営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第19回| 証拠収集から見る営業秘密 -必要性と正当な理由を中心に-


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第19 回

証拠収集から見る営業秘密 -必要性と正当な理由を中心に-

弁護士知財ネット
農水法務支援チーム事務局
弁護士 外村玲子

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本年もどうぞよろしくお願いいたします。本メールマガジン第18号では、平成29年に出された営業秘密に関する裁判例が網羅的に紹介されました。訴訟になった場合、文書等の客観的証拠による立証活動が重要であることは言うまでもありません。しかし、営業秘密漏洩の事例では、問題となる情報が社内文書に記載されている等、客観的証拠が一方の当事者に偏在する場合が多いと言えます。そのため、不正競争防止法7条として文書提出命令に関する規定が用意されています。実際の裁判例を題材に、文書提出命令がどのような場合に認められるか、証拠収集の側面から営業秘密について検討したいと存じます。

本メールマガジン第18号で紹介されたように平成29年にも多数の営業秘密に関する裁判例が出されました。訴訟になった場合、裁判官は原則として証拠に基づいて事実を認定するため、証拠をもって裁判官を説得することが重要です。なお、証拠は、民事訴訟法181条により「裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは取り調べることを要しない。」と規定しているため、裁判所に証拠として取り調べてもらうためには、必要性が要件となります。

そして、証拠の中でも特に書証(契約書、発注書、手紙、議事録等の文書の証拠)は、内容が文書そのものから明確であること、時間の経過によっても内容が変わらないこと等から「証拠の王」と呼ばれ、訴訟手続において重視されています。

このように訴訟手続で重要な証拠である書証ですが、営業秘密漏洩の事例では、問題となる情報が社内文書に記載されている等、客観的証拠が一方の当事者に偏在する場合が多いと言えます。そのような場合、書証が手元にない当事者は諦めるしかないというとそうではありません。

一般法である民事訴訟法(220条)には、裁判所が一方の当事者の申立に基づいて立証に必要な文書の提出を所持者に対し命令する(文書提出命令)制度があります。さらに、特別法である不正競争防止法7条にも文書提出命令の規定があります(「裁判所は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。」)。技術上の営業秘密の不正取得及び不正使用に関する営業秘密侵害訴訟において、原告が侵害の事実についての立証責任を負いますが、被告が原告のどの営業秘密をどのように使ったかという事実についての証拠を原告が入手し証拠として提出することは事実上極めて困難です。不正競争防止法7条の規定の趣旨は、被告側に偏って存在する証拠の入手を容易にし原告の立証の負担を軽減し権利保障の実効性を確保することにあります。

以上のとおり、民事訴訟法181条の規定及び不正競争防止法7条の規定から、文書提出命令を受けるためには、①証拠としての必要性と②書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当事由がないことを裁判所に説明する必要があります。

では、営業秘密が問題となった事案において、どのような場合に、かかる文書提出命令が認められたか、裁判例(東京地決平成27年7月27日(平成27年(モ)第273号)(いわゆる新日鐵住金営業秘密事件))に基づいて検討したいと思います。

本件の基本となる事件は,日本の大手製鉄会社(申立人)が韓国の大手製鉄会社(相手方)に対し、相手方が申立人の元従業員等を通じて申立人が開発した技術情報である営業秘密を不正に取得し使用したなどと主張し、営業秘密の使用差止め及び損害賠償等を請求する事案です。文書提出命令申立てにおいて、申立人は,本件申立対象文書(「本件文書」)は,いずれも不正競争による営業上の利益の侵害行為を立証するために必要な書類であると主張しました。裁判所は「当事者間の衡平の観点から模索的な文書提出命令の申立ては許されるべきではないことや,当事者が文書提出命令に従わない場合の制裁の存在等を考慮すると,不正競争防止法7条1項における証拠調べの必要性があるというためには,その前提として、侵害行為があったことについての合理的疑いが一応認められることが必要であると解すべきであるとした上で、相手方が本件技術情報の少なくとも一部を取得したことが認められ,本件技術情報がHGOの製造プロセス及びその仕上焼鈍設備に関する技術情報であること,相手方がHGOの製造業者であること,相手方は,申立人のもと従業員ないしその関連会社と技術協力契約等を締結した上,本件技術情報の少なくとも一部の取得に先立ち合計数億円を支払っていることなどからすれば,現段階においては,本件技術情報の不正取得及び不正使用があったことの合理的疑いが一応認められるというべきであるから,基本事件の争点との関連性が認められる本件文書については,証拠調べの必要性が認められる」などと判断しました。

このように、技術情報の一部の取得、技術情報の具体的内容、相手方の業務内容、相手方と元従業員の間の金銭のやりとり等を主張することで、証拠調べの必要性が認められています。

秘密情報に関する文書は訴訟の帰趨を大きく左右すると言えるため、文書提出命令制度の重要性と利用価値をお伝えできれば幸いです。

以 上

 

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