営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第50回|農家側から見た情報管理の課題


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第50回

農家側から見た情報管理の課題

弁護士知財ネット
弁護士 木野村 英明

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農業の現場では、ロボット技術や情報通信技術の活用が進み、さらにコロナ禍による労働力不足も加わって、スマート農業が急激に進化しています。他方、スマート農業の前提となる情報管理については、業者に委ねられている側面が多く、今後、農家の立場から農業現場を守ることができるか不透明な部分があります。

そこで、今回のコラムでは、農家側から見た情報管理の課題等について考えてみたいと思います。

1.スマート農業と情報管理

農林水産省は、スマート農業をロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産等を可能にする新たな農業と定義して、「スマート農業加速化実証プロジェクト」等によりスマート農業を推進しています。

また、農業の現場でも、担い手の高齢化や労働力不足が進んでいることもあって、スマート農業が急激に進化しており、これによる農作業の省力化、新規就農者の確保、栽培技術力の継承などが期待されています。

このスマート農業の概念には、①経営データ管理、②栽培データ活用、③環境制御、④自動運転/作業軽減、⑤センシング/モニタリング等の広範な分野が含まれています(高橋省吾「地域に密着した農業IoTの開発と知財の課題」パテント2019年12月号20頁 https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3461 )。このように、トラクターやドローンの運転技術に限らず、経営や栽培データのほか、収量予想に関わるデータなどの情報管理がスマート農業にとって重要であることが分かると思います。

農業一般における情報管理としては、土作りや施肥の手法など、いわゆる「農ハウ」(農林水産省「農業分野における知的財産普及・啓発パンフレット」平成30年3月12日 https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/chizai/attach/pdf/180312-3.pdf )が一般的に想定されており、この「農ハウ」は、同一地域内の農業経営者においては共有されている傾向にあります。

この経験の承継といった旧来的な「農ハウ」であっても、視察に来た農家へ伝えた情報が無断で利用されて作物が出荷されてしまった等のトラブルは発生していました。

一方でこの旧来的「農ハウ」がスマート農業の進展によって情報化されると、より一層情報管理が困難になることは容易に予想できます。

スマート農業の時代における情報としては、収量予想のための作付面積、作付状況の把握が可能な衛星画像データ、糖度や塩分濃度の分布把握するためのデータ等、多種多様な情報が重要となります。

これに加え、当該情報を収集するためのロボットやドローンと計測機器との組み合わせ等のノウハウも知的財産として重要です。

※参考「農業ITシステムで用いる環境情報のデータ項目に関する個別ガイドライン」のデータ項目
http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/brain/h27kakushin/files/kankyou-jouhou_guideline.pdf

温度、風向、気温、風速、土壌温度、日射強度(日射の瞬時値)、葉面温度、日射量(日射の時間積算値)、露点温度、照度、積算温度、光合成有効放射量 (PAR)、相対湿度、光合成光量束密度 (PPFD)、飽差 (HD)、CO2濃度、 飽差 (VPD)、電気伝導度(EC)、降水量、土壌EC、降雨量、土壌水分量、土壌pH

2.知財保護の困難性

このようにスマート農業における情報やノウハウの管理が重要であることは間違いありませんが、一方でこれら情報等の管理や保護には、幾つかの側面から困難な課題があります。

まず、上記の高橋教授による論文でも指摘されているとおり、農業IoT技術は公知技術の組み合わせによる場合が多く、特許出願においても進歩性がないとして拒絶されがちであること、これに加え、地域ごとにカスタマイズする必要があることからビジネスとしても成立しにくいこともあり、大学等の公的研究機関以外の研究にはハードルが高い状況にあります。

一方、農家側の問題としては、自らの農業経営にのみ関心があって、それ以外のことは農協に任せれば良いという風潮があると個人的に感じており、一部の「意識高め」な農家を除いて情報管理という意識が低く、業者とNDA(秘密保持契約)が結ばれているのか、また仮に結ばれていたとしても実態としてどの程度の効力を有しているのか不明な部分があります。

3.今後の課題

私が十勝の農業現場に近い位置から見ていて感じる課題としては、まず、上記のような一般的な農家の風潮が影響して、一部農家からの情報が筒抜けになってしまわないかということです。私が知る限り、現時点でそのような状況には至っておりませんが、一般的な農家の知的財産に対する意識を向上させる必要があります。

また、特に若手の農家を観察していて感じるのは、専門的知識を持った高学歴の農家が増加しており、大学等の研究機関とのコラボレーションを経て、スマート農業において必須なシステム開発等の知的財産が相当高度化する傾向にあります(参考:更別村の取組みhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h30/teian/20180823_shiryou_t_2_1.pdf )。このことから、今後は、NDAだけでなく、海外への情報流出を回避する体制をどのように確立するかという課題があると考えています。

以上

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