように警告書に記載すべきことは多岐にわたるとともに、その内容について専門的な判断を必要とされます。そのため、警告書の発送を検討されている場合には、是非、弁護士知財ネットにご相談ください。

2 送付の方法
警告書を発したこと明確にするため、内容証明郵便により送付することが望ましいです。

3 取引先への送付の可否
相手方の取引先への警告書の送付は、慎重に検討する必要があります。なぜならば、取引先に警告書を送付した後、実際は侵害行為にあたらなかった場合や商標が無効になったような場合に、相手方から信用毀損行為(営業誹謗行為、不正競争防止法2条1項21号)や名誉毀損等を理由に損害賠償請求などを受ける可能性があり、多数の裁判例もあるからです。
したがって、まずは相手方のみに警告書を送付し、一定期間経過しても問題の商品が販売され続けているなど対応がなされない場合は、弁護士に相談の上、法的措置を検討する、といった順番で対応するのが無難かと思われます。このような場合も、是非、弁護士知財ネットにご相談ください。

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Q59 ウェブ上の大手ショッピングモールで商品を検索してみたところ、当社の商標権を侵害するのではないかと思われる商品が見つかりましたが、出品者が特定できません。ショッピングモール運営者にその商品のページを削除してもらうことはできないのでしょうか。

A59 商標権侵害を理由に、削除してもらえる余地があります。
ウェブサイトの運営者において、出店者による商標権侵害の存在を知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当な理由があるに至ったときは、その後合理的期間内にウェブページから削除されない限り、商標権者は、運営者に対し、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができるとされています(知財高判平成24年2月14日・判時2161号86頁)。
そのため、上述した理屈により、そのウェブサイト上の削除フォームに対して商標権侵害を警告する内容を記入の上削除の申請をしたり、同様の内容を記載した内容証明郵便を運営者に送付したりする方法が考えられます。それでも削除されない場合は、当該ウェブサイトに対し、削除請求の仮処分の申立もしくは訴訟を提起する方法があります。

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Q60 ある会社が当社の商標権を侵害していると考えています。弁護士に相談に行くにあたり、準備しておいた方がよいものはありますか。

A60 一般的には、以下の資料を事前にご準備いただけると、初回相談がスムーズに進行すると考えられます。

・対象となる商標権の商標公報
・出願関係資料、審判等資料(包袋(ほうたい))
・(必要に応じ)商標登録原簿
・商標権が侵害されている状況が分かる資料(侵害品そのもの、販売元、販売価格・数量、販売場所・態様、販売開始時期がわかる資料等)。

なお、商標公報は、特許庁や発明協会で閲覧することができ、公開された公報については順次特許情報プラットフォームのデータベースに蓄積されていますので、インターネットを利用して特許を検索することも可能です。
商標登録原簿の閲覧や謄本の入手は、特許庁や各地方の経済産業局特許室等で可能です。
また、一般社団法人発明推進協会財団法人日本特許情報機構を通じて、登録原簿謄本を入手することも可能です。

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