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知財よもやま話

2015.09.02

【知財よもやま話】 第7話 知財の黎明期にあるASEAN諸国

知財の黎明期にあるASEAN諸国
知財よもやま話 第7話

 伊原友己

PDF版ダウンロード:【知財よもやま話(7)】 知財の黎明期にあるASEAN諸国

1.ASEAN(アセアン)って?

ニュースでは良く耳にしますが、さて、どこの国の話でしょうか?(笑)

外務省のホームページ (http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asean/) によれば、「東南アジア10か国から成るASEAN(東南アジア諸国連合)は、1967年の『バンコク宣言』によって設立されました。原加盟国はタイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの5か国で、1984年にブルネイが加盟後、加盟国が順次増加し、現在は10か国で構成されています。地域協力としてのASEANは、過去10年間に高い経済成長を見せており、今後、世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が、世界各国から注目されています。」と解説されています。

また、経済産業省のホームページ (http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/east_asia/activity/asean.html) では、「ASEANは、総人口6億人、名目GDPは1.8兆ドル、一人当たり名目GDPは3,107ドル、域内総貿易額は2.1兆ドルに上ります。個別にみると、人口は最大のインドネシアの2.3億人から最小のブルネイの40万人、一人当たりGDPは最大のシンガポールの43,159ドルからミャンマーの702ドル、と多様性がうかがえます。」と説明されています。

東南アジアの10か国の連合体なのですね。このASEAN、昭和30年代、40年代の元気があった頃の日本を彷彿とさせる熱気があります。

2.ASEAN経済共同体

ASEANは、今年(2015年)の年末に、経済共同体を発足させるスケジュールで動いており、これにより、加盟10か国が経済的には一つの国のような体裁で、域内には物資・お金・人が自由に行き交うような感じなるみたいなのです。

人口6億人、名目GDP200兆円以上の国がアジアに出現するというイメージで捉えることもできるので、これは凄いことです。

このようにASEAN諸国が纏まれば、相乗効果で中国やインドといった人口の多い国とも対等に交渉ができるようになりましょうし、日本や韓国など経済力のある国とも良いお付き合いができるはずです。

もちろん、ASEAN加盟国は、それぞれの国内事情があり、発展の水準・所得水準も区々で、また、いろいろ国内に課題や紛争を抱えている国もありますが、総じて皆、上を向いていると感じられ、少しでも経済を良くしよう、貧困から脱却しようとしているように思えます。

なにせ6億人が暮らしているのですから、相応の経済発展が実現できれば、巨大なマーケットになるのは必至であり、現時点でもインフラ整備などが急がれていますので、インフラ整備に関係する企業や銀行等は、大型の投資案件に関与していると思われます(中国主導のアジアインフラ投資銀行も、これに関係する投資を企図しているように思われます。)。

3.ASEAN知財

ASEAN加盟各国の知財事情も区々であり、ミャンマーなどは、これから特許庁(知財庁)を設立しましょう、ということで動いており、インドネシアは、法務人権省の中に知的財産権総局(Directorate General of Intellectual Property Rights; DGIPR)というのがあって、これが著作権も含めた知財法全般を統括しており(日本では、ご存じのとおり著作権は文部科学省の文化庁の所管であり、特許や商標は経済産業省の特許庁の所管であり、種苗法は農林水産省の所管といった具合に縦割りです。)、さらに知財捜査官というような警察とは別個の捜査機関も傘下に収めています。

このように知財を司る行政機関は、いろいろな形があるのですが、各国とも特許や商標といった産業競争に関わる法律分野ということで、経済発展のための社会インフラ、法制度インフラとして、その整備の必要性を感じており、我が国の知財システム(知財司法制度も含めてですが)を参考にしつつ、制度整備を進めています。

なお、特許庁も、従前よりタイ国バンコクのジェトロオフィスに職員を派遣してASEAN地域の知財の整備や支援を行ってきていますが、今年の夏に、ジェトロ シンガポールオフィスも創設して、同様に特許庁から職員を派遣し、ASEAN知財の発展のために日本との橋渡し役として尽力しておられます。

4.弁護士知財ネットとしてのお手伝い

我々弁護士知財ネットも、「日弁連知的財産センター」(日本弁護士連合会の知財分野の戦略本部的機能が期待されている組織です。)と合同で、2014年秋にDGIPR内に設けられているJICAプロジェクトオフィスの長橋良浩チーフアドバイザー専門官(特許庁から長期専門家として派遣)に大変御世話になってASEAN事務局が置かれているインドネシア(ジャカルタ)を訪問し、DGIPRはもとより、現地の最高裁や中央ジャカルタ地裁等も訪問して知財事件を担当する裁判官と意見交換してきています(その様子はこのウェブサイト https://iplaw-net.com/news/information/1620.html にも「知財ぷりずむ」(経済産業調査会)に掲載された調査報告書をアップしてありますので、ご覧下さい。)。

我々は、ASEAN諸国を重要なパートナーと考えて、加盟各国が順調に経済発展を遂げ、国民各層が平和的に良い暮らしができるように、知財法制の整備に協力して参りたいと思っております。

そのためには、ASEAN各国の知財庁や裁判所ともコミュニケーションを密にし、日本の法務省、特許庁(経済産業省)、外務省等の関係機関とも連携をはかり、また日弁連知的財産センターやASEAN地域に居住し、当該国と日本の橋渡しをするべく活動してくれている弁護士知財ネットの国際チーム所属のメンバーの協力も得つつ、地道に活動を展開していきたいと考えています。

注)本文中に登場する7か国に、ベトナム、ラオス、カンボジアが加わってASEAN10か国となる。本文中のジェトロ(JETRO)とは、「独立行政法人日本貿易振興機構」のことであり、JICAとは「独立行政法人国際協力機構」(Japan International Cooperation Agency)のことです。

 

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