営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第46回|営業秘密と職務発明


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第46回

営業秘密と職務発明

弁護士知財ネット 弁護士 髙橋淳
弁護士知財ネット 弁護士 宮川利彰

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1 技術上の営業秘密の職務発明該当性

発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」とされており(特許法2条1項)、かかる発明が特許法上の保護を受けるための相対的要件として、新規性(同法29条1項各号)及び進歩性(同法同条2項)が要求される。

そして、かかる発明のうち、従業者等がその性質上使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属するものは、職務発明に該当することになる(同法35条1項)。

一方、営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいう(不正競争防止法2条6項)。

かかる営業秘密の定義を、特許法における「発明」の要件に照らせば、営業秘密の中でも、技術上のものについては、特許法の観点からは、新規性及び進歩性を有する「発明」にも該当し、保護の対象となる場合が多い。そして、営業秘密に該当し得る技術上の情報は、企業において従業者等がその職務として創作したものであることが一般的であり、これらの情報は、職務発明に該当することとなるため、特許法35条の適用対象となる。

この点について、知財高判平成27年7月30日(平成26年(ネ)第10126号) においては、使用者である企業の職務発明規程を「(旧)特許法35条4項の趣旨を大きく逸脱するもの」であり、それに基づいて発明に対して相当対価を支払わなかったことを不合理としたうえで、旧特許法35条5項に基づく相当対価の算定において、「使用者等は,職務発明について無償の法定通常実施権を有するから(特許法35条1項),相当対価の算定の基礎となる使用者等が受けるべき利益の額は,特許権を受ける権利を承継したことにより,他者を排除し,使用者等のみが当該特許権に係る発明を実施できるという利益,すなわち,独占的利益の額である。この独占的利益は,法律上のものに限らず,事実上のものも含まれるから,発明が特許権として成立しておらず,営業秘密又はノウハウとして保持されている場合であっても,生じ得る。」と判示されているところである。

また、使用者たる企業を被告とする職務発明対価支払請求等訴訟である東京地判平成18年12月27日(平成17年(ワ)第12576号 )においても、「被告取扱規則は,特許を受ける権利を承継しても,そもそも特許出願をすることなくノウ・ハウとして秘匿するのか,出願するとして,どの国に特許出願をするのかの選択は被告の裁量に委ねられている。しかも,使用者は,発明がノウ・ハウとして秘匿される間,発明に関する情報を事実上独占してその発明の実施も事実上独占できるものであり,特許を出願した場合と同様の利益を得ることができると考えられる。したがって,被告が特許出願をせずにノウ・ハウとして秘匿した期間についても,被告が受けるべき利益を算定すべきである。」とされている。

2 営業秘密とする発明についての相当の利益の付与の要否

相当利益請求権は将来の発明を奨励するためのインセンティブとして発明者に付与されたものであるから、当該発明が特許として出願されずノウハウとして秘匿化された場合であっても、会社は従業員に対し相当の利益を交付する必要がある。

かかる発明について、特許出願するか(あるいは秘匿化するか)否かの判断は会社の判断であり発明者の関与しない事情であるから、特段の事情がない限り、ノウハウとして秘匿化した場合であっても出願した場合と同様に取り扱うべきであろう[1]

この点について、特許庁が公表している中小企業用ひな形の最終頁の注においても、「職務発明について会社が特許を受ける権利を取得した場合、会社が特許出願せずに営業秘密又はノウハウとして保持することにした職務発明についても、その職務発明が会社に独占的に利益を生じさせたときは、発明者である従業者等に対して相当の利益を付与する必要があると考えられます。」とされている。

もっとも、職務発明規程に基づく「相当の利益」の付与は、特許法上要請されているものであり、当該発明が特許出願に値するものであることを前提としている。したがって、営業秘密として秘匿する発明についても、「相当の利益」の付与の対象となるものは、出願に値するものに限られるべきである。

[1] 拙稿「職務発明制度改正対応の実務」知財ぷりずむVol.14 No.162 p.37(2016)

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