営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第45回|秘密保持契約(NDA)あれこれ


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第45回

秘密保持契約(NDA)あれこれ

弁護士知財ネット
弁護士 早稲田祐美子

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1 はじめに

秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement、通称「NDA」)といえば、企業が他の企業や個人との間で業務提携や共同開発あるいはM&A等を検討する際に、自社の有する情報を開示する前提として締結することが多いでしょう。企業の担当者も、ともすれば、ひな形を参考に、形式的にNDAを結べば足りると考えておられるのではないでしょうか。弁護士としてレビューする秘密保持契約の内容はだいたい似たようなものが多いのですが、中には「あれ?」とひっかかるものもあります。
以下では、企業が業務提携を前提に締結する秘密保持契約を中心に、どんな「あれ?」があるかを数点ご紹介しましょう[1]

2 目的

秘密保持契約の冒頭(頭書あるいは第1条(目的))で、秘密情報の開示目的を記載することが多いと思います。秘密保持契約には、秘密保持だけでなく目的外使用の禁止が規定されていることが一般的ですから、目的の記載は秘密情報の目的外使用か否かの判断基準になります。
ところが、目的の記載がない、あるいはひな形をそのまま使ったためか本来の目的と違う規定になっていることがあります。
そのようなことを避けるためにも、秘密保持契約を作成する際には、その目的規定が合っているかどうかもう一度見直してください。

3 秘密情報の定義(その1)

目的の次には、秘密情報の定義を規定することが一般的です。
不正競争防止法第2条第6項による営業秘密[2]は、「秘密管理性」、「有用性」 「非公知性」が要件になりますが、秘密保持契約における「秘密情報」は、かならずしも不正競争防止法第2条第6項の営業秘密と同じではありません。契約自由の原則により、公序良俗に反しない限り、当事者間で秘密とする情報を自由に決めることができます。一般に、秘密保持契約の秘密情報は、不正競争防止法の営業秘密よりも広いといわれています。
もっとも、裁判では、秘密保持契約の規定を文言通りではなく契約の目的に沿って限定的に解釈をする場合もありますので、秘密情報の定義を規定する際には注意が必要です。

<秘密情報の定義1>

第2条(秘密情報)

1.本契約において秘密情報とは、本件目的のために開示者が受領者に対して秘密である旨明示のうえ開示又は提供した営業上又は技術上若しくはその他の情報であって、次の各号のいずれかに該当するものを含む一切の情報(本契約の存在及び内容を含む。)をいうものとする。

(1)文書、資料、図面等の、有体物又は電磁的記録により提供(電磁的方法を含む)する情報。
(2)口頭又は視覚的手段によって開示する情報であって、かかる開示後14日以内に当該情報の書面化等を行い、提供(電磁的方法を含む)するもの。なお、「情報の書面化等」とは、開示者が秘密情報の開示内容を、開示日時、開示場所、開示の経緯等とともに書面に記載し又は電磁的に記録することをいう。

2. (秘密情報の例外 略)

この例では、開示した「営業上又は技術上若しくはその他の情報」の中で「秘密の明示」がある情報のみを秘密情報としています。営業上又は技術上の情報だけでなく、「若しくはその他の情報」という規定がありますので、不正競争防止法第2条第6項の「営業秘密」よりも広いことになります。また、情報の種類は(1)(2)に記載しています。
秘密の明示が必要であるため、(2)口頭又は視覚的手段で開示した場合には、開示後14日以内に情報の書面化を必要としています。
以上の条項が秘密の明示を必要としているのに対し、以下のような例も見受けられます。

<秘密情報の定義2>

第2条(機密情報)[3]

1.     本契約にいう「機密情報」とは、口頭、書面及び電子ファイル等の電磁的方式にかかわらず、開示者が受領者に対し開示する全ての資料及び情報並びに本契約に関連して知り得た相手方の営業上又は技術上の秘密情報をいう。

2.(秘密情報の例外 略)

この例では、機密(秘密)の明示の規定がなく、開示される全ての資料・情報が機密情報とされています。また、開示情報以外にも本契約に関連して知り得た相手方の営業上又は技術上の秘密情報も該当するということですから、例1と比べて広範囲です。

開示した全ての資料及び情報という規定は範囲が広いとはいえまだ当事者間で何とか特定できると思います。しかし、「本契約に関連して知り得た」とは、開示を受けずに提携交渉等を通じて知り得た情報を指し、さらに、「相手方の営業上又は技術上の秘密情報」とは、不正競争防止法の営業秘密と解され、その内容について「秘密管理性」・「有用性」・「非公知性」の観点から判断する必要があるでしょう。

M&Aのような開示情報全てが秘密情報になるような場合を除き、一般の業務提携においては、このように広範囲な情報を秘密情報と規定すると、受領者としては秘密保持義務を負う範囲が広すぎるというデメリットがあります。また、開示者としても、受領者との間で秘密情報に関して紛争が生じた場合に、秘密保持義務の対象が不明確であり無効である、あるいは当該開示情報は秘密情報ではない、と裁判所が判断する可能性を否定できません。

特に、多数の企業と様々な提携を行う企業にとっては、開示された情報全てが秘密情報となると遵守の負担が大きすぎますし、自社が保有する情報や第三者から提供を受けた情報との混入(コンタミネーション)が生じるリスクが高まるため、秘密の明示を要求することが多いでしょう。

私としても、秘密情報の範囲を明確にするために、「秘密の明示」を入れるよう勧めています。もっとも、この場合には、現場において、交付する資料には「秘密」「confidential」等の明示を入れること、口頭又は視覚的手段で開示をした後は14日以内に書面化すること等にきちんと対応できていなければなりません。

秘密保持契約は、単に作成・締結するだけでは意味がありません。締結した秘密保持契約を適切に履行できるよう、企業において、開示する情報の管理及び従業員の教育を適切に行っていくことがもっとも大切なことになります。

4 秘密情報の例外

秘密情報として開示を受けた情報であっても、公知情報が含まれる場合等全ての情報に秘密保持義務を負うことが不合理な場合があります。そこで、秘密情報に該当しない場合を規定しておく必要があります。この例外規定は、秘密情報の但書あるいは次項若しくは別条に規定することが一般的です。

<秘密情報の例外>

2.    前項にかかわらず、次の各号の一に該当することを受領者が証明できる情報は、本契約における秘密情報の対象外とする。

(1)    開示を受けた時点において既に公知であった情報
(2)    開示を受けた時点において受領者が既に了知していた情報
(3)    開示を受けた後に受領者の責めに帰すべき事由によらずに公知となった情報
(4)    開示を受けた後に正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
(5) 開示を受けた後、開示を受けた情報とは関係なく受領者が独自に創出した情報

上記例文は、受領者が証明できる情報を例外とする、と明記していますが、この明記が無い場合であっても、秘密情報の例外と主張する方(受領者)が立証責任を負うと解されるでしょう。

なお、公知情報については比較的立証しやすいと思いますが、「受領者が既に了知していた情報」「開示を受けた後、開示を受けた情報とは関係なく受領者が独自に創出した情報」であることを立証するためには、受領者側での該当情報の管理・記録が不可欠です。

5 秘密保持義務の例外

受領者は、秘密保持契約に基づき、開示を受けた秘密情報を第三者に開示・漏洩せず、かつ、契約目的外に使用しない義務を負います。これが秘密保持契約の主目的です[4]

もっとも、官公庁等から法令等に基づき開示を要求される場合には開示せざるを得ない場合があります。秘密保持義務の例外規定がない契約も見受けますが、このような場合の対応に苦慮することになります。そこで、対応する条項を規定しておくべきでしょう。

<裁判所・官公庁等からの開示請求の場合>

(●項(秘密保持)の規定に関わらず)、受領者は、裁判所、官公庁等からの法令等に基づく開示を要求された場合には、その法令上の義務の履行に必要な最小限度の範囲に限り、開示することができる。この場合において、受領者は、開示者に対し、事前に(緊急やむを得ない場合は可及的すみやかに)法令の規定により開示する旨を書面により通知する。

なお、「裁判所、官公庁等からの法令等に基づく開示を要求された場合」といっても、法律により開示が強制される場合(裁判所による差押命令等)から強制力のないもの(警察の任意捜査等)、あるいは証券取引所等による規則に基づく要請等様々です。そこで、どのような場合に開示をするかについては、秘密保持契約の目的及び開示する秘密情報の性質等を鑑みて規定する必要があるでしょう。また、開示前の通知を義務付けている規定例もありますが、差押等事前に通知ができない場合もありますので、「可能な限り」、「緊急やむを得ない場合は可及的すみやかに」等の文言を入れることが考えらえます。

なお、このような裁判所・官公庁等からの開示請求の場合を秘密情報の例外として規定していたものも見受けられますが、これらは開示請求を受けた相手に対してのみ開示が認められるものであり、秘密情報でなくなるわけではありませんので、秘密保持義務の例外として規定しておくべきでしょう。

6 解除

一般の契約同様、相手方の債務不履行の場合、秘密保持契約を解除する条項を見かけることがあります。しかし、解除は遡及的に契約がなかったことになり、秘密保持義務も無くなってしまうと解される恐れがあります。

そこで、秘密保持契約には債務不履行による解除規定を設けない、あるいは解除条項を設ける場合には、既に開示された秘密情報については秘密保持等の義務は残るという残存条項を入れておく必要があるでしょう。

7 期間

秘密保持契約の期間で問題になるのは、秘密保持契約の有効期間と秘密保持義務の存続期間です。通常は、秘密保持契約の有効期間とは別に、秘密保持契約終了後の秘密保持期間を定めるものが多いと思われます。

<契約の有効期間と秘密保持義務の存続期間>

1 本契約の有効期間は、2020年4月1日から2021年3月31日までとする。なお、契約満了の3カ月前までに一方当事者から相手方へ書面による満了通知がない限り、本契約は自動的に1年間更新され、以後も同様とする。

2 本契約終了後といえども、第●条(秘密保持義務)は5年間存続する。

(1)有効期間

秘密保持契約の有効期間は、ある目的のために秘密情報を開示する期間がどの程度であるかを念頭に規定します。秘密情報開示が提携や共同開発を検討する目的であり、その後の秘密保持は提携契約や共同開発契約の中で規定する場合には、秘密保持契約の有効期間も短期間であって、自動更新条項も不要です。

また、通常の契約のように有効期間を1年とし、自動更新条項があるものも見受けられます。この場合、有効期間とは別に秘密保持期間を設けない例も時々あります。しかし、自動更新条約は、あくまでも当事者の一方が期限まで(契約期間満了より3か月以内とする例が多いようです)に自動更新に異議を申立てない限りという条件が付きます。自社が更新を望んでいても、相手方が更新拒絶の意思表示をすれば契約は期間満了で終了します。この点から考えると、自動更新条項があった場合であっても、有効期間の他に秘密保持期間の条項を規定しておかない秘密保持契約は、リスクがあります。

なお、自動更新条項は、我が国の契約において非常に多く見られますが、他国ではあまりないとも言われています(他国の場合、契約を継続したい場合は、改めて契約を締結するようです)。これも我が国の国民性なのかもしれません。

(2)秘密保持期間

秘密保持期間は、開示した秘密情報がいつまで秘密とする必要があるかという点から決めていきます。

秘密保持契約では、契約終了あるいは開示者が請求した場合には受領者は秘密情報を返還又は廃棄する旨規定されているものが多いと思われます[5]。このような返還・廃棄条項があるにもかかわらず、契約終了後の秘密保持期間を設ける目的は、既に返還・廃棄した秘密情報であっても受領者が頭の中に入っている秘密情報については、秘密保持期間は開示・漏洩を行わないということです。

陳腐化が見込まれる技術やノウハウであれば比較的短くてもいいでしょうが、基幹的な技術やノウハウの場合には長期の必要があるかもしれません。

比較的多いのが、「秘密保持義務は契約終了後も存続する」という規定です。秘密保持義務が「いつまで」存続すると規定されていないので、文言どおりとすると、永遠に存続することになります。もちろん、4で述べたとおり秘密情報の例外規定を設けておくことが一般的ですから、開示を受けた情報であっても時の経過によって公知となった場合には、秘密情報ではなくなりますが、この立証は受領者側が行わなければならないことを考えると、受領者の立場からは期間の限定があったほうが望ましいでしょう。

また、存続期間の定めがない場合、これが期間の定めのない契約として、当事者が合理的期間を定めて解約通知を出せば、解約が有効になるのではないか、という指摘もあります。したがって、明確性という点からは、秘密保持契約作成時に開示情報がどの程度であれば価値がなくなるかを見極めて、期間を明示するのが望ましいといえます。

秘密情報の明示の点でも述べましたが、多数の企業と様々な提携を行う企業においては、できるだけ秘密保持義務を負わないようにするため、契約終了後の秘密保持義務は短い期間を明示する傾向があります。また、秘密情報の媒体を返還・廃棄した以上、頭の中に入った秘密情報には秘密保持義務を課さない、とする例もあります。これは、前述のとおり、秘密情報のコンタミネーションを懸念して作成した条項でしょう。

なお、秘密保持期間を、「開示者が秘密情報の秘密性が失われたことを認めるまで」、としたものもありましたが、このような条項では秘密性が失われたか否かを受領者が認識するためには開示者に尋ねる必要があり、かつ、開示者の主観によるものであって客観的な基準とは解せないため、好ましくないと思われます。

8 損害賠償

秘密保持契約に違反し、受領者が秘密情報を第三者に開示又は漏洩した場合、あるいは目的外使用をした場合に、開示者は受領者に対し損害賠償請求をする規定が置かれていることが多いと思われます。債務不履行の場合の損害賠償ですから、通常は民法の規定に従って秘密情報の開示又は漏洩若しくは目的外使用と相当因果関係のある範囲において損害賠償責任を負うことになりますが、秘密情報の開示又は漏洩により被った損害額の立証は、秘密情報の内容にもよりますが、一般的には非常に難しいと思われます。

また、通常の契約の場合には、損害賠償の範囲を「直接損害のみであって、逸失利益や間接損害を含まない」と限定する条項もよく見受けますが、秘密保持契約ではあまり見かけません。これは、秘密情報の漏洩・開示の場合にはその損害が広範囲にわたると予想されますので、直接損害のみであって逸失利益・間接損害を除くことにはなじまないものと思われます。

なお、このように損害立証が非常に難しいことをとらえて、予め違約金を定めているものも見受けられます。違約金規定は、事前抑止力という観点もあります。

違約金規定は、損害賠償の予定(民法第420条第3項)と推定され、損害賠償の予定は同条第1項により有効とされています。もっとも、改正前民法では損害額の予定について「裁判所はその額を増減することはできない」(旧民法第420条第1項後段)と規定されていましたので、違約金額があまりにも過大で公序良俗に反して無効(民法第90条)とする以外には、裁判所は違約金規定には手をつけられないと解されていました。ところが、令和2年4月1日施行の改正民法によりこの後段の規定が削除されました。そこで、今後は違約金規定を定めておいても、その額が過大な場合には、裁判所が事情によって違約金額を増減することが行われるのではないかと思われます。

なお、違約金規定を設ける場合には、違約金以上に実損害が大きいことを立証した場合にはその金額を請求できることを明確化するため、違約金規定の後段に、「但し、実際に生じた損害が違約金額を上回る場合には実際に生じた損害の賠償を請求できる。」と規定するべきでしょう。

9 終わりに

以上、秘密保持契約(NDA)はどれも似たようなものと思われがちですが、細かく見ていくといろいろな違いがあります。契約目的・開示する秘密情報の内容等から自社に適切な条項を選ぶことが必要でしょう。

また、秘密保持契約を実効あるものにするためには、適切な運用が不可欠です。皆様の会社においても、この点に充分ご留意いただき、自社の秘密情報を適切に保護すると共に、開示を受けた秘密情報を適切に管理してください。

以上

 

 

[1] 本稿における条項例や意見はあくまでも執筆時点のものです。今後、法律の改正や実務の進化とともに変更される可能性があります。

[2] 不正競争防止法第2条第6項

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

[3] 「機密情報」も「秘密情報」も表示が異なるだけであって内容的には同じであると思われます。

[4] この規定についてもいろいろバリエーションがありますが、本稿では説明を省略します。

[5] 「返還・廃棄条項」についても、本稿では説明を省略します。

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