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知財よもやま話

2015.06.18

【知財よもやま話】 第6話 弁護士の活動による知財の活性化

弁護士の活動による知財の活性化
知財よもやま話 第6話

 飯田秀郷

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【知財関連事件の現状】

最近の地方裁判所の知的財産権関係民事事件の統計によれば、平成16年から同26年の11年間では、年間500~600件の新受件数で推移していて、目立った増加傾向も見られない。特許権に関するものが約4分の1から3分の1、著作権に関するものが約5分の1から6分の1の割合といった事件種別である。

知的財産関係訴訟の平均審理期間が約15~16ヶ月だから、地方裁判所に係属する事件は600~750件くらいと推定できる。このため、年間1200~1500件について原告及び被告の代理人が関与するはずである。代理人が複数就任することも多いと考えると、年間述べ2000名くらいの弁護士が地裁の知財事件に関与している計算になる。そして、知財ネットの登録会員数は、約1000名であるから、代理人が全て会員であるとみなしても、会員1名につきわずか2件について関与しているにすぎないことになる。

これは、驚くほど少ない。知財事件が少ないから当然の結果ではあるのだか、やはり寂しい気がする。

知財関連事件は、これを取り扱う醍醐味があり、興味が尽きない。もっと多くの会員にその醍醐味を味わってほしいと常々思っている。

【知的財産戦略本部】

政府は、知財立国を旗印に平成15年(2003年)から10数年にわたって知的財産戦略本部を中心にハイレベルな政治的関与により新たな知的財産政策立案を行ってきた。これにより、知的財産高等裁判所の設立をはじめ、組織、体制面が整備された。同時に、特許審査の迅速化がはかられ、大きな成果を上げた。さらには、水際対策の大幅な強化が行われ、輸入差止件数は、平成15年から25年の10年間で約5倍に増加した。

しかし、知的財産権の活用という面では殆ど変化がないのが実情である。ライセンスが目立って増加しているわけでもなく、知的財産権の移転といった知的財産取引が頻繁に行われているわけでもない。立案された新政策が民間の個々のプレーヤーの行動にまで影響を与えていないということである。上記の訴訟件数の推移も、その一環にある。

知的財産権のエンフォースメントを高めることにより、知的財産権関係訴訟を活性化できるのではないかとの議論がなされているが、政府主導の知的財産政策立案では、民間は動きそうもない。

【弁護士の活躍の場】

民間の知財活用の意欲が高まらないのは、景気が低迷していたことも関係しているだろう。しかし、景気が悪いと、経済活動において知財活用は二の次になってしまうのだろうか。総論では、企業は知財の重要性を認識しているものの、活用の仕方がわからず、低迷しているという面も大いにあるように思えてならない。

このあたりに、弁護士が活躍する場面が広がっているように思える。通常民事事件でつきあいのある中小企業が、メーカーであれば、製造に関する何らかの技術が関係していて、特許、実用新案権と無関係ではいられない。下請け企業が高い技術水準を誇っていることも多々あり、そのような高い技術が、知的財産としての保護を受けずに、模倣の嵐にさらされていることも多い。このような状態を改善する方策を、知財の知識に基づき提案し、場合よっては事件として立件することもあるだろう。流通やサービス業でも、新たなビジネスモデルで差別化したりして生き残りを図っていれば、その保護の方策は有益である。

IP関連企業であると、新たなビジネススキームに繋がるサービスを発案していたりする。知財にも関心があって特許出願までしてはいるものの、その事業化に目処がつかず、大手企業を巻き込もうとして営業をかけたにもかかわらず。失敗し、気がついたら同様のサービスが大手によって行われてしまったということもある。特許出願の過程でアドバイスができれば、模倣を禁じるポートフォリオの構築を具体的に提案し、特許ポートフォリオを背景に他の企業との連携を主導するようなビジネスの展開を提案することも考えられる。模倣した企業に対する侵害訴訟の提起も視野に入るが、侵害行為を禁止したとしても、サービスの事業化がおぼつかないのであれば、ライセンスを付与するという選択肢もある。さらには、さらなるポートフォリオの構築を図りつつ、訴訟提起を見合わせて別の企業との連携を図る方が、そのIP企業の大きなビジネスに繋がる可能性がある場合もある。

コンテンツ開発企業であると、従来のコンテンツを凌駕する新コンテンツ態様とそのコンテンツ配信のための暗号化技術までを開発しているかもしれない。ディジタルコンテンツの模倣問題を一気に解消してしまう可能性を秘めているとしたら、これをどのようにビジネス展開し、場合よっては、デファクトスタンダード化する道筋を提案できるかもしれない。

【展望】

個々の民間企業の知財活用を活性化させる地道な努力と行動が、在野の弁護士の使命であり、社会から期待されている役割である。そこに、弁護士としての仕事の獲得の途もあるように思える。上記は、抽象的に述べたが、知財関係訴訟の傍ら、私が現在実際に手がけている案件をご紹介したものである。

高度なアドバイスは、知財訴訟の豊富な経験がなければできないなどとあきらめる必要はない。少なくとも素人のビジネスパーソンよりは、法的素養と訴訟経験があり、何よりも知財の知識はある。経験不足が心配であれば、知財ネットでアドバイスや助力をお願いする手もある。やっているうちに、勘所はつかめるし、依頼を受けたら必死に勉強せざるを得ないのだから、何とかなるものである。

以上、駄文であるが、若手の知財弁護士のご参考になれば幸いである。

 

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