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営業秘密メルマガコラム

2021.01.12

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第55回|営業秘密の「使用」が認められた事例

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第55回

営業秘密の「使用」が認められた事例

弁護士知財ネット
弁護士 末吉 亙

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今回は、技術情報である営業秘密について、その「使用」が大きな争点となったところ、設計図の類似性等を認定して営業秘密の「使用」が認められた事例を紹介します。

ここで取り上げる本件判決は、名古屋高裁金沢支部判令和2年5月20日平30(ネ)80・81(公表文献等はありません)です。この原審判決は、福井地判平成30年4月11日平26(ワ)140・平29(ワ)15(Westlaw Japanという判例データベースに掲載されています)です。

1.事案の概要

今回のテーマに即して、少し事案を簡素化して、以下説明します。

X(原告・被控訴人)及びY(被告・控訴人)の間の本件基本契約(建築資材であるクロス下地コーナー材等の製造をXからYに委託するもの)が終了した後のことです。Yが、本件基本契約に基づきXから開示を受け、又はXの従業員から不正に開示を受けて取得したXの営業秘密に当たる技術情報を使用して、原審判決別紙物件目録記載の26製品(本件Y製品)を製造して販売したことが、営業秘密に係る不正行為(不正競争防止法2条1項7号又は8号)に該当するとして、XからYらに対して本件訴訟が提起されました。Xは、本件訴訟でYに対し、本件Y製品の製造及び販売の差止め(不正競争防止法3条1項)並びに本件Y製品の廃棄(不正競争防止法3条2項)などを求めています。

ここで、本件営業秘密は、一般に知られていない構造・形状の特定の金型及びサイジングを前提に、これらを使用してXのコーナー材を製造するに当たって、どのような原料及び製造装置を用い、いかなる運転条件を設定するかを明らかにした技術情報であり、①金型とサイジング(金型から押し出された樹脂がサイジングという成形型を通過して所定の形状が維持されます)の間の冷却方法、②サイジング内部の冷却方法(真空吸引・通水)、③押出機や金型の設定温度、④メッシュスクリーンの使用の有無等によって構成されています。なお、クロス下地コーナー材とは、クロス貼り作業の前に角や柱の傷を防止するために取り付けられる建材で、両面テープで簡単に仮止めできるようになっているものです。このコーナー材は、プラスチック原料を金型及びサイジングの内部を連続的に通過・移動させながら冷却固化させる成形法(押出成形法)により製造されます(V字型やU字型等の複雑な形状の製品の製造方法は異形押出成形法といいます)。

原審は、Yによる不正競争防止法2条1項7号又は8号の営業秘密侵害行為の成立を認めて、XのYに対する不正競争防止法3条1項、2項に基づく製造の差止め等の請求などを認容しましたが、敗訴部分を不服とするYが控訴しました(Xも敗訴部分を不服として附帯控訴しましたが、ここでは省略します)。

控訴審も、XのYに対する、不正競争防止法3条1項、2項に基づく本件Y製品の製造の差止め等の請求は理由があるとしました。

2.判決理由

ここでは、営業秘密の要件(①秘密管理性、②非公知性、③有用性)及び営業秘密侵害行為の認定についての判決理由を検討します。なお、本件判決は、基本的には原審判決を是認するものなので、以下では、原審判決をまず掲げ、必要に応じて本件判決にてこれを補うこととします。

2-1.営業秘密要件①-秘密管理性について

原審判決は、つぎのように判示して、Xの成形指導書、金型図面及びサイジング図面に記載されている本件技術情報についての秘密管理性を認めました。

なお、以下の枠内は、いずれも判決からの引用ですが、原告・被控訴人をX、被告・控訴人をYと言い換えています。また、「●●●」部分は判決書上の伏せ字を、「・・・」部分はここでの引用に際して省略した部分をそれぞれ表しています。

(1)「・・・成形指導書には、コード番号、製品名、当該製品の断面図、規格寸法、試作品寸法、規格重量、試作品重量、原料名等のほか、「成形ポイント」との項目で、金型やサイジングを含む製造装置の配置図面に加えて、●●●、本件X製品の製造に必要な装置及び運転条件その他の各種情報が記載されていること、そして、本件技術情報は、成形指導書に記載された上記の各種情報から、特徴的なものを製品ごとに抽出して整理したものであることが認められる。」「・・・本件X製品の製造に使用される金型及びサイジングは製品ごとに個別的に決まっているため、金型及びサイジングの設計図には成形指導書と対応するコード番号が記載されており、成形指導書と金型及びサイジングとは、同一のコード番号によって互いに関連付けられていることが認められる。」「・・・押出成形法によるコーナー材の製造は、材料の熱経歴や気温等の条件により、製品の表面状況、寸法精度、物性値等が微妙に変化しやすいため、金型、サイジングその他の設備をきめ細かに調整する必要があり、とりわけ異形押出成形法はより難度の高い技術を要することから、異形押出成形法による製品のメーカーは、独自に金型やサイジングを設計・製作して成形のノウハウを見いだしていることを考慮すると、Xの成形指導書に記載される前記の各情報(本件技術情報を含む。)は、互いに有機的に関連・連動しており全体として一つの製造ノウハウを形成していると考えるのが合理的であり、また、特定の金型及びサイジングの構造・形状を前提として初めて意味を持つものであるというべきである。」「そうすると、本件技術情報の秘密管理性を判断するに当たっては、成形指導書のみならず、これと一体となるべき金型及びサイジングの設計図面の管理状況も併せて考慮するのが相当である。」

(2)「・・・成形指導書、金型図面及びサイジング図面は、いずれもXの技術部事務所内の施錠可能なロッカーに保管されており、必要な場合に限って持ち出しが許されていたこと、金型図面及びサイジング図面の電子データは、フロッピーディスク及びXの技術部設計企画課長であった●●●・・・の使用する、外部及び内部のネットワークから遮断されたパソコンのハードディスク内にしか保存されておらず、当該データへのアクセスが許可されていたのは、同人を含む設計担当者3人のみであったこと、Yが本件Y製品の製造をする場合は、Xから貸与を受けた金型及びサイジングを使用すれば足り、当該金型又はサイジングの設計図をYに開示することまでは取引上想定されていなかったことが認められる。」「以上のような、成形指導書、金型図面及びサイジング図面の保管状況等のほか、・・・に認定した成形指導書の内容等に鑑みると、成形指導書に記載された本件技術情報は、全て秘密として管理されていたと認めるのが相当・・・」

この点、控訴審判決である本件判決では、基本的に同旨判断としつつ、Yの主張に答えて、つぎのように判示を補充しました。

「・・・営業秘密として厳格に管理しようとするXの意識が希薄であったことは否めないが、XがYとの間で締結した本件旧基本契約(本件基本契約も同じ)では、Xは、Yに対して製造に必要なノウハウの開示を書面により行い、他方で、Yにおいて、開示されたノウハウの複製や漏えいが禁止されているから・・・ 、Xにおいて、成形指導書の交付に係る記録を残しておらず、成形指導書にマル秘の印が押されていないなど書類としての管理が緩やかであったからといって、直ちに秘密管理性が否定されるものではない。」

2-2. 営業秘密要件②-非公知性について

原審判決は、つぎのように判示して、本件技術情報の非公知性を認めました。

「・・・Yらの指摘する技術情報は、当該情報を独立に取り出して一般的な技術情報として見た場合、それ自体としては、市販されている書籍等から知り得るものであると認められる。」「しかしながら、・・・に認定したとおり、Xの成形指導書には、原料名、製造装置の図面、●●●製品ごとに具体的な数値や内容が記載されているところ、このような個別具体的な情報が書籍等から一般に知り得るものと認めるに足りる証拠はない上に、これらの複数の情報が全体として一つの製造ノウハウを形成しているといえることは既に説示したとおりであるから、部分的に見れば書籍等から知り得る技術情報が含まれているとしても、そのことをもって直ちに非公知性が否定されるものではない。」「また、本件技術情報は、前示のとおり特定の金型及びサイジングを前提として初めて意味を持つものであるところ、・・・Xが本件X製品を製造するために使用していた金型及びサイジングの構造・形状は、いずれも市販されている書籍等により一般に知られているものではないと認められる・・・、そうであるとすれば、一般に知られていない構造・形状の特定の金型及びサイジングを前提に、これらを使用してコーナー材を製造するに当たって、どのような原料及び製造装置を用い、いかなる運転条件を設定するかを明らかにした本件技術情報も、一般に知り得るものではないことは当然である。」「以上に加えて、・・・本件旧基本契約及び本件基本契約において、Yは、Xから開示された、コーナー材等の製造に必要なノウハウを他に漏洩しないよう管理すべき旨が明示的に定められていることも併せて考慮すると、・・・本件技術情報は、公然と知られていないものであると認めるのが相当・・・」

以上のとおり、原審判決では、本件技術情報が「一般に知られていない構造・形状の特定の金型及びサイジングを前提に、これらを使用してコーナー材を製造するに当たって、どのような原料及び製造装置を用い、いかなる運転条件を設定するかを明らかにした」ものであり、「全体として一つの製造ノウハウを形成している」と分析して、非公知性を肯定しています。

この点、控訴審判決である本件判決では、基本的に同旨判断としつつ、Yの主張に答えて、つぎのように補充して判示しました。

「・・・本件の当時には、一般的に知られている技術情報が本件技術情報の中に含まれているが、本件X製品を製造するための金型及びサイジングと一体となった運転条件としての本件技術情報には、なお非公知性があるものというべきである。」

2-3.営業秘密要件③-有用性について

原審判決は、つぎのように判示して、本件技術情報の有用性を認めました。

(1)「・・・本件コーナー材のような異形押出成形法による製品の製造は、難度の高い技術を要し、同製品のメーカーは独自に成形ノウハウを見いだしており、成形指導書に記載される製造に必要な装置や運転条件その他の各種情報は有機的に関連・連動し全体として一つの製造ノウハウを形成しているといえるところ、本件技術情報は、製品ごとに製造方法に関する特徴的な部分を抽出・整理したものということができるから、全体として、Xにおけるコーナー材の製造販売の事業活動に有用な技術上の情報であると推認するのが相当である。」

(2)「・・・ある技術情報が、他の情報と組み合わされることにより、又は一定の条件の下で用いられることによって、より高品質の製品の製造に寄与するという場合にも、当該情報の有用性を否定する理由はない・・・」

このように、原審判決も控訴審判決である本件判決も、いずれも営業秘密該当性を肯定しました。

2-4.営業秘密侵害行為の認定

原審判決では、営業秘密侵害行為の認定において、まず、商品の製造に当たっては、金型及びサイジングが用いられているので、金型の設計図及びサイジングの設計図を詳細に比較して、これら設計図において、①Xが独自に開発した複数の事項が共通しているので両図面は有意に類似する、②Yが詳しい寸法を明らかにしている金型については、その寸法が1000分の1mmの桁までXの金型と一致している、などとして両図面の類似性を認めています。そのうえで、つぎのとおり、営業秘密侵害行為(使用など)を認定しました。

ア ・・・において認定・判断したとおり、本件Y製品のうち、その製造に用いられた金型及びサイジングの設計図が明らかになっている6製品・・・については、基本的な形状が類似する本件X製品と比較すると、それぞれの製造に使用される金型又はサイジングが、その構造等において有意に類似しているといえる。

また、本件Y製品のうち、上記の6製品以外のものについて、本件X製品の製造に使用される金型又はサイジングとは全く異なるものを用いて製造されていることをうかがわせる証拠は見当たらない。

イ 加えて、・・・の認定事実によれば、①Yは、本件基本契約の解除前から、本件X製品と同一又は類似の製品をXを介さずにXの顧客に直接販売しようとしていたこと・・・、②異形押出成形法は、難度の高い技術であり、コンピュータによるシミュレーションが困難であるため、異形押出成形法による製品のメーカーは、独自に金型やサイジングを設計・製作した上で、成形のためのノウハウを見いだしているというのに、Yは、本件基本契約の終了直後から、本件Y製品の販売を開始していること・・・、③Xの保有する金型図面やサイジング図面ないしその電子データは、外部への無断の持ち出しや開示が社内的に禁じられていたにもかかわらず、Xの従業員の何者かがYに対して提供していたとしか考えられないこと・・・、④本件技術情報に精通するXの従業員2人が、Yに移籍していること・・・が認められる。

ウ さらに、Xが本件訴訟においてYらに対し不正競争防止法6条本文に基づいて本件Y製品の製造に係る金型及びサイジングの構造を明らかにするように求めたのに対し、Yらは、上記金型及びサイジングの大半の構造を明らかにしなかったものである・・・。

エ 上記アないしウに指摘した事情を総合的に勘案すれば、Yは、本件基本契約が解除された平成25年5月20日以降、本件Y製品を製造・販売するに当たり、Xとの取引継続中に同契約に基づき開示を受けた本件技術情報を、不正の利益を得る目的で、若しくはその保有者であるXに損害を加える目的で使用しているか、又は同契約の終了前後のいずれかの時期にXの従業員が守秘義務に違反し、若しくは上記いずれかの目的で開示した本件技術情報を、このような不正開示行為が介在したことを知って使用しているものと推認するのが相当である。

オ なお、Yらの指摘するXのサイジング図面の不備、本件X製品と本件Y製品の寸法や原料の差異、XとYとがそれぞれ有している製造装置の差異等は、既に認定・説示したところに照らし、上記認定を覆すに足りない。

また、本件技術情報のみでは本件Y製品を製造することができず、当該製品の規格・寸法に合った原料や、運転条件等の細やかな調整等が必要であるとしても、そのことによって、Yによる本件技術情報の使用の有無に関する認定が直ちに左右されるものではない。

このように、原審では、XY両者の図面が有意に類似している点、Y製品の販売開始が不自然に早い点、Yが具体的態様の明示義務を訴訟で尽くさなかった点などが、営業秘密侵害行為の認定のための間接事実とされています。

ところで、Yが本件技術情報を使用したといえるかという点について、控訴審判決である本件判決では、つぎのように補充して判示しています。

ア Yが本件技術情報を使用したといえるかという点については、以下の点を指摘することができる。

(ア)本件技術情報は、①金型とサイジングの間の冷却方法、②サイジング内部の冷却方法(真空吸引・通水)、③押出機や金型の設定温度、④メッシュスクリーンの使用の有無、●●●等によって構成されるものである。

そして、Yでは、Xから貸与を受ける金型・サイジング以外の本件X製品を製造するための押出機等の装置はYが使用するものとXが使用するものは同一ではなく・・・、また、成形指導書には、Xが使用する押出機(スクリュー)の仕様(圧縮比・有効長)に関する情報等が不足しているほか、Yにおいて、Xから開示を受けた成形指導書に記載された設定のとおりの運転条件で本件X製品を製造することが予定されたものでもない・・・。特に、上記③の設定温度については、本件X製品の原料であるPVCやABS自体は特殊なものではないところ、これらの原料には押出成形をするのに適した一定の温度帯があり・・・、成形指導書に記載された設定温度以外では、貸与された金型等を用いて本件X製品を製造できないというものではなく、また、本件製品は上記の温度帯から外れた特殊な温度で製造するものではない。

(イ)また、コーナー材の製造業者は自らで金型やサイジングを設計することは少なく、それぞれで入手した金型等を用いて、それぞれが使用する装置等を使って実際の運転条件を独自に見出しているものと考えられる。

(ウ)さらに、Yにおいて、本件基本契約終了後に本件Y製品の製造を開始した時点では、上記①の金型とサイジングの間を空冷することは既に知られた技術情報であり・・・、上記②のサイジング内部の冷却方法や上記④のメッシュスクリーンの使用自体も一般的な文献に記載がある(なお、Xではメッシュスクリーンについて、●●●旨主張しており、その使用の有無が製品を製造するのに決定的な違いをもらすような事項であるとは考え難い。)。

イ 以上の点からすると、本件X製品の製造にあたっては、製品ごとに製造に適した運転条件を試行錯誤を重ねながらいわば手探りで見出していくことが必要であるから、Yにおいて、Xから金型等の貸与を受けた当初の時点では、成形指導書に記載された技術情報のすべてを有していたと認めるに足りない以上、その記載内容も参考にしながら、本件X製品を製造するのに適した運転条件を見出していったものと推認される。

確かに、その試行錯誤の過程において、YではこれまでYの製造装置を用いて培ってきた自らの経験や製造ノウハウを駆使することとなり、この経験や製造ノウハウなくしては本件X製品の製造に適した運転条件は見出すことはおそらくできなかったであろうこと、また、金型が貸与されさえすれば、本件技術情報が提供されなくともYにおいては遅かれ早かれ本件X製品の製造に適した運転条件を見出すことができたであろうことは否定しがたいものの、そうであっても、本件技術情報が各金型固有のものとして提供され、上記のとおりその有用性が認められるものである以上、これを利用することは、自由競争の範囲を逸脱して公正な競争秩序を破壊するものであるといわざるを得ず、7号所定の使用に当たるというべきである。

このように、本件技術情報が提供されなくともYにおいては遅かれ早かれ本件X製品の製造に適した運転条件を見出すことができたであろうことは否定しがたいものの、本件技術情報が各金型固有のものとして提供され、その有用性が認められるものである以上、これを利用することは、自由競争の範囲を逸脱して公正な競争秩序を破壊するものであるといわざるを得ず、7号所定の「使用」に当たるとされました。つまり、Yの経験や製造ノウハウが活用されているとしても、試行錯誤の時間を省略することは、自由競争の範囲を逸脱して公正な競争秩序を破壊するものであり、営業秘密侵害の責めを免れないわけです。

さらに、控訴審判決である本件判決は、つぎのとおり、8号所定の不正競争行為にもあたるとしました。

・・・Yは、本件基本契約が解除された日の翌日である平成25年5月21日以降に、本件Y製品を製造販売するに当たり、Xの従業員が守秘義務に違反して開示したXの営業秘密に当たる金型等の図面ないしそのデータを、Xから貸与された金型等の設計図面ないしそのデータの不正開示行為であることを知って取得し、これを利用して作製した金型及びサイジングを用いて本件Y製品を製造しているものと推認される。

したがって、上記の行為は不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為に該当するものと認められる。

3.実務上のポイント

一般的に、営業秘密の「使用」が争点になると、その立証には難しいものがあります。この観点から、実務上のポイントを検討します。

3-1.裁判例

ここで、設計図の類似性等を認定して、争点であった営業秘密「使用」を認めた裁判例を検討しましょう。

(1)知財高判平成23年9月27日平22(ネ)10039・10056〈裁判所Webサイト〉〔PCプラントに関する図面〕

本件では、①記載された機器・部品の種類、それらの区分の仕方、記載の順序がほぼ同一であること、②各工程における主要な機器等の種類・構成、図面上の配置場所がおおむね一致していること、③CAD化された後に追加された機器についてもおおむね一致していること、④記載された内容は、限られた企業グループしか保有しておらず、しかも、個々の企業が独自に開発したPC樹脂の製造技術に関するものであって、無関係に作成された図面がそのように酷似することは考えにくいことからして、Y図面はX図面を基に作成されたものと認め、営業秘密の「使用」を認めました。図面の類似性と、記載された情報の特異性がポイントでした。

(2)東京地判平成23年4月26日平20(ワ)28364〈裁判所Webサイト〉〔PCプラントに関する図面〕

本件では、Yらは、Y社が作成したPCプラントの完成図面(Y基本設計図書)はY社が独自に作成したものであると主張して争いましたが、本判決は、証拠提出されている図面は、専門家の意見も踏まえ、その記載内容の特異性等からA基本設計図書の一部であると認められるとした上で、Y基本設計図書の一部はA基本設計図書の一部を複製したものであると認定し、本件における諸事情から、Y社はA基本設計図書のすべてを複製してY基本設計図書を作成したものであると推認されると判断しました。さらに、A基本設計図書のコピー又は電子データは、以前A社に在職していたCがA社の従業員に働きかけて、持ち出させて取得したものであり、Y社は、Cが不正な手段によりA基本設計図書全部のコピー又は電子データを取得したことを知りながら、Cから当該コピー等を取得した上で、これらを複製してY基本設計図書を作成し、B社に提供し、更にB社を介して第三者に提供したものであることが認められると判断し、営業秘密の「使用」等を認めました。図面の同一性の鑑定意見と、図面の入手等の経緯がポイントでした。

(3)名古屋地判平成20年3月13日平17(ワ)3846判時2030号107頁〈裁判所Webサイト〉〔産業用ロボットシステム設計図面・CADデータ等〕

本件では、YらがH社から受注したロボットシステムの設計にXの設計図面・CADデータ等を使用したか否かについて、Xの設計図面・CADデータ等とYらの設計図面とを比較して、①ロボットシステムの基本的構造がほぼ同様であること、②一部を除き品番・個数・メーカーが同じ部品が使用されていること、③部品の中には若干寸法が異なるもののその形状が酷似しているものがあること、④その図面中に不自然な一致状況(誤記と思われる記載が双方にある点、中心線等を示す一点鎖線の描画状況が全く同一である点、半径を記載すべきところにその記載がない点)があることから、設計図面・CADデータ等の使用の事実を認定しました(ただし、一部の設計図面については使用した事実が認められないとしました)。図面中にある不自然な一致を含む類似性がポイントでした。

(4)大阪地判平成15年2月27日平13(ワ)10308・平14(ワ)2833〈裁判所Webサイト〉〔セラミックコンデンサー積層機等設計図電子データ〕

本件では、①X製品とY製品は、設計者が自由に決めることができる部分について、多くの点で一致又は酷似していること、②装置の設計について3ヶ月程度かかるはずのところ、YらがXを退社してからY社が見積依頼するまでの期間が約40日であること等を総合して、Yらが本件電子データを無断で複製して取得し、これを自ら使用し、Y社へ開示したことなどを推認しました。図面の類似性と、不自然に短い開発期間がポイントでした。

(5)福岡地判平成14年12月24日平11(ワ)1102・3694・3678判タ1156号225頁〔半導体全自動封止機械装置等の生産方法に関する個々の設計又は製造技術情報〕

本件は、半導体全自動封止機械装置、半導体全自動封止機械装置用コンバージョン及び半導体封止用金型の生産方法に関する個々の設計又は製造技術情報等の営業秘密について、図面の類似性を認定し、従業員の引き抜きに伴い営業秘密の不正取得・不正使用が行われたと認定された事例です。

3-2.本件判決の実務上の意義

このように、図面の類似性は、とくに技術情報にかかる営業秘密の「使用」認定において、決め手になることが多いと解されます。本件判決も、この点は同様です。ただ、本件判決では、侵害者側の経験や製造ノウハウが活用されているとしても、試行錯誤の時間を省略することは、自由競争の範囲を逸脱して公正な競争秩序を破壊する旨指摘されており、このような秘密技術情報利用が、営業秘密使用行為の射程内であることを明確にしています。ここに、本件判決の意義があります。

なお、たとえば、営業秘密でも、木型に含まれる靴の設計情報の場合には、木型自体の形状や寸法で構成されている技術情報なのですから、元々の木型にパテを盛って、形状・寸法を変更すれば、元の設計情報はその部分において失われることとなりますので、このような変更によって、営業秘密とされる設計情報が残存していないと判断される場合があることに留意すべきでしょう(知財高判平成30年1月24日平29(ネ)10031〈裁判所Webサイト〉〔靴の設計情報〕)。

以 上

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