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営業秘密メルマガコラム

2019.03.19

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第33回|もう一度立ち返る秘密保持契約書の条項

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第33回

もう一度立ち返る秘密保持契約書の条項

弁護士知財ネット
ジャパンコンテンツチーム
弁護士・弁理士 鈴木佑一郎

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秘密保持契約書(企業間)の条項が、本当に秘密情報を守れる契約書になっているのか、経済産業省が公開する秘密保持契約書の参考例[1](以下「参考例」といいます。)を題材に検討を行ってみました。異論もありうるところだとは思いますが、ご参考になればと思っております。

なお、参考例を引用した部分については、四角い枠で囲っております。(※本ページでは、引用形式でインデントを下げています。)

秘密保持契約書

株式会社(以下「甲」という。)と株式会社(以下「乙」という。)とは、・・・・について検討するにあたり(以下「本取引」という。)、甲又は乙が相手方に開示する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。

(*1)秘密保持契約書を締結する場合のほか、業務提携に係る契約の中で上記の例のような秘密保持条項を盛り込む場合も考えられます。なお、本例のように、業務提携に係る契約とは別に秘密保持契約を締結する場合には、業務提携に係る契約書において、別途、秘密保持契約書を締結する旨を明示し、何に関連する秘密保持契約であるのか等、契約関係を明確にすることが有効です。

(コメント)

参考例のように、『・・・・について検討するにあたり(以下「本取引」という)』など、契約の目的を規定することは重要です。これは、目的外使用禁止の範囲を画するという意味でも重要ですが、そもそもの秘密情報を適切に定義するという観点からも重要となる場合があります。

契約書管理の便宜から、目的については、文中に埋めるのではなく、別紙などに記載する形をとるということも考えられます。

第1条(秘密情報)(*2)(*3)(*4)

本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。ただし、開示を受けた当事者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。

①開示を受けたときに既に保有していた情報
②開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
④開示を受けたときに既に公知であった情報
⑤開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

(*2)この他、業務提携に向けた検討の事実それ自体が秘密情報に含まれると定めることもあります。その場合、業務提携の検討の事実については、第5条に定める有効期限は他の秘密情報と比べて相対的に短く、自動更新条項は置かずに6か月~2年程度となることが一般的です。また、業務提携を合意した時点での当該業務提携の事実についての公表は、事前に双方同意のもとで行う旨を併せて規定することも考えられます。

(*3)秘密保持の対象とする情報の定義と呼称(例えば、「企業秘密」、「秘密情報」など。)については、当該開示の趣旨や取引慣行等に応じて様々なものが考えられます。なお、上記では「一切の情報」と書いていますが、秘密保持の対象となる情報の特定ができる場合には、できる限り具体的に行うことが重要です。

(*4)秘密情報の対象をより明確化するためには、秘密保持の対象情報を別紙でリスト化し、随時更新することも考えられ、その場合には以下の規定を追加することも考えられます。甲が乙に秘密である旨を指定して開示する情報は、別紙のとおりである。なお、別紙は甲と乙とが協力し、常に最新の状態を保つべく適切に更新するものとする。また、口頭や映像等で情報が開示される場合に備え、以下の規定を追加することも考えられます。甲又は乙が口頭により相手方から開示を受けた情報については、改めて相手方から当該事項について記載した書面の交付を受けた場合に限り、相手方に対し本規程に定める義務を負うものとする。口頭、映像その他その性質上秘密である旨の表示が困難な形態又は媒体により開示、提供された情報については、開示者が相手方に対し、秘密である旨を開示時に伝達し、かつ、当該開示後○日以内に当該秘密情報を記載した書面を秘密である旨の表示をして交付することにより、秘密情報とみなされるものとする。

(コメント)

秘密情報の定義として、「甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報」と記載されています。

まず、本定義では「一切の情報」と記載されていますが、どのような情報が含まれるか事前に判明している場合にはその情報を明記したほうが良いことは当然です。加えて、情報の具体例を例示的に列挙しておくことも好ましいといえます。

本定義では、本取引に関連せずに開示された情報も、秘密情報に含まれ得ることになります。もっとも、様々な企業から秘密情報を受領することを考えると、目的または取引との関係で受領したものに限定をすることが好ましいと思われます。仮に何でもかんでも秘密情報に含まれるとなれば、目的外使用禁止規定の適用により、思いがけない事業活動への制約にもなりかねません。

また、秘密であることの明示は秘密情報の要件として課されていません。しかし、秘密管理性との関係では、秘密と明示することを要件とするか、または、少なくとも、秘密情報には秘密と明示する義務を規定する方が良いかと思われます。

さらに、開示する情報に個人情報が含まれる場合には、個人情報も秘密情報に含まれるとするか、または、個人情報についても秘密情報の取り扱いに関する各条項が適用されることを規定すべきでしょう。その際、個人情報の定義をすることを忘れないようにする必要があります。この点は、「個人情報」とは、個人情報の保護に関する法律第2条第1項に定める個人情報を意味するものとする、といった規定とすることで十分と考えられます。

第1項第2号については、「秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報」としたままでは、(秘密保持義務を負って)同じ情報を色々な取引先から入手した場合に問題が残ります。そこで、例えば、「情報開示者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から情報受領者が秘密保持義務を負うことなく正当に入手した情報」とした方が良いと思われます。

そのほか、関連会社が情報を受領し、あるいは開示する場合に備えた条項を設けたいという場合もあるでしょう。契約当事者でないものを含めるという点で若干の悩ましさはありますが、この点の案文もご紹介したいと思います。

(修正案)

「本契約における「秘密情報」とは、本取引に関連して甲乙のうち一方当事者(以下「情報開示者」という。)より相手方当事者(以下「情報受領者」という。)に対して開示された一切の情報(営業秘密、アイデア、製品、サービス、ソフトウェア、出願中特許の内容、コンピュータプログラムのソースコード、原材料、方法、データ、オブジェクトコード形式のコンピュータプログラム、供給元、技術的知見、研究内容、ノウハウ、改善点、開発内容、設計事項、発明内容、テクニック、マーケティング計画、予測、新製品に関する情報、未発表の財務書類・財務諸表、予算、事業計画、製品価格などを含む価格、コスト、顧客リストおよびマーケティング情報を含むが、これらに限定されるものではない。)をいい、口頭、文書、電磁的記録その他のいかなる形態、媒体によるかを問わないものとする。また、(i)本取引に関連して甲乙間で情報が授受されているという事実、(ii)本取引に関連して甲乙間で検討、協議および交渉がなされているという事実、および(iii)甲乙間における検討、協議および交渉の結果ならびにその内容についても、秘密情報に含まれるものとする。情報開示者は、その秘密情報に「秘密情報」と記すものとし、または、秘密情報が口頭または視覚的に開示される場合、情報開示者は書面で当該内容を要約した上で当該書面に「秘密」と記し、口頭または視覚的開示から21日以内に情報受領者に送付するものとする。

ただし、開示当事者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。

①開示を受けたときに既に保有していた情報
開示を受けた後、情報開示者に対して秘密保持義務を負わない正当な権限を有する第三者から情報受領者が秘密保持義務を負うことなく正当に入手した情報
③開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
④開示を受けたときに既に公知であった情報
⑤開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報」

(関連会社についての規定も設ける場合)

「「関連会社」とは、当事者を支配し、当事者もしくは当事者を支配する者により支配され、または当事者と第三者による共通の支配下にある会社であって、別紙に定める者を意味する。ここで「支配」とは、当該会社の議決権を有する株式の50%を超えての保有を意味する。本取引に関連して、甲または甲の関連会社から乙または乙の関連会社に対して開示された情報については、甲から乙に対して開示されたものとみなし、乙または乙の関連会社から甲または甲の関連会社に対して開示された情報については、乙から甲に対して開示されたものとみなして、本契約の条項が適用されるものとする。また、当事者の関連会社が機密情報について行った行為については、当該当事者は相手方に対して全面的に責任を負うものとする。」

第2条(秘密情報等の取扱い)

1.甲又は乙は、相手方から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。以下「秘密情報等」という。)の取扱いについて、次の各号に定める事項を遵守するものとする。

①情報取扱管理者を定め、相手方から開示された秘密情報等を、善良なる管理者としての注意義務をもって厳重に保管、管理する。
②秘密情報等は、本取引の目的以外には使用しないものとする。
③秘密情報等を複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管、管理をする。(*5)
④漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。
⑤秘密情報の管理について、取扱責任者を定め、書面をもって取扱責任者の氏名及び連絡先を相手方に通知する。(*6)

2.甲又は乙は、次項に定める場合を除き、秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面により相手方の事前承諾を得なければならない。この場合、甲又は乙は、当該第三者との間で本契約書と同等の義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。

3.甲又は乙は、法令に基づき秘密情報等の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。

(*5)複製を行うことについては、事前の書面による承諾を求めると、受領者において情報の円滑な活用が阻害される可能性が懸念されます。そこで、以下のような条項を設け、いつどのような複製物を作成したかをリスト化し、返還・消去の対象を明確化することも考えられます。複製物を作成した場合には、複製の時期、複製された記録媒体又は物件の名称を別紙のとおり記録し、相手方の求めに応じて、当該記録を開示する。

(*6)取扱責任者等、秘密情報の授受を行う窓口を決定し、当該窓口経由でのみ秘密情報の開示を行う場合も考えられます。

(コメント)

第1項3号については、「秘密情報等を複製する場合には、甲及び乙は、合理的に最小限度の範囲内で行わなければならず、そうでない場合には事前の書面による相手方の承諾を要するものとする。また、甲及び乙は秘密情報を複製した場合にはその複製物に対して秘密情報である旨を表示し、原本と同等の保管、管理をする」といった規定とすることも考えられます。

秘密情報の種類によっては、第1項にさらに、「秘密情報の分解、解析、変更、翻案を行ってはならないものとする」といった規定を加えることも考えられます。

第2項に関連し、さらに、「甲及び乙は、秘密情報を、当該秘密情報を知る必要のある最小限の自己の役員または従業員のみに開示するものとし、これらの者に対して本契約と同様の義務を負わせるものとする。これらの者による義務の違反については、甲又は乙は連帯して責任を負うものとする。」といった条項を定めることが考えられます。

第3条(返還義務等)

1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。

2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。

(コメント)

第1項では、不要な場合か、請求がある場合でなければ返還がなされないということになっています。しかし、そうではなく、情報開示者がイニシアチブをとって情報の返還や破棄を要求することができるようにするべきだと思われます。破棄証明書については、その実効性に疑問も残るところではありますが、一応要求するものとした方が良いと思われます。例えば、「情報開示者は、本目的を達成したと認められるとき若しくは本契約が期間満了により終了し又は解除されたときは、秘密情報の返還または破棄などの処理を情報受領者に要求することができる。また、破棄等の処理については、相互にその旨を証する文書を提出しなければならない。」などと修正することも考えられます。

第4条(損害賠償等)

甲若しくは乙、甲若しくは乙の従業員若しくは元従業員又は第二条第二項の第三者が相手方の秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。

(コメント)

たとえば、損害賠償責任の限定を望む場合には、以下のような規定を設けることが考えられます。

(修正案)

1.甲および乙は、本契約で定める義務に違反した場合(第1条第3項の規定により甲または乙が責任を負う場合も含む)、かかる違反に起因して相手方が被った損害を、相当因果関係のある範囲内で、賠償する。

2.前項にかかわらず、甲および乙は、いかなる責任法理に基づくものであっても、本契約に違反したとされる事由(前項の規定により甲または乙が責任を負う場合も含む)による、一切の特別損害、付随的損害、派生的損害、懲罰的損害の賠償責任を負わないものとする。

第5条(有効期限)

本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満○年間とする。期間満了後の○ヵ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに○年間継続するものとし、以後も同様とする。

(コメント)

秘密保持契約書を解除できるようにする条項を設けることには否定的な方も多いと思います。もっとも、もうこれ以上情報の交換をしたくないのに、相手方が次々とメールなどで情報を送ってきて、それが秘密情報を構成するために当社の事業活動が制約されてしまう、ということもあり得ます。そこで、秘密保持契約を解除できるようにする条項を設ける修正を行うことが考えられます。

(修正案)

第5条

1.本契約の有効期間は、本契約締結日より★年間とする。ただし、甲または乙は、30日前までに書面により相手方に事前の通知をすることにより、本契約を解除することができる。

2.前項の定めにかかわらず、本契約で定める秘密保持義務は、本契約が解除または満了により終了した後も★年間はなお有効とする。ただし、【永久に保護されるべき情報があれば記載】については永久に保護されるものとする。

3.本契約第3条、第4条、第6条および第7条の規定は、前二項で定める本契約の終了後もなお依然としてその効力を有するものとする。

第6条(協議事項)

本契約に定めのない事項について又は本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する。

第7条(管轄)

本契約に関する紛争については○○地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。

以上

 

[1] http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference1-6.pdf

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