営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第9回|営業秘密要件としての「有用性」が否定された裁判例の紹介


営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第9回

営業秘密要件としての「有用性」が否定された裁判例の紹介

弁護士知財ネット事務局
弁護士 南部 朋子

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一 はじめに

不正競争防止法上の営業秘密として保護の対象となる情報は、「秘密管理性」、「有用性」及び「非公知性」の要件を満たす必要があるが、過去の裁判例において、「有用性」の要件を満たさないとしたものは少ない。
そのためか、秘密管理性の要件と比較して着目されることの少ない要件であるが、思わぬところで足元をすくわれないためにも、どのようなケースで「有用性」がない情報であると判断されたのかを知っておくことが肝要であると思われる。
そこで、本コラムでは、情報に「有用性」がないと認定された裁判例をいくつか紹介する。
なお、傍線は筆者が付したものであり、当事者名等は引用部分も含め適宜匿名化している。

二 裁判例

  1. 東京地裁平成11年7月19日判決(裁判所ウェブサイト)

原告は、主として中国からの食品、食品原材料の輸入、販売等を業とする会社であり、被告らは、食品原材料の輸入、販売等を業とする会社及びその従業員(原告の元従業員)である。
原告は、「油炸スイートポテトについての、販売原価の計算方法、原告及び売渡先の各売渡価格の決定方法に関する情報」であって、「真実の原価、利益率は企業秘密にしながら、表向きははるかに低い利益率であるかのように装い、取引の永続化を計りながら、実際には企業内で極秘に利益を獲得するという営業システム」を内容とする情報は、有用な情報であるなどと主張し、当該情報は原告の営業秘密であるのに被告らが不正使用行為等を行ったとした。
裁判所は、営業秘密の要件たる有用性の有無については、社会通念に照らして判断すべきであるとし、「原告が保護の対象とする内容は、必ずしも明らかではないが、その主張によれば、極秘に二重に帳簿を作成しておいて、営業に活用するという抽象的な営業システムそれ自体のようであり、そうだとすると、このような内容は、社会通念上営業秘密としての保護に値する有用な情報と認めることはできない」と判断した。なお、非公知性も否定している。

  1. 東京地裁平成14年2月14日判決(裁判所ウェブサイト)

原告は、公共土木工事の積算システムのコンピュータソフトウエアの販売等を目的とする株式会社であり、被告らは、原告と同業の有限会社及びその代表者・従業員ら(原告の元従業員)である。
原告は、「公共土木工事に関する●県庁土木部技術管理課作成の平成11年度4月1日時点の土木工事設計単価に係る単価表の単価等の情報のうち非公開とされているもの」を自らの営業秘密であるとし、これについて公共土木工事に入札しようとする業者が事前に知ることができれば、その業者にとっては県や市町村等が設定した予定価格に近い落札可能な範囲における最も有利な価格で落札することができるから有用性があると主張した。
裁判所は、不正競争防止法が営業秘密に有用性要件を課しているのは「保護されることに一定の社会的意義と必要性のあるものに保護の対象を限定する」ためだとし、「犯罪の手口や脱税の方法等を教示し、あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は、法的な保護の対象に値しないものとして、営業秘密としての保護を受けない」とした。
そのうえで、原告主張の情報については「地方公共団体の実施する公共土木工事につき、公正な入札手続を通じて適正な受注価格が形成されることを妨げるものであり、企業間の公正な競争と地方財政の適正な運用という公共の利益に反する性質を有するものと認められるから、前記のような不正競争防止法の趣旨に照らし、営業秘密として保護されるべき要件を欠く」と判断した。

  1. 東京地裁平成13年8月31日判決(判例時報1760号138頁、判例タイムズ1079号273頁、裁判所ウェブサイト)

原告はハンドバッグ等の皮革製品の輸入販売を業とする株式会社、被告はカバン製造及び卸売りを業とする株式会社である。
原告は、フランスのエルメス社の製造するバーキンと呼ばれるバッグの形態に酷似したバッグを、独自の標章を付してバーキンよりも廉価で販売していたところ、被告もその数年後から、独自の標章を付して同様のバッグを販売した。
原告は、「エルメス社の製品に酷似した製品を、エルメス社の価格の何分の1かの低価格で供給することにより、エルメス社の製品にあこがれながら、高価格なために購入できないでいる我が国の消費者層に狙いを絞り、商品展開を行うという開発方法」は原告の営業秘密にあたり、被告はこれを不正に使用したと主張した。
裁判所は、原告主張の開発方法につき、非公知性、秘密管理性及び有用性をいずれも否定して、営業秘密に当たらないと判断した(有用性を否定した理由は記載されていない)。

  1. 東京地裁平成15年2月26日判決(裁判所ウェブサイト)

原告は、オフィスの企画・設計・施工等を主たる業務とする株式会社であり、被告ら(3名)は通信事業等を業とする株式会社A、その従業員B、及びオフィスの企画・設計・施工を業とする株式会社Cである。
被告Aは、東京都新宿区内のビルに事務所を移転することを決定し、原告、被告Cなどに対し、本件コンペへの参加を求めた。
本件コンペは、参加者が本件事務所内部についての設計図を作成し、被告Aとその関連会社(被告Aとともに本件事務所に入居予定)が採用した参加者に本件事務所の設計及び施工を発注するというものであった。
本件コンペには原告及び被告Cが参加し、双方が設計図を提出したが、被告設計図の修正等を経て結局被告Cの設計図が採用され、同被告が施工者に決定した。
原告は、(原告の設計図に示されている)「被告Aの関連会社の専用部分を甲州街道側の壁面に配置する」という事項は営業秘密に該当し、被告Aが、原告設計図から得た情報を被告Cに開示することは、不正競争行為に当たると主張した。
裁判所は、「本件コンペにおいては、施主である被告A側が、建物全体の形状及びその内部に設ける部屋の種類、面積等の設計条件をあらかじめ示した上で、設計図を作成させているため、選択し得る配置は限られたものとなっていたのであって、このような制約を前提として、設計者である原告が、そのうち一つの配置を選択したとしても、その配置は、施主側が示した設計条件と相まって決められたものである。」とし、当該経緯に照らすと「被告Aの関連会社の専用部分を甲州街道の壁面にする」というような事項は、これをもって原告が本件コンペにおいて選考される上で重要な価値を有するものとはいえないから(通常の施主は、これらの条件を満たす全体を総合評価して選考するものと解される。)、設計者の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報に当たるということはできない」と判断した。

  1. 東京地裁平成23年3月2日(裁判所ウェブサイト)

原告は、電子機器等の製造・販売を業務とする台湾法人であり、被告は、電子・電気機械器具の製造・販売を目的とする株式会社である。
被告は、原告に対し、小型USBフラッシュメモリの製造委託の可能性について打診し、当事者間で小型USBフラッシュメモリに搭載するフラッシュメモリの規格寸法やそれに応じた本体寸法の策定、LEDの搭載等についてメール等によって協議が進められた。
しかし、結局協議は打ち切られ、被告は別の台湾企業に小型USBフラッシュメモリを製造委託して、これを輸入販売している。
原告は、当該小型USBフラッシュメモリは、原告が示した営業秘密(小型USBフラッシュメモリに関するさまざまな技術情報)を被告が不正に使用して製造されたものであると主張した。
裁判所は、原告主張の上記情報につきいずれも営業秘密性を否定した。
たとえば、原告は、LEDの搭載の可否、搭載の位置、光線の方向、実装に関する情報が営業秘密であると主張したが、裁判所は、「LEDの搭載の可否、搭載位置、光線の方向は、被告から提案された選択肢及び条件を満たすために、適宜、原告において部品や搭載位置を選択したものであって、原告が被告に対して提供した情報の内容は、当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎないものと認められる。また、LEDの実装に関する情報についても、同様である。したがって、これらの情報は、いずれも有用性があるとは認められず、原告の保有する営業秘密であると認めることはできない。」とした。
さらに、原告が別途主張した、「個別の情報が既知であったとしても、組合せ方が既知ではなく、また、有機的に一体となり実用レベルで小型化した成果物として、有用性を有する」との点に対し、「本件においては、小型USBフラッシュメモリの寸法は、被告において決められていたのであり、その寸法に応じて、公知の技術をどのように組み合わせて各部品を配置するかは、当業者であれば、通常の工夫の範囲内において適宜選択・決定する設計的事項であるということができ、当該組合せによって、予測外の格別の作用効果を奏するものとも認められない。したがって、これらの情報を一体とみたとしても、有用性があるとは認められず、営業秘密であると認めることはできない。」と判断した。
なお、原告は控訴したが、控訴は棄却された(知財高裁平成23年11月28日裁判所ウェブサイト)。

  1. 東京高裁平成11年10月13日判決(裁判所ウェブサイト)(原審:浦和地裁川越支部平成10年11月19日判決 LEX/DBインターネット文献番号28051227)

控訴人(一審原告)は、鍼灸による治療院を開業している鍼灸師であり、被控訴人ら(一審被告)は、もぐさ等の製造販売を行っている株式会社及びその取引先である。
控訴人は、「ピラミッドパワー」という商品名の、固形もぐさを用いた間接灸を製造・販売し、治療院での鍼灸治療に使用していた。
控訴人は、被控訴人らが「つぼきゅう禅」という名称の間接灸を製造販売しているがその商品は「ピラミッドパワー」を真似たものであり、被控訴人らが共謀の上、控訴人の営業秘密を不正取得して使用したと主張した。
控訴人の主張する営業秘密は、「『ピラミッドパワー』の効能及びその製造方法であり、その主張する製造方法とは、具体的には、もぐさの量、糊で固める際の水加減、乾燥時間、台座の材質、厚さ、固形もぐさの台座への接着方法」であった。
裁判所は、営業秘密性を否定した原審の判断を維持した。
具体的には、まず「一般に、『ピラミッドパワー』のような商品の効能は、積極的に宣伝広告する対象ではあっても、それ自体が秘密として管理されるような情報であるとは考え難い」などとして、「ピラミッドパワー」の効能につき、秘密管理性・有用性を否定した。
また、もぐさの量、台座の材質、厚さ、固形もぐさの台座への接着方法については、「商品としての『ピラミッドパワー』を取得し観察すればたやすく認識し得る事項である」として、秘密管理性・有用性を否定した。
さらに、もぐさを糊で固める際の水加減及び乾燥時間については、「固形もぐさの硬さに関係する要素であるが、その硬さ自体は、商品としての『ピラミッドパワー』を取得し観察分析すればたやすく認識し得る事項であるうえ、もぐさの粉を水で溶いて糊で固形化し、乾燥させるその固形化の方法が極めてありふれたものであって、前示水加減及び乾燥時間等は、所定の硬さとの関係で適宜設定することが可能な程度のものと解される」として、秘密管理性・有用性を否定した。

  1. 東京地裁平成12年12月7日判決(判例時報1771号111頁、判例タイムズ1098号222頁、裁判所ウェブサイト)

原告は、警備業務、ビルメンテナンス業務、車両運行管理業務等を目的とする株式会社、被告は、社用車、スクールバス等の運行管理請負及び保守、修理、保管に関する業務等を目的とする株式会社である。
原告は、契約内容一覧表(契約先のみならず、その担当者、基本管理料、日数、時間、契約満了日等の内容を含む)及び管理車両&運転者一覧表は、自らが作成し保有している営業秘密であり、それを原告の元従業員であって被告に転職した者を通じ、被告が不正に取得・使用したと主張した。
裁判所は、原告の顧客名については、原告自らが公表しており非公知性がないとし、基本管理料、車種、サービス内容等の個々の項目については、「同業者であればおおよそその内容は見当がつく性質の情報であり、個々の営業活動において顧客から聞き出したり、逆に顧客が他社の見積りを見せて交渉することも広く行われている」旨認定し、「これらをまとめた資料があれば便利であるが、なくても別の方法で取得することは可能であって、営業秘密であるための要件としての有用性までは認められない」と判断した。なお、秘密管理性についても否定している。

  1. 大阪地裁平成20年11月4日判決(判例時報2041号132頁、裁判所ウェブサイト)

原告は、写真、図柄、絵画等を特殊樹脂加工して路面及び壁面に転写する業務等を目的とする株式会社であり、被告らは、屋根工事の請負業等を目的とする株式会社及び各種セメント瓦の製造販売等を目的とする株式会社である。
原告は、「発熱部とその周りに表面層を有し、発熱部と表面層はともにセメントをベースとし、発熱部は導電性を高くするよう炭素を所定割合均一に混合している融雪板の構造」などの情報が原告の営業秘密であるとし、被告らが、原告の従業員から当該営業秘密を平成15年に不正に取得し使用したと主張した。
裁判所は、上記原告主張の情報のうち「炭素を所定割合均一に混合している」との部分以外は、平成12年公開の公開特許公報に記載された発明(融雪道路用構造材)によって公知だったと認定した。
さらに、この「発明において、セメントに炭素を混合することが開示されている以上、炭素を混合するに当たり、偏りのないよう均一に混合するというのは、当業者であれば通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択する設計的事項にすぎない。また、上記相違点に係る情報(筆者注:『炭素を所定割合均一に混合している」という情報を指すと思われる)には炭素を均一に混合するための特別な方法が具体的に開示されているわけでもない。したがって、単に均一に混合するという上記相違点に係る情報は、それだけでは到底技術的に有用な情報とは認め難い」として、「炭素を所定割合均一に混合している」との部分について有用性を否定している。

三 まとめ

以上の「有用性」否定裁判例を極めておおまかに分類すると、①反社会的情報等にあたり保護することが法の趣旨に合致しない情報についての裁判例(1~3)と②当業者であれば通常の創意工夫の範囲内で到達しうる情報についての裁判例(4~8、3も該当するといいうる)に分けることができると思われる。
このほか、有用性を否定した裁判例として、そもそも営業秘密の存在・内容についての主張・立証が不十分であるため、他の要件とともに有用性が否定されているものも存在するが、本コラムでは割愛させていただく(下記参考文献を参照されたい)。

参考文献:
川上正隆「『営業秘密』と『業務上の有用情報』に係る法的課題」
青山ビジネスロー・レビュー第4巻第1号2014.9 pp1-29 http://www.als.aoyama.ac.jp/pdf/AoyamaBusinessLawReview4-1.pdf にて入手可能 (最終アクセス2017.3.11)


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