営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第14回|秘密情報とその他の情報、明確に区別して管理されていますか?


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第14回

秘密情報とその他の情報、明確に区別して管理されていますか?

弁護士知財ネット九州沖縄地域会
弁護士 網谷拓(福岡県)

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1 はじめに

中小企業の方から秘密情報の漏洩に関する相談を受けた際、その漏洩した情報の会社における重要性を強調されます。
しかし、既に本コラムにてご指摘済みの通り、不正競争防止法上の保護を受けるためには、「営業秘密」(「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」・不正競争防止法2条6項)と認められる必要があります。そして、認められるためには、その情報が①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業活動にとって有用であること(有用性)、③公然と知られていないことの3要件を充たす必要があります。
なお、①の秘密管理性が認められるためには、企業の「特定の情報を秘密として管理しようとする意思」が具体的状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって、従業員に明確に示され、結果として、従業員がその意思を容易に認識できる(「認識可能性」が確保される)必要があるとされています(秘密情報の保護ハンドブック P1)。
そうすると、情報の重要性は、②の有用性を意味するものではありますが、①の秘密管理性が認められなければ、不正競争防止法上の保護を受けることが出来ません。

2 現場における情報管理の例

相談を受けた後、実際の情報管理の現場に行くと、様々なケースがあることが分かります。
例えば、

● 別のサーバーに当該情報は管理されているものの、この別サーバーにはパスワード等の設定がなされておらず、IPアドレスを把握していれば、社内のパソコンからアクセス可能となっているもの、

● 部門長ごとに情報管理に対する認識に差があることを放置していた結果、ある部署では当該情報へのアクセスがパスワード設定等により制限されていたのに対し、別の部署からのアクセスはパスワードなしで可能な状態となっていたもの

● 書類の状態で、鍵付きのロッカーにて保存していたが、そのうち、重要だが頻繁に利用する書類も同じロッカーにて保存するようになり、結果、鍵をかけなくなってしまい、誰でも取り出し可能となったもの(目的外使用の禁止等について周知徹底もされていないもの)

 などがありました。
上記各場合には、前記①の要件を充たさず、情報が秘密として管理されていたとはいえないと判断される可能性が高く、そのため、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護される可能性は低いと言わざるを得ません(なお、顧客名簿の収納に施錠がないにもかかわらず、秘密管理性を肯定する判決(大阪地判平成8年4月16日・男性用かつら事件)、パスワード等によるアクセス制限、秘密であることの表示等がなかったにもかかわらず、秘密管理性を肯定する判決(大阪地判平成15年2月2日・セラミックコンデンサー事件)等も過去に存在しますが、経済産業省「営業秘密管理指針」に基づけば、施錠、アクセス制限はきちんと行うべきです。)。

3 秘密情報の管理は自社の強みを認識する機会ととらえる

現場の状況を目の当たりにし、改善すべき旨アドバイスすると、中には、費用の面(「当社にそんな金はない。」)、手間の面(「当社にそのような人的余裕はない。」)などで難色を示される場合があります。また、「当社にとってこの情報が重要なのは、従業員であれば当然わかっている。なぜそこまでしなければいけないのか。」などと言われることもあります。
確かに、上記各意見はもっともな面もありますが、改善をしなければ営業秘密として法的保護を受けられない可能性が高いこと、また、情報管理を、単純にコストと考えている認識を変えていただくよう、説明をしています。
すなわち、情報管理は、重要な情報とそうでもない情報の区別・整理、重要な情報のうち、秘密管理すべき情報とそうでない情報の区別・整理の機会を与えるものです。
この区別・整理の過程で、自社の強みを認識し、その強みを守り、活かすために秘密管理すべき情報を絞れば、コスト面の問題もある程度はカバーできますし、会社内で、秘密情報の範囲を共有できます。それによって、会社全体がその強みを活かすことを考えるようになり、最終的には、会社の利益につながると筆者は考えます。
現に、上記のような意識を持ち、秘密管理規定を設け、情報の区別(秘密情報とそのほかの情報)を徹底し、従業員に秘密情報管理の方法、管理対象となる秘密情報をわかりやすくA4用紙1枚にまとめたペーパーを配布している企業もありました。その会社は、自社の強みを把握でき、営業活動が行いやすくなったと話していました。

4 小括

営業秘密の管理といいますと、「どのように管理すべきか」という方向にばかり目がいく結果、管理の手間、費用等に目が行きがちです。
しかし、秘密情報とそのほかの情報との区別、整理の過程で、自社の強みを認識・確認できるので、営業活動にも有益です。また、中小企業の中には、ノウハウ、技術力等が、まさに会社の強みとなっている場合があります。
これらの会社(特に九州・沖縄地域)が発展していくよう、九州・沖縄地域の弁護士でサポートできる体制をさらに構築していかなければならないと感じています。

5 その他の問題点

情報漏洩は、退職者等によって行われることが往々にしてあります。そして、情報漏洩の事実が発覚した後、会社から、「支払った退職金を返してほしい。」もしくは、「退職金を支払いたくない。」という相談を受けることがあります。
この点は、すでに従業員は退職しており、懲戒の対象とならないこと、退職金は継続労働に対する賃金、及び、功労報奨的性格を有していることから、退職金支給制限規定が存在し、その規定に合理性がなければ困難な場合が多いと考えられます(対応等の詳細につきましては、本コラム第11回「退職従業員による秘密漏洩を防止するために企業がとるべき方策」室谷和彦弁護士著 をぜひご覧ください)。

以上

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