営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第58回|顧客名簿などの「顧客情報」が営業秘密に該当するかどうかが争われた場合、裁判例ではどのように考えられているか


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第58回

顧客名簿などの「顧客情報」が営業秘密に該当するかどうかが争われた場合、裁判例ではどのように考えられているか

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弁護士 岡本 直也

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1 はじめに

不正競争防止法上の営業秘密については、様々な情報が対象になりますが、顧客名簿などの顧客情報が営業秘密に該当するかどうかが問題になることも多いと思います。
では、近時の裁判例(経済産業省の営業秘密管理指針が全面改訂された平成27年1月以降のもの)では、顧客情報について、どのように判断されているのでしょうか。

2 裁判例の判断

(1) 東京地裁令和2年11月17日判決(裁判所HP)

まつ毛エクステサロンにおける「顧客カルテ」(表面には顧客の連絡先などの個人情報が、裏面にはまつ毛エクステの施術履歴などが、それぞれ記載されていたもの)に「秘密管理性」があるかどうかが争われた事案です。結論としては、「秘密管理性」が認められませんでした。

判示:「従業員は、全ての顧客カルテを少なくとも就業時間中は誰でも自由に見ることができ、また、その画像は、通常業務の中で、特に上司の決裁等もなく、私用のスマートフォン等で撮影され、当該カルテを必要としない者を含む全従業員の私用のスマートフォン等に送信され、保存されていた。」「顧客カルテ自体には、秘密であることを示す記載はなく、また、本件送信行為の当時、顧客カルテをつづったバインダーに秘密であることを示す記載等があったとは認められない。」「顧客カルテの管理マニュアルは、顧客カルテについての一定の取扱いを定めているが、これは顧客カルテ等の一般的な取扱い等を定めるものであり、カルテ共有用グループの扱いなど顧客カルテに関する重要な事項に触れるものでもなかった。また、就業規則や入社時合意では、職務上知り得た情報の取扱いなどが定められていたが、その対象となる情報の定義は一般的なものであって、これらによって顧客カルテやその施術利益が秘密であることが示されているとはいえないものであった。」等として、秘密管理性を否定しました。

(2) 東京地裁令和2年10月28日判決(裁判所HP)

名刺管理ソフトで管理されている名刺情報(1500名超の名刺情報が記載されたデータファイル)について、営業秘密性が認められなかった事案です。

判示:「名刺は、第三者に手交するためのものであり、そこに記載されている情報は、氏名、会社名、所属部署、役職、電話番号など、秘密性のないものであることに照らすと、本件名刺情報についても秘密性が高いということはできず、これに自由にアクセスし、営業に使用することのできた原告の従業員等が本件名刺情報を営業秘密と認識していたとは考え難い。」

(3) 青森地裁平成31年2月25日判決(判時 2415号54頁)

ピアノ調律サービスの顧客の氏名、住所、連絡先等の情報について、営業秘密性が認められなかった事案です。

判示:「厳格な方法による秘密管理措置まで要求することは現実的ではないとしても、業務において本件顧客情報に接することができる者は、パソコンのデータにアクセスする権限を有する正社員二、三名及び調律師3名と比較的少数にとどまるのであるから、これらの者に対しては、本件顧客情報に係る原告の秘密管理意思が容易にわかるような措置を採る必要があるというべき」とした上で、「調律師らに対し、本件各書類を配布した後、それを回収したり、廃棄を指示したりすることはなく、本件各書類には「マル秘」などの秘密であることを示すような記載もなかった」こと等を理由に、秘密管理性を否定しました。

(4) 東京地裁平成31年1月18日判決(裁判所HP)

顧客情報管理システムにより管理されている顧客情報(ファンドの購入者の氏名、住所等を含む。)の営業秘密性が認められた事案です。

判示:「本件顧客情報管理システムで管理された情報にアクセスすることができる従業員は社内の利用規程等により一定の範囲に限定され、また、原告の就業規則等においても原告の顧客情報の第三者への漏えいや開示が禁止されていた」こと等を理由に、秘密管理性を肯定しました。

(5) 大阪地裁平成30年3月15日判決(裁判所HP)

顧客名簿について、営業秘密性が認められた事案です。

判示:「当該情報が『秘密として管理されている』というためには、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにするための措置をとっていることが必要であるが、本件では、問題にされている被告P1が、原告の代表取締役という自ら秘密管理を行う立場にあった者であることを考慮する必要がある。」とした上で、原告の代表取締役として、顧客情報が記録されたファイルにパスワードを設定する措置を採っているなど、自ら顧客情報を秘密とする措置を採っていたと認められる上、代表取締役の退任後、誓約書で、在任中に取得した原告に関する情報を漏洩しない旨を約していること等を理由に、顧客情報の秘密管理性を認めました。

(6) 大阪地裁平成30年3月5日判決(裁判所HP)

医薬品配置販売業を営んでいた会社の顧客情報(顧客名、住所及び電話番号)について、営業秘密性が認められた事案です。

判示:「本部において顧客情報を一元化してデータ管理しており、就業規則において顧客情報の開示等を禁止することに加え、退職従業員に対しても、顧客情報を漏えいしないことを誓約させるなど、規範的な管理がなされていた」「配置販売業者にとっての顧客情報の重要性に鑑みれば、従業員らにとっても、それが秘密管理の対象とされるべきものであることは容易に理解し得ることであり、実際、被告P1自身も、ルート一覧のようなものは、退職時に返還すべきものとわかっていた」こと等を理由に、営業秘密性を肯定しました。

また、アクセス制限の程度が不明な点については、「営業所も近隣に3か所しかなく、各営業所の従業員数も数人ずつにすぎない小規模な会社であり、従業員のほとんどが営業部員であると推認されるところ、小規模の事業所では各従業員が業務遂行に当たって顧客情報を自由に使用できる必要があるから、営業所内でアクセス制限が設けられていないとしても、それをもって対社外的にも秘密でない扱いがされていたとはいえない。」と判示しています。

(7) 大阪地裁平成28年6月23日判決(裁判所HP)

顧客別の売上情報及び顧客別の平均販売価率情報について、営業秘密性が認められた事案です。

判示:「従業員しか閲覧することのできない社内ネットで管理されており、閲覧できる範囲についても従業員の所属部署、地位に応じて定められていて、従業員においてもそのような情報保護の規程があることを認識することができた状況にあったといえるから、上記情報は、従業員においても、秘密と認識できるような取り扱いを行っていたといえる。そして、営業部員については、特に営業情報保護手順書が定められており、業務上知り得た医療機関の情報等について漏えいしてはならないなどとされていたことからすれば、従業員において、本件情報が秘密であることを十分認識できたものといえる。」等として、秘密管理性を認めました。

(8) 東京地裁平成28年2月15日判決(裁判所HP)

手書きによる紙媒体の顧客カルテファイル(顧客カルテ)のほか、パソコンを用いた顧客管理システム(顧客管理システム)によって管理されていた顧客情報について、営業秘密性が認められなかった事案です。

判示:「顧客カルテには、その表紙などに営業秘密である旨の表示はなく、本件店舗の従業員であれば誰でも見られる状態で保管されていたというのであるし、顧客管理システムは、本件店舗の従業員であればパスワード等を用いることなく誰でも顧客情報を閲覧することができたというのである。その上、被告が原告に在職していた当時、原告において、従業員に秘密保持義務を課す情報管理規定も存在していなかったというのであるから、本件店舗の顧客情報が、情報の利用者である従業員において秘密であると認識し得る程度に管理されていたと認めることは困難というほかない。」等として、秘密管理性を認めませんでした。

(9) 【刑事事件】東京高裁平成29年3月21日(高刑 70巻1号1頁)

通信教育等を業とし、特に通信教育市場において圧倒的なシェアを有する企業における顧客情報の営業秘密性が認められ、有罪となった事案です。

判示:「②当該情報にアクセスした者につき、それが管理されている秘密情報であると客観的に認識することが可能であることと並んで、①当該情報にアクセスできる者を制限するなど、当該情報の秘密保持のために必要な合理的管理方法がとられていることを秘密管理性の要件とするかのような判示をしている。しかしながら、上記の不正競争防止法の趣旨からすれば、②の客観的認識可能性こそが重要であって、①の点は秘密管理性の有無を判断する上で重要な要素となるものではあるが、②と独立の要件とみるのは相当でない。原判決の判示は、上記のような趣旨にも理解し得るものであるから、誤りであるとはいえない。そうすると、所論がいうように、Aが、本件顧客情報へのアクセス制限等の点において不備があり、大企業としてとるべき相当高度な管理方法が採用、実践されたといえなくても、当該情報に接した者が秘密であることが認識できれば、全体として秘密管理性の要件は満たされていたというべき」

3 まとめ

以上の裁判例から分かる通り、顧客情報について秘密管理性が認められるかどうかについては、営業秘密であることを従業員が認識できるようにするための措置を会社が取っているかどうかがポイントになると考えられます。

そのため、例えば、従業員にとって、どの顧客情報が営業秘密なのかが分からないという状況になっているとすれば、秘密管理性は認められないものと判断できます。

もっとも、逆に言えば、会社が、どの顧客情報を秘密として管理しているかについて、しっかり従業員に認識させていれば、秘密管理性は認められうるわけです。

前記2⑵の裁判例で争われている名刺情報のような、もともと秘密情報としての重要性がそれほど高くないと思われるものは別にしても、会社が経済活動を行うにあたって競争力を高めるための資源となっているような重要な情報については、社内で営業秘密であることを共有し、秘密情報として管理していくことを徹底することが重要です。

以 上

 

 

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