営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第28回|「我が社でも検討すべき?」AI・IoTの活用とデータ保護の問題について


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第28回

「我が社でも検討すべき?」AI・IoTの活用とデータ保護の問題について

弁護士知財ネット 九州・沖縄地域会
弁護士 青山隆徳

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はじめに

「第四次産業革命」の呼び名と共に、人工知能(AI)を活用し幅広いデータを収集・解析する事業が次々に生まれています。その中で、これまではシステム活用と縁のなかった事業者においても、農業とデータの活用(アグリテック)などの場面で、自らの管理するデータを提供して新たなサービスを享受する動きが広がっています。

このような場面におけるデータの取扱を巡る問題について、既に多数の書籍・論稿が発表され、また、経産省からも詳細な契約ガイドラインなどが示されております(※1)。

詳細な説明はそれらの資料に譲るとして、本稿では、そもそも中小企業において「AIの活用」をはじめて考える利用企業を対象に、AIを利用するシステムを導入し、または新たに開発する際に、自社の営業秘密をはじめとする情報をどのように取り扱うべきか、基本的な検討点を整理いたします。

また、不正競争防止法の平成30年の改正(※2)についても簡単に紹介します。

【参考資料】

※1 AI・データの利用に関する契約ガイドライン(経済産業省ウェブサイト)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001.html

(ガイドライン本文PDF)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-1.pdf

※2 不正競争防止法改正概要資料(詳細版 経済産業省ウェブサイト PDF)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/H30nen_fukyohoshosairev3.pdf

1 AI・IoTの適用場面の急拡大と営業秘密

はじめに、AIを利用するサービスについて、非常に大まかにですが紹介します。

以下では、システム開発やAIでの情報解析サービスを提供する当事者を「ベンダー」これらのシステムを利用する企業などを「ユーザー」と呼ぶこととします。

  • AIを利用した学習とは

【図表1】は、AIを利用した学習について説明したものです。

AI(人工知能)とは、AIのプログラムが、学習の素材となる多数のデータ(学習用データ)を学習することで、人間が予め解析方法を特定することなく、コンピュータプログラムが機械的にデータの規則性を発見し、画像解析や音声認識による言語処理等、新たな指示・データを分析することができるプログラム(学習済モデル)となるものです。

このような手法を用いることにより、従前は数値化された情報の処理が中心であったものが、写真、動画、音声、そして温度その他の規則性が発見されていないあらゆる検査数値のデータを自動的に解析したり、新たなデータ等を創造することができるようになりました。

【図表1】

(H29.2知的財産戦略本部「 新たな情報財検討委員会報告書 」より引用)

  • AIを利用するために必要なもの:学習用データ+業種別ノウハウ

以上のAIの特徴から、AIを利用するプログラムを作成するためには、

  • 解析の材料となる学習用データを取得すること
  • 学習用データとして何を、どのように用いるかを選択すること
  • 学習の方法によっては(教師あり学習)、正解となるデータを整理すること

が重要となります。

この点、ベンダーはシステム・ソフトウェア開発の技術・知見を有するものの、解析対象となるユーザーの事業(農業、工場での製造、医療)のデータは保有しておらず、自社単独では学習済モデルを完成することはできません。

そのため、AIを利用するサービスを提供するには、学習用データを保有するユーザーと提携し、データを収集する必要があります(①)。

また、解析対象のデータによっては(例えば、画像診断でレントゲン、CT等の画像から癌を発見するプログラムを開発する場合など)、ベンダーがどのようなデータを学習用データとするか、データをどのような方法で解析するのかについても、ユーザーの助言が必要となります(②③)。

  • ユーザーが提供する情報と営業秘密

このように、AIサービスの展開のためには、ユーザーの保有するデータの提供が必要となります。そして、これらの情報には、そもそもユーザーが外部にこれまで提供していなかったもの、あるいは「ノウハウ」として秘密にしていた情報が含まれることが少なくありません。

それゆえ、AIサービスを導入する場合には、ユーザーがこれらの情報をベンダーに提供することを前提に、その取扱を予め検討する必要があるのです。

2 提供されるデータについての法律上の保護

ところで、提供するデータについては、法律上はどのような保護があるのでしょうか。
以下、農業に関する仮想事例を中心に検討したいと思います。

(1)事例

農家A(ユーザー)は、ビニルハウスによる大規模なイチゴの生産を行っている。

Aにおいては従前からハウス内気温については測定しており、栽培経過に応じて独自の温度管理方法を検討し、現時点で最適と考える温度管理方法をノウハウとして確立し、一般の製品よりも甘みが高いイチゴを生産することに成功している。
今回、B社(ベンダー)と提携して、ビニルハウス内で栽培している農作物についての日々の日照時間、外気温、ハウス内気温(温度管理)、給水量のデータを継続的に取得し、日照時間に応じた最適な給水及び温度管理の在り方を分析することとした。機器はBが準備し、データはBと共有することとしている。なお、ハウス内の温度計、給水計はハウス入り口の目立つところにあり、作業に従事する者であればだれでも確認できる。
Aは、今回のデータを利用して、さらに甘みの高いイチゴを栽培したいと考えている。また、Bも今回の学習により得られた学習済モデルを利用し、また将来的にさらにこれを多数のイチゴ農家に利用してもらうことで、イチゴ栽培に適する給水量と気温の関係を明らかにしたいと考えている。

(2)データに関する法律上の保護

この点、データに関する法律上の保護については、不正競争防止法改正概要資料詳細版(前掲※2)8頁において、【図表2】のとおり整理されています。

【図表2】

(経済産業省知的財産政策室「不正競争防止法平成30年改正の概要」8頁より引用)

これらの法制度のうち、②特許権(特許発明)については、権利化に際して公開されることから、秘密として保護しようとするニーズに応える制度ではありません。

また、図表2の「限定提供データとの比較」にあるように、①著作権(データベース著作物)及び②特許権については、単なる情報ではなく創作性を必要とするため、例えば工場データ等は保護され難いものとなります。

これに対し、③営業秘密は創作性のような条件はありませんが、秘密として適切に管理されていること(秘密管理性)を必要とします。秘密管理性については本コラムでも何度も説明があるように、一定のアクセス制限等を適切に行う必要があることから、当初からそのような制限を想定していない場合や、業務において不可避的に全従業員に共有されるデータなどは、営業秘密としての保護が難しいものとなります。

限定提供データ、債務不履行については後述します。

(3)本事例の温度、給水量等のデータが保護されるか

① 特許権・著作権

今回Bが取得するデータは、それ自体は経時的な気温、給水量などの情報にすぎません。これらのデータは単なる情報にすぎず、創作性がないことから特許権、著作権の保護対象とはし難いと思われます。

② 営業秘密

温度等のデータについては農作業に必要なデータとして作業員と共有する必要があるうえ、表示を隠すことも難しいことから、秘密管理性を満たすものとは言い難いものです。
以上から、学習用データを構成する温度・給水量等のデータ自体は、従前の特許権、著作権による保護、または営業秘密としての保護が難しいと思われます。

(4)過去の温度管理方法のノウハウ等はどうか

① 著作権

温度管理等のノウハウを文書や図面等で整理したマニュアルについては、著作権による保護の対象となります。よって、これを無断複製・転載することは当然ながら禁止されます。

② 特許権

過去の温度管理等のノウハウは、それが通常の栽培と顕著な相違を生むものであれば、発明として評価される可能性はあり、特許権の対象となり得ます。
しかし、ハウスの温度管理は、基本的に関係者以外の者が外部から把握できるものではありません。そのため、最適な温度設定そのものを出願することについては、出願公開により流用されるリスクがあるうえ、流用を発見できない可能性が高いことから、適切でない場合が多いと考えられます。

③ 営業秘密

単に栽培中の気温ではなく、気温をどのように調整するかという方法(ノウハウ)は、公開されていないもので適切に秘密管理をしていれば、営業秘密としての保護がなされます。
したがって、温度管理方法を整理したマニュアルや、実際の管理方法については、適切な秘密管理がなされていれば営業秘密に該当します。
本事例においても、AがB社に対し、従前の温度管理内容を報告し、また人工知能による分析に際してこれを基礎として具体的に助言するなどした場合には、それらは営業秘密として保護の対象となる可能性があります。

(5)小括

以上のとおり、学習用データを提供する場面においては、

① 学習用データとして提供するデータそのものは、著作権・特許権・営業秘密としての保護を受けがたいこと
② 既存のユーザーのノウハウとなる部分を利用して学習を行う場合には、ユーザーの既存の営業秘密の提供を必要とする場面があること

に留意する必要があります。

3 AI開発におけるベンダー・ユーザーの目的

以上が、AIの開発・導入についての法律上の整理となります。

ところで、ユーザーがベンダーにノウハウやデータを提供すること自体は、一般的なシステム開発でも少なくありませんでした。しかし、従前はノウハウの開示についてのリスクの指摘などはあまり見られませんでした。

これに対して、AIの開発、導入でこの点が強調されるのは、AIによる情報解析サービスに関する、ベンダー側の以下のニーズがあるためです。

【ベンダーのニーズ】

① 多数のユーザーから学習用データを収集し、より精度の高い学習済モデルを完成させたい
② 精度の高い学習済モデルを,同種業者に横展開することで収益を得たい
③ 学習用データについては流用の必要は無いが、学習済モデルについてはベンダーに権利を帰属させておきたい

このうち、①についてはユーザー側にも不利益となるものではありませんが、②については、ユーザーがAIの導入により差別化を図ろうとしているならば、避けなければならないところです。

また、③については、学習済モデルが単にユーザーの情報を解析しただけのものであればやむを得ない場合もありますが、ユーザーのノウハウが反映されている場合、直ちにそのような扱いとすべきか、慎重に検討する必要があります。

そのため、ユーザー側においても、AIサービスの導入の目的を明確にし、提供する情報の範囲を厳選する必要があります。

【ユーザーの検討点】

① AI導入が製品・サービスの差別化を目的とするものか、効率化を目的とするものか、あるいは開発の共同主体となる意図があるかを明確にする

(ア) 差別化が目的となる場合には、当初からベンダー側のサービスの横展開を避けるよう協議する必要がある
(イ) 効率化が目的である場合には、自社の内部情報(学習用データ)を直接流用されないような取決めをしておくことは必須だが、それ以外の条項については比較的柔軟に対応できる。ベンダー側の横展開を承認することで低コストでAIサービスの導入をすることも検討できる。
(ウ) AIサービスの作成について、既存の製造ノウハウを提供したりする場合には、原則的には横展開を禁止する(いわば1社オーダーメイドでの)開発案件として発注することが望ましい。また、提供するノウハウが高度である場合には、共同開発とすることも検討に値する。

② 提供する情報の範囲を検討する

(ア) 個人情報や自社内部の詳細なデータが学習用データとして用いられる場合、学習済モデルにおいて、そのまま流用されないよう、仕様を確認し、契約に反映する
(イ) ノウハウ等を提供する場合、データとノウハウを契約等で明確に切り分ける。
(ウ) 学習用データそのものの取得、保管、削除のルールを明確にする。

4 ベンダーとユーザーとの間の契約による保護

以上を踏まえ、AIサービスの導入に際しては、必ず契約を締結する必要があります。

この契約については、大きく以下の種類のものがあります。

① 新規にAIサービスの開発(学習用データによる学習済モデルの構築)を依頼する開発委託契約
② 既存のAIサービスについて、ウェブサービスとして提供を受ける利用契約
③ ①についての共同開発や,共同事業として行う契約
④ ①②の導入に際して、実際のデータを用いて検証を行うための契約(導入検証・POC・実証実験に関する契約)

各契約における契約条項は、本コラムの範囲を超えてしまいますので、冒頭の参考資料などを確認頂ければと存じますが、AIサービスに関しては、前項のように学習済モデルの権利帰属や学習用データの取扱などを適切に取り決める必要があります。

この点について、例えば冒頭のAI・データの利用に関する契約ガイドライン AI編80頁以下にはモデル契約例が掲載されており、一例として以下のような条項が提示されています。

【AI・データの利用に関する契約ガイドライン AI編 102頁~ 契約条項例】

(1) 定義条項の記載方法

第2条(定義)

1 データ

電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の方法で作成される記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)をいう。

2 本データ

別紙「業務内容の詳細」の「本データの明細」に記載のデータをいう。

3 学習用データセット

本データを本開発のために整形または加工したデータをいう。

4 学習用プログラム

学習用データセットを利用して、学習済みモデルを生成するためのプログラムをいう。

5 学習済みモデル

特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラムをいう。

6 本学習済みモデル

本開発の対象となる学習済みモデルをいう。

7 再利用モデル

本学習済みモデルを利用して生成された新たな学習済みモデルをいう。

8 学習済みパラメータ

学習用プログラムに学習用データセットを入力した結果生成されたパラメータ(係数)をいう。

9 知的財産

発明、考案、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)および営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。

10 知的財産権

特許権、実用新案権、意匠権、著作権その他の知的財産に関して法令により定められた権利(特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利を含む。)をいう。

11 本件成果物

別紙「業務内容の詳細」の「ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細」に記載された成果物をいう。

定義条項では、以上のように学習用データ、プログラム、学習済モデル、それを利用した再利用モデルなどにつき、分けて定義する必要があります。

(2)ユーザー提供データの取扱い

第13条(ユーザ提供データの利用・管理)

1 ベンダは、ユーザ提供データを、善良な管理者の注意をもって管理、保管するものとし、ユーザの事前の書面による承諾を得ずに、第三者(第9条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならないものとする。

2 ベンダは、事前にユーザから書面による承諾を得ずに、ユーザ提供データについて本開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。ただし、別紙に別段の定めがある場合はこの限りではない。

3 ベンダは、ユーザ提供データを、本開発遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員に限り開示するものとし、この場合、本条に基づきベンダが負担する義務と同等の義務を、開示を受けた当該役員および従業員に退職後も含め課すものとする。

4 べンダは、ユーザ提供データのうち、法令の定めに基づき開示すべき情報を、可能な限り事前にユーザに通知した上で、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示することができるものとする。

5 本件業務が完了し、もしくは本契約が終了した場合またはユーザの指示があった場合、ベンダは、ユーザの指示に従って、ユーザ提供データ(複製物および改変物を含む。)が記録された媒体を破棄もしくはユーザに返還し、また、ベンダが管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。ただし、本条第2項での利用に必要な範囲では、ベンダはユーザ提供データ(複製物および改変物を含む。)を保存することができる。なお、ユーザはベンダに対し、ユーザ提供データの破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。

6 ベンダは、本契約に別段の定めがある場合を除き、ユーザ提供データの提供等により、ユーザの知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。

7 本条の規定は、前項を除き、本契約が終了した日より●年間有効に存続するものとする。

ユーザー提供データそのものについては、AIサービスの導入目的にかかわらず、このように原則として第三者提供を禁止する条項を置くことが一般的かと思われます。

(3)秘密情報の取り扱い

第14条(秘密情報の取扱い) 1 ユーザおよびベンダは、本開発遂行のため、相手方より提供を受けた技術上または営業上その他業務上の情報(ただし、ユーザ提供データを除く。)のうち、次のいずれかに該当する情報(以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、秘密情報の開示者の事前の書面による承諾を得ずに、第三者(本契約第9条に基づく委託先を除く。) に開示、提供または漏えいしてはならないものとする。

① 開示者が書面により秘密である旨指定して開示した情報

② 開示者が口頭により秘密である旨を示して開示した情報で開示後●日以内に書面により内容を特定した情報。なお、口頭により秘密である旨を示した開示した日から●日が経過する日または開示者が秘密情報として取り扱わない旨を書面で通知した日のいずれか早い日までは当該情報を秘密情報として取り扱う。

〔③ 学習用データセット〕

〔④ 本学習済みモデル〕

〔⑤ 再利用モデル〕

秘密情報の条項は一般的なものとなっていますが、学習用データセット等について秘密情報として取り扱うかについて、モデル契約例では明示することも検討されており、参考となります。

(4)AIプログラム・学習済モデルの権利帰属

第16条(本件成果物等の著作権)

【A案】ベンダに著作権を帰属させる場合

1 本件成果物および本開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、ユーザまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダに帰属する。

2 ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。

【B案】ユーザに著作権を帰属させる場合

1 本件成果物および本開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ユーザに帰属する。なお、かかるベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。

2 ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。

【C案】ユーザ・ベンダの共有とする場合

(略)

第17条(本件成果物等の特許権等)

1 本件成果物等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許権等」という。)は、本件成果物等を創出した者が属する当事者に帰属するものとする。

2 ユーザおよびベンダが共同で創出した本件成果物等に関する特許権等については、ユーザおよびベンダの共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、ユーザおよびベンダは、共有にかかる特許権等につき、本契約に定めるところに従い、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとする。

3 (略)

第18条(本件成果物等の利用条件)

【A案】原則型

ユーザおよびベンダは、本件成果物等について、別紙「利用条件一覧表」記載のとおりの条件で利用できるものとする。同別紙の内容と本契約の内容との間に矛盾がある場合には同別紙の内容が優先するものとする。

【B案】ベンダ著作権帰属型(16条A案)の場合のシンプルな規定

ベンダは、本件成果物等を利用でき、ユーザは、本件成果物をユーザ自身の業務のためにのみ利用できる。

【C案】ユーザ著作権帰属型(16条B案)の場合のシンプルな規定

ユーザは、本件成果物等を利用でき、ベンダは、本件成果物等を本開発遂行のためにのみ利用できる。

ここでいう成果物には学習済モデルが含まれ、この帰属がサービス提供をいずれが行いうるかの基本的な指針となります。モデル契約例は学習済モデルの権利帰属については、通常の開発案件と同様、著作権の帰属と特許権の帰属について分けて規定しています。
注意としては、AIプログラム自体は一般にベンダーまたは第三者が契約以前に完成させていることが多いと思われることから、ベンダー帰属とすることを主張される可能性が高いと思われます。そのため、ここでいう成果物に学習済モデルが含まれるとしても、その権利のみを取得しても、ベンダーの協力なしにサービスの提供を受けることは難しいと思われます。
そのため、成果物の利用条件については、モデル契約例では権利帰属と別に明瞭にその範囲を記載しています。契約時にこのような合意ができれば、利用範囲についての疑義が生じない点で有益と思われます。
また、本項で検討してきたノウハウ等については、ここでいう著作権の直接の対象となるものではありません。したがって、ノウハウ等の権利帰属とこの成果物の著作権の帰属が直接リンクするものでもありません。
ユーザーからしますと、ユーザーのノウハウが強く反映されていれば、自己の権利と主張したいところである反面、ベンダーとしては、やはり現実に学習済モデルを構築するのがベンダーである以上、ベンダーの権利帰属とすること、ひいてはベンダーのブランドでサービスを展開することを強く望むものです。
双方の要望が強い場合には、共同事業とできるかなどを検討する必要があるなど、契約の成否に大きな影響を与える部分となりますので、ユーザーにおいても、自社のニーズがどの点にあるかを見極めながら、検討・交渉を行う必要があります。

条項の適否については、個々の案件によって、またユーザーの目的によっても変わるところですので、資料をご確認頂き、専門家の助言を得ることを推奨いたします。

5 平成30年改正による「限定提供データ」としての保護の可否

以上が従前の対応でしたが、平成30年の不正競争防止法の改正により、一定の類型のデータが「限定提供データ」として、データ自体を不正競争防止法において保護することとなりました。
限定提供データとされるものの具体例は【図表3】を参照下さい。

【図表3】
(経済産業省知的財産政策室「不正競争防止法平成30年改正の概要」7頁より引用)

保護の要件は、

① 提供対象者が限定されていること(ID・パスワードなどで保護されていること)
② 電磁的方法(コンピュータ等)により管理されていること
③ データが相当量蓄積されていること

となります。
各要件に該当するかの詳細な整理は、今後の裁判例の集積やガイドライン等を待つこととなりますが、基本的には具体例のように、所謂ビッグデータとして継続的かつ大量に収集されたものが対象となります。

【不正競争防止法 第2条第7項】

この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。

かかる立法により、AIサービスの導入に際してのデータ提供の場面でも、学習用データとして提供したものが、ベンダー以外の外部の者に漏洩した場合には、データ提供者(ユーザー)の保護の範囲が広がることとなります。
しかし、ベンダー自身が当該データをどの範囲で利用可能かについては、依然として契約によることとなりますし、AIサービスにおいては学習用データが学習済モデルでそのまま利用されるわけではないことから、不正利用の立証が困難である点には変わりありません。
そのため、引き続き前項の契約上の保護について、適切な対応を頂く必要があります。

6 まとめ

以上、AIの導入についての情報の管理について概観しました。
AIサービスの導入は、企業規模の大小、業種を問わず今後ますます実施されることとなり、それによる業務の効率化や新たな価値の創造が期待されています。
このような開発には、ベンダー・ユーザー間での協力が不可欠となりますので、本稿などを参考としつつ、円滑な協力関係を築いて頂ければ幸いです。

(以上)

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