営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第37回|営業秘密侵害品の水際取締手続き


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第37回

営業秘密侵害品の水際取締手続き

弁護士知財ネット
弁護士・弁理士 松田 誠司
弁護士 小倉 徹

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1.はじめに

平成27年の不正競争防止法改正(一部規定を除き、平成28年1月1日施行)により、不正に取得した技術上の秘密を利用して製造された物品(以下「営業秘密侵害品」といいます。)の譲渡、輸出入等の行為が、原則として不正競争行為に該当し(不正競争防止法2条1項10号)、差止請求及び損害賠償請求といった民事措置の対象となるとともに(同法3条及び4条)、刑事罰の対象となりました(同法21条1項9号)。また、この不正競争防止法の改正を受け、平成28年に輸出入の差止等について定める関税法が改正され(同年6月1日施行)、営業秘密侵害品が輸出入禁制品(輸出につき関税法69条の2第1項4号、輸入につき同法69条の11第1項10号)として、税関における差止めの対象となりました。

例えば、ある薬の組成物質の配合割合に関する営業秘密を用いて作られた薬や、ある車の組立技術に関する営業秘密を用いて作られた車といった営業秘密侵害品について、被侵害者が税関長に対して輸出入の差止申立てをし、これが受理された場合には、実際に営業秘密を侵害する疑いのある貨物が輸出入される際に税関による認定手続が行われ、営業秘密侵害品と認定されたときには、当該物品の輸出入が差し止められることとなります。

2.差止申立ての前提としての経産大臣の認定手続

営業秘密侵害品の輸出入の差止申立てをする場合、当該申立てに先立ち、①問題となる貨物が営業秘密侵害品であること及び②輸出入者が当該貨物を譲り受けたときに当該貨物が営業秘密侵害品であることを知らず、かつ、そのことにつき重大な過失がないことについての認定を経済産業大臣から得なければなりません(輸出につき関税法69条の4第1項後段、輸入につき同法69条の13第1項後段)。

特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権又は育成者権に基づく輸出入の差止申立てにおいては、上記のような手続は必要ありませんので、この点が不正競争行為を理由とする輸出入の差止申立てと、その他の知的財産権侵害を理由とする輸出入の差止申立て手続の大きな相違点であると言えます。また、不正競争行為を理由とする輸出入の差止申立ての中でも、周知表示混同商品(不正競争防止法2条1項1号)、著名表示冒用商品(同項2号)、商品形態模倣商品(同項3号)及び技術的制限手段無効化装置等(同項11号、12号)についての輸出入の差止申立てについては経済産業大臣の認定ではなく、意見を得ることとされており、この点が営業秘密侵害品の輸出入の差止申立てとその他の不正競争行為を理由とする輸出入の差止申立てとの相違点であると言えます。

営業秘密侵害品の輸出入の差止申立ての前提としての経済産業大臣の認定を得るためには、関税法第六十九条の四第一項の規定による経済産業大臣に対する意見の求めに係る申請手続等に関する規則(以下「規則」といいます。)5条1項に規定される事項を記載した認定申請書を経済産業大臣に提出しなければなりません。具体的には、認定申請書において以下の事項を記載することとなります(平成25年8月「不正競争防止法第2条第1項第10号に関する申請手続について(お知らせ)」(経済産業省経済産業政策局知的財産政策室)[1]参照)。

①「不正競争防止法第二条第一項第十号に規定する不正使用行為により生じた物に該当すると思料する貨物」(規則5条1項2号前段)として、その貨物の製造者名、製品の種類や製品名(製品名が不明の貨物等の場合には、貨物を特定するために十分といえる情報)

②「当該貨物を譲り受けた時に当該貨物が当該不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者でないと思料する者」(同号後段)の氏名及び住所(法人の場合は名称、住所及び代表者等の氏名)

③「認定を求める理由」(同項3号)として、以下の事項

・申請に係る営業秘密の内容(申請に係る営業秘密がどのような技術か、どのような効果を持つものであるか等を記載)
・その営業秘密について不正競争防止法2条6項の要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を満たすこと(具体的には、経済産業省「営業秘密管理指針」により示された基準を満たしていることを確認できる程度に記載)
・その営業秘密の侵害態様(当該営業秘密が、いつ、誰に、どのように不正に取得され、その後、どのような経緯を経て不正使用行為に至ったのかなど、その営業秘密を巡ってどのような不正行為があったのか、それらの行為が、不正競争防止法2条1項4号~9号の要件を満たし、申請に係る「物」が同項10号に規定する「(不正使用行為により)生じた物」に該当することを示す事実を記載)
・営業秘密の不正使用行為者と輸出入をしようとする者として申請書に記載された者が異なる場合には、当該者が不正競争防止法上の主観要件(営業秘密侵害品であることにつき、知らない、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者ではないこと)を満たすこと

また、上記の申請は、規則5条2項に規定される資料を添付して行う必要があります。具体的には、上記「認定を求める理由」(規則5条1項3号)の根拠となる資料である「前項第三号の認定を求める理由を明らかにする資料」(規則5条2項)として、以下を含む資料を提出することとなります(平成25年8月「不正競争防止法第2条第1項第10号に関する申請手続について(お知らせ)」(経済産業省経済産業政策局知的財産政策室)[2]参照)。

①認定申請者が不正競争防止法上の請求の主体となり得ることを明らかにする資料(例:認定申請者の会社概要、認定申請者が営業秘密の保有者であることを示す資料)

②申請に係る営業秘密侵害事案について、関連する裁判所の判決書若しくは仮処分決定通知書、弁護士又は弁理士等が作成した鑑定書

③上記①②の他、「前項第三号の認定を求める理由を明らかにする資料」として、以下の資料

・申請に係る営業秘密の内容が分かる資料(例:その営業秘密が記載された設計図、手順書等や、秘密管理措置の状況など情報の取扱いが分かる資料)
・その営業秘密について不正競争防止法2条6項の要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を満たすことが分かる資料
・その営業秘密の侵害態様が分かる資料(例:不正な取得がなされたことの根拠となる資料(PC等のログ、防犯カメラの映像等)、不正使用行為により生産された物であることの根拠となる資料(申請書に記載された物の成分分析結果や、営業秘密が不正取得された時点の後に品質が向上したことを示す鑑定書等、外観により当該貨物を特定できる情報(貨物の品名及び型番等))
・営業秘密の不正使用行為者と輸出入をしようとする者として申請書に記載された者が異なる場合には、当該者が不正競争防止法上の主観要件(営業秘密侵害品であることにつき、知らない、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者ではないこと)を満たすことが分かる資料(例:輸出入をしようとする者として申請書に記載された者に送付した警告書及びその配達記録)

上記の申請を行い、例えば、貨物である薬品が、薬の組成物質の配合割合に関する営業秘密を用いて作られた薬品であること及び輸出入者が当該薬品を譲り受けたときに当該薬品が営業秘密侵害品であることを知らず、かつ、そのことにつき重大な過失がないことについての認定を得ると、次は差止申立てに移ることとなりますが、上記のとおり、申請に係る営業秘密侵害事案についての関連する裁判所の判決書若しくは仮処分決定通知書(又は弁護士若しくは弁理士等が作成した鑑定)の添付が要求される等、経済産業大臣からの認定を得るためのハードルは高いと言えます。

3.差止申立て・認定手続

経済産業大臣からの上記認定を得た後、当該認定書を添付して、税関長に対し輸出入の差止申立てをする必要があります。
その後の手続は、その他の不正競争行為を理由とする輸出入の差止申立てと大きく異なりません。すなわち、申立てが受理されれば、侵害物品に該当するか否かを認定するための手続である認定手続に移行し、税関長による侵害認定がなされれば、没収等による輸出入禁止措置が採られることとなります。

4.まとめ

営業秘密の重要性の高まり、グローバル化の進展、雇用の流動化等に伴い、営業秘密侵害品の輸入差止めを検討する機会も増えていくことが予想されます。上記のとおり、営業秘密侵害品の輸入差止手続は、他の知的財産権侵害品の輸入差止手続と異なる部分がありますので、検討に際し注意が必要です。

以上

<注>

[1] https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/160525oshirase10.pdf

[2] 注1と同様

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