営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第40回|不正競争行為の成否と情報の同一性


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第40回

不正競争行為の成否と情報の同一性

弁護士知財ネット
弁護士 松下 外

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第1 はじめに

日本政府は、現在、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、新たな社会として、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた「Society5.0」を提唱しており、IoT技術やAI技術のこれまで以上の活用が期待されている。それに伴い、今後、益々、データの重要性が増すことが想定される。

もっとも、現在の知的財産法制上、データの保護は限定的であり、特にビッグデータについては、不正競争防止法の「営業秘密」や「限定提供データ」に該当する場合を除いては、契約による保護、又は、技術や事実上の保護に拠らざるを得ないことが少なくない。

このうち、契約による保護については、2018年6月に経済産業省が公開した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」において詳述されている。また、技術や事実上の保護はケースバイケースの議論とならざるを得ない。

そこで、本稿では、営業秘密や限定提供データとして、データの保護を図る場合を想定して、将来的に問題になると思われるデータの同一性の判断基準を検討したい。

第2 データとは

一言に「データ」といっても、その意味内容には、必ずしもコンセンサスがあるわけではない。もっとも、本稿では、官民データ活用推進基本法を参考に、「データ」を「電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録)に記録された情報」と定義したい。

すなわち、本稿では、「データ」は情報の部分集合である。

第3 データの不正競争防止法による保護

データを含む情報一般について、不正競争防止法は、「営業秘密」と「限定提供データ」による保護を図っている。

「営業秘密」は、①秘密管理性、②有用性及び③非公知性が認められる技術上又は営業上の情報(不正競争防止法2条6項)である。

また、「限定提供データ」は、①技術管理性、②相当蓄積性及び③限定提供性が認められる技術上又は営業上の情報を意味する(不正競争防止法2条7項)。

その保護の範囲には若干の相違があるものの、大まかには、営業秘密又は限定提供データのそれぞれについて、不正取得(不正競争防止法2条1項4号・11号等)、不正使用(不正教祖防止法2条1項7号・14号等)又は不正開示(不正競争防止法2条1項8号・15号等)が、不正競争行為として、規制の対象になる。

第4 不正競争行為と情報の同一性の位置づけ

被告が管理する情報の取扱いについて、営業秘密又は限定提供データに関する不正競争行為、すなわち、不正取得、不正使用又は不正開示の存在が認められるためには、理論上は、これらの「不正」取得・使用・開示が問題となる情報が、原告が管理する情報(営業秘密又は限定提供データ)と同一であることが必要と思われる。

また、今後、データの取扱い、特にその加工がより一般的に行われるようになるにつれて、営業秘密又は限定提供データに該当する情報そのものではなく、これらを加工したデータを取得・開示・使用した場合に、その元データに関する不正競争行為が観念可能か、ということが問題になり得る。

更に、限定提供データについては、「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一」(不正競争防止法19条1項8号ロ)のデータの取得・使用・開示については、差止請求等の不正競争防止法の各規定の適用がなく、したがって、情報の同一性の判断がより重要になる。

第5 営業秘密法制下における情報の同一性の取扱い

もっとも、これまでの、営業秘密に関する裁判実務では、情報の同一性が正面から取り上げられることは少なかったと思われる。営業秘密に関する規制で問題になるのは、あくまでも、「取得」・「使用」・「開示」であるためである。

具体的には、まず、「取得」については、通常、原告が被告による不正開示行為を追及する場合には、原告が管理する、ある情報が記録された媒体を被告が取得した等の主張をすることが一般的であり、このような場合には、情報の同一性は既に解決済みとなるだろう。「開示」についても、同様である。

また、「使用」については、一般的には、営業秘密と同一性が認められる情報を用いることを意味することから、多くの場合、「使用」の有無の議論に、同一性の議論は吸収される。そのため、裁判例においても、「使用」の有無について判断する際には、原告の主張する営業秘密と、被告が使用するとされる情報を一対一で比較し、同一性を判定するのではなく、公知情報を含むその他の情報から、被告が現に提供する製品やサービスが実現できたか(原告が主張する営業秘密を用いなければ、これら製品やサービスが実現しなかったか)否かを判断する、との判断手法が取られることが少なくない(なお、「使用」の意義と立証については、本コラム第35回で取り上げられており、本稿も同コラムを一部参考にしている。)。

もっとも、プログラムのソースコードに関する不正競争行為の成否に関しては、ソースコードどうしを比較し、その類似度合いが考慮されることもある。例えば、知財高判令和1年8月21日判決では、営業秘密と主張された原告のソフトウェアと被告のソフトウェアのうち、300組のソースコードの組が、鑑定人により比較検討されたところ、営業秘密の使用を否定する根拠の1つとして「300組のソースコードのペア中,類似箇所1ないし5に該当する118行の他には本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードとが一致ないし類似する部分があったとは認められず,鑑定の対象となったソースコード2万9679行(コメント,空行を除いた有効行)のうち2万9561行は非類似であって,非類似部分が99%以上となる。」ことが挙げられている。

第6 情報の同一性の判断基準

それでは、情報の同一性を如何なる基準により判断するか。一般的には、営業秘密や限定提供データと、不正競争の対象となる情報の内容が、全部一致するか否かが判断基準になると思われる。

例えば、経済産業省「限定提供データに関する指針」は、限定提供データに関する不正競争行為の適用対象外である「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一」(不正競争防止法19条1項8号ロ)の解釈について、「『オープンなデータ』の並びを単純かつ機械的に変更しただけの場合は、実質的に同一であると考えられる」と述べ、また、統計データの取扱いについてではあるものの、次の各場合を原則として、データの同一性が認められる場合として列挙している(同指針17頁)。

  • 「全部について、何ら加工することなく、そのまま提供している場合」
  • 「一部又は全部を単純かつ機械的に並び替え(例えば、年次順に並んでいるデータを昇順に並び替えるなど)、あるいは、統計データの一部を単純かつ機械的に切り出し…提供している場合」
  • 「政府がホームページで提供する他のオープンなデータを単純かつ機械的に組み合わせて)提供している場合」

また、ソースコードの不正使用が問題になった大阪地判平成25年7月16日判例時報2264号94頁は「本件において営業秘密として保護されるのは,本件ソースコードそれ自体であるから,例えば,これをそのまま複製した場合や,異なる環境に移植する場合に逐一翻訳したような場合などが『使用』に該当するものというべきである。原告が主張する使用とは,ソースコードの記述そのものとは異なる抽象化,一般化された情報の使用をいうものにすぎず,不正競争防止法2条1項7号にいう『使用』には該当しないと言わざるを得ない。」と判断しており、情報の内容が改変されていないことを保護の前提として考えていることが伺える。

第7 改変されたデータの取扱い

もっとも、上述のとおり、実務上は、加工等により改変されたデータの取扱い、すなわち、元データと完全に一致しない部分がある場合が問題になり得るため、更に検討したい。

議論の前提として、まず、営業秘密又は限定提供データに該当する情報そのものと一部異なる点があっても、そもそも、情報の同一性が肯定される否かかが問題である。

この点、例えば、靴の木型に関し、オリジナルの木型(の複製木型)を元に作られた改造木型について、東京地判平成29年2月9日平成26年(ワ)第1397号・平成27年(ワ)第34879号は「本件改造木型は,本件オリジナル木型とは形状・寸法に相違があり,本件設計情報がそのまま化体したものではないから,本件改造木型に化体した靴の設計情報の取得・使用・開示は,それ自体は,当然には本件設計情報の取得・使用・開示であるということはできない。」と述べる一方、「相違が、市販された靴から木型を再現した場合に生じる誤差より狭い範囲に収まっていると認められなければ,営業秘密として保護される設計情報とはいい難い。」と、一定の相違を許容している。

また、営業秘密の「使用」との関係では、「営業秘密の使用となるのは、当該情報と同一の情報を使用することに限られない。他人が保有する営業秘密を取得した者が当該営業秘密に改変を施した情報を使用する行為も、当該営業秘密の経済的価値を享受していると認められる場合には、当該営業秘密の使用に当たるものと解される」(西田昌吾「営業秘密侵害行為」髙部眞規子編『著作権・商標・不競法関係訴訟の実務(第2版)』(商事法務、2018)500頁)との見解もあるところ、「使用」ではなく、同一性に関する議論として構成する余地もあると思われる。

そうすると、元となったデータからの改変がある場合でも、同一性を肯定することも可能として、その境界線はどこにあるのだろうか。

議論としては、著作権法における複製の範囲確定に近いようにも思える。例えば、著作権法の「複製」は、著作物が人の創作的表現であることを踏まえて、「既存の著作物…の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製」したか否かを、同一性の判断基準にする(最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁。ただし、「複製」が認められるためには更に依拠性が必要である。)。しかし、著作権法と異なり、営業秘密や限定提供データについては、このような人の創作性が保護要件に介在しておらず、その基準定立のためのよすがを見出しがたい。

そこで、営業秘密や限定提供データの定義を再度確認すると、いずれも、「営業上又は技術情報の情報」を対象としている。そのため、少なくとも現行法の解釈上は、問題となるデータの性質に照らして、営業上又は技術上の同一性が認められるか否かを判断基準とすることが適当と思われる。

例えば、あるデータを加工して作られた新たなデータ(技術上の情報を前提にする。)について、元のデータの不正取得、使用、開示による責任を追及可能か否かは、元のデータと新たなデータとの間に技術的な同一性があるか、具体的には、新たなデータから元のデータが復元可能か否かが一応の基準になり得るだろう(ただし、その復元可能性がなくとも、新たなデータの生成行為それ自体が元のデータの不正使用行為を構成し得ることが別論である。)。

この点、前述の東京地判平成28年10月24日の控訴審である、知財高判平成30年1月24日平成29年(ネ)第10031号は「本件改造木型は本件オリジナル木型の複製物に手を加えたのであるから,本件設計情報の全部が残存しているものではなく、また,本件生産用木型に本件設計情報の一部が残存していることを示す証拠はない。木型に含まれる設計情報は,その形状や寸法で構成されているものであるから,木型にパテを盛って,形状・寸法を変更すれば,元の設計情報はその部分において失われるといえる。」と述べており、パテを盛ることによる不可逆的な変更により、技術的な再現可能性が失われた結果、情報の技術的な同一性を失われたと判断したと整理可能なようにも思われる。

もっとも、技術的な再現可能性についても、予めクリアカットな基準を定立することは、やはり困難であり、具体的な事案を踏まえた判断をせざるを得ないだろう。

以上

 

 

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