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営業秘密メルマガコラム

2017.11.14

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第17回| 営業秘密としてのソフトウェア・コンテンツの不正使用行為への対応策

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第17回

営業秘密としてのソフトウェア・コンテンツの不正使用行為への対応策

弁護士知財ネット・ジャパンコンテンツ調査研究チーム
事務局 石原一樹

PDF版ダウンロード:[営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム] 第17回 営業秘密としてのソフトウェア・コンテンツの不正使用行為への対応策

第1 ソフトウェア・コンテンツを保護するための権利

ソフトウェアは、通常、ソースコードで構成されることから、プログラム著作物(著作権法10条1項9号)として著作権が認められる場合、保護されることになります。著作権が認められれば、当該ソフトウェアが複製・模倣された場合に、複製権または翻案権の侵害を理由に差止請求または損害賠償請求をすることが考えられます。これによりソフトウェア・コンテンツ製作者の不正使用に対する救済が可能になります。
もっとも、著作物として認められるためには、著作権、すなわち当該ソースコードの記述自体に創作性が必要になり、この創作性の認定は容易ではありません。
そのため、ソースコードとして著作権により保護されるプログラム著作物に該当する範囲はさほど広くないと考えられることから、著作権法以外による救済措置を考える必要がでてきます。また、著作物性についての議論は、ソースコードの記述そのものが対象になっているため、プログラムの処理方法や解法といったアルゴリズムといった部分については著作権が及ばないとされています。
そこで、このような著作権では保護されないソフトウェア・コンテンツに関しては、営業秘密として不正競争防止法に基づく差止請求および損害賠償請求を検討する必要が出てきます。

第2 不正競争防止法による対処

不正競争防止法では、その2条1項7号で「営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」を不正競争であると定義し、不正競争による侵害行為に対しては差止めや損害賠償請求ができると定められています。
また、営業秘密とは「「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定められており、前述のように著作物ではないにしても「営業秘密」に該当する必要がでてきます。
つまり、プログラムの処理方法や解法といったアルゴリズムといったものが営業秘密に該当するのか検討が必要です。
たとえば、上記アルゴリズム等が、有用性がある情報という前提で、アルゴリズム等を取引先に開示しており、取引を行っているとしても、開示先に対して秘密保持義務を負わせておくことで秘密管理性が認められます。また、当該ソフトウェアに含まれるアルゴリズム等がすでに市場に流通していたとしても、ソフトウェアを購入しアルゴリズム等を簡単に解析できるようにしている場合には非公知性が認められ、営業秘密に該当するといえます。

第3 不正競争防止法上の「使用」行為性

次に、営業秘密の「使用」行為性については、商標法のように明確な定義があるわけではなく、製品の製造・営業活動等のために営業秘密を直接使用する行為や研究開発・営業活動等のために営業秘密を参考にする行為のように「営業秘密の本来の使用目的に沿って行われ、当該営業秘密に基づいて行われる行為として具体的に特定できる」行為をもって使用行為であると考えられています。研究開発・営業活動行為等はさまざまな情報に基づいて行われるものであるため、研究開発・営業活動等それ自体を営業秘密の使用行為にあたるとして、その差止請求を行う場合には、当該行為が営業秘密に基づいて行われることの因果関係を明らかにする等、具体的に特定する必要があると考えられています。[1]

第4 裁判所による「使用」行為性の判断

ここで、裁判例において、いかなる判断がされているのかについて整理してみます。
まず、東京地判平成18年12月13日判決が「被告が原告アルゴリズム全体をそのまま使用して市川ソフトを作成したのであれば、プログラムとしての表現が異なっていても,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為が成立する余地がある」と判示されており、ソースコード自体の表現そのものが異なっていたとしても、不正競争行為に該当する可能性があることに言及されています。
この事件では、被告ソフトウェアが原告アルゴリズムをそのまま利用しておらず、一部原告アルゴリズムと同様の処理手順を採用した個所についても、技術上の合理性の観点から当然採用される部類に属する手法であったとして、原告アルゴリズムの使用を否定しています。
他方、大阪地判平成20年6月12日判決では「原告らのサイトと被告らのサイトを比較すると,被告らのサイトは原告らのサイトの頁の装飾部分が同一で、案内文言も言葉づかいがわずかに異なるのみで、きわめて類似していること、随所に表示されるプログラム名と引数が全く同じであること,頁の装飾部分,男性登録案内画面,指定受信登録の案内内容等がきわめて類似又は同一であるとの関係にあ」ると判示して、使用を肯定しています。(本件では他に、被告自身が、原告らのシステム、顧客情報を利用することを被告Y1に告げ、同人の指示のもと被告Y2は,上記顧客情報や上記システムを利用しているとして、「以上のとおり間違いありません。」と確認した事情があります。)
この事件では、アルゴリズムというよりは表現や装飾・案内部分に着目しており、著作物性の認定と近しいところはあるものの、原告の顧客情報を取得して不正利用しようとした点も含め総体的に捉えて営業秘密の使用であると認定したものであると考えられます。

第5 まとめ

著作権で保護されないソフトウェアやその中に使われている処理方法や解法といったアルゴリズムについて、その不正利用が疑われた場合に、営業秘密の使用行為に該当するのか検討する上で、ソースコードという具体的な記述単位での不正利用なのか、処理方法や解法といったアルゴリズムについての不正利用なのかを具体的に特定することが必要です。
ソースコードであれば、具体的な記述内容の対照比較により類似性・同一性を判断できると思いますが、アルゴリズムについては、客観的に比較することが難しいと考えます。そのため、ソフトウェア全体での処理方法やアルゴリズムとして具体的に使用されている機能やプログラムについて、類似性の程度を総体的に考慮することが重要になってくるように思います。
今後、ますますソフトウェア・コンテンツが高度化し発展していく中で、営業秘密として保護すべき対象という観点からも対応が求められていくものと思います。

※注釈

[1] 逐条解説営業秘密75頁

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