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営業秘密メルマガコラム

2017.01.17

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第7回|平成28年の営業秘密に関する裁判例を振り返る

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第7回

平成28年の営業秘密に関する裁判例を振り返る

弁護士知財ネット事務局
弁護士 阿久津 匡美

PDF版ダウンロード:[営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム] 第7回 平成28年の営業秘密に関する裁判例を振り返る

1.はじめに

寒中お見舞い申し上げます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、営業秘密に関するものに限らず、裁判例の一部については、裁判所のサイトで公開されており、誰でも閲覧することができます(こちらのサイトからご覧ください:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1)。
平成27年改正不正競争防止法が平成28年1月1日に全面施行され一年が経過した平成28年末時点において、当該サイト上で「営業秘密」というキーワードで検索するとヒットする裁判例は30件ありました。このうち、今後の訴訟活動等において参考になりそうな裁判例をその勝敗に限らずピックアップして振り返り、ポイント等を解説します。

2.概要

退職系(退職者等により情報を不正使用等されたと主張する事案)か取引紛争系(取引相手により情報を不正使用等されたと主張する事案)か、営業情報か技術情報か、という観点で整理した場合、30件の裁判例のうち、退職系かつ営業情報という類型が一番多く、7件ありました(ただし、原審・控訴審の関係にあるものを1件としてカウント)。
なお、30件の中には、原審・控訴審の関係にあるものが3組ありました。

3.訴訟活動におけるポイント

(1) 営業秘密目録について(取引紛争系・営業情報の裁判例から)

訴訟において営業秘密目録を作成・提出するときに参考となる裁判例を二つ紹介します。
まず、平成28年10月27日(東京地裁民事47部)の裁判例は、被告代表者が原告前代表者の義理の息子という事案であり、営業秘密に関する請求については却下という判断になったものです。
裁判所は、「原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報」という内容の「営業秘密目録」について、①「原告とつながりのある各小売業者」が具体的にだれを指すのかは明らかでない、②仕入価格・販売価格「に関する情報」の外延も明らかではないとして、本件情報の内容が特定されていないことを理由に、本件情報の営業秘密該当性を否定しました。
他方、平成28年6月23日(大阪地裁21民事部)の裁判例は、営業情報について秘密管理性を認めた事案ですが、こちらの「営業秘密目録」は、「原告の別紙顧客目録記載の原告顧客に関する下記1及び2の情報 1.顧客別の売上情報(平成24年2月分)、2.顧客別の販売価率情報(平成24年2月分)」という内容でした。

(2) 物と物の製造方法について(退職系・技術情報の裁判例から)

平成28年7月21日(大阪地裁26民事部)の裁判例は、物そのものに営業秘密が化体していると主張する場合と、物の製造方法が営業秘密であると主張する場合と、どちらによるべきかについて参考となる裁判例です。
原告は、約4年間でおよそ6300万円を費やし、622種類の合金についての実験を行って開発した本件合金は、錫の切削性が失われず、加工、鋳造が容易になり、営業秘密であると主張しましたが、裁判所は、市場流通している原告製品から容易に本件合金の成分及び配合比率を分析できるのであれば、本件合金は公然と知られていないものとはいえないとして、非公知性を認めませんでした(加えて、錫の切削性が失われず、加工、鋳造が容易になることについての立証も足りないとして有用性についても認めませんでした。)。
原告が本件合金の製造方法については営業秘密として主張しないとした経緯は判旨から読み取れませんが、裁判所は、「原告らは、本件合金の成分及び配合比率を容易に分析できたとしても、特殊な技術がなければ本件合金と同じ合金を製造することは不可能であるから、本件合金は保護されるべき技術上の秘密に該当する旨主張する。しかし、その場合には、営業秘密として保護されるべきは製造方法であって、容易に分析できる合金組成ではない」とも判示しました。

(3) 「その他の不正の手段」について(退職系・技術情報の裁判例から)

営業秘密の不正取得(2条1項4号)のうち、「その他の不正の手段」[1]による取得を認めた裁判例が、平成28年4月27日(東京地裁民事29部)です。
原告に約27年勤めて設計関係の業務に従事した被告が、会社再建策の一環である希望退職に応じ、その後、同僚と競合会社を設立したという事案であり、退職前に、原告の近年の主力製品の組立図、部品図及び部品表に関するデジタルデータを約4.8万件ダウンロードしたことが問題となりました。
裁判所は、被告について、確かに形式的には当該データをダウンロードする権限があったものの、当該権限の付与は、製品の設計情報という機密性の高い情報について、真に業務上の必要のある場合にのみこれを保存することを許容する趣旨に出たものであって、後に設立することを企図している競合会社の製品の設計に用いる目的を持って、原告の製品の設計データを大量にダウンロードして取得することまでをも許容する趣旨ではなかったことは明らかとして、2条1項4号に該当すると判示しました。
裁判所は、「背任の罪を構成するといえないこともない」とも言及しており、本件のような事案も「その他の不正の手段」に該当することを示した一事例と言えます。
もっとも、原告の被告に対する退職金支給額についての不当利得返還請求については、本件就業規則上、事後的に返還を求めることができる旨の明示的な規定もないのに、後に懲戒解雇事由に該当すべき事情が判明したことを理由に返還を求めることができなければ著しく正義に反するとまでは認め難いとして棄却されました。

4.秘密管理性

(1) 相手方の情報取扱い状況を認識し得る場合について(取引紛争系・営業情報の裁判例から)

継続的な取引関係がこじれ、営業秘密に関する紛争が生じる場合もありますが、長期間の取引関係にあるからこそ、相手方における情報の取扱い状況を認識し得るときには、当該状況に応じてどのような秘密管理措置を講ずるかが重要になると言えます。
具体的には、平成28年4月7日(東京地裁40部)及びその控訴審である平成28年10月27日(知財高裁3部)が参考になります。
原告は昭和59年から被告に対し機械類の製作等を委託し、平成10年には秘密保持契約を締結していましたが、被告が、原告から試験研究費の支払を受けていないことや低収益であることなどを問題と考え、関係改善のための申入れや調停(不成立)を申立て、さらに、訴訟提起後に調停が成立しましたが、今回、当該調停における権利不行使の合意の有無が争われる特許権侵害の訴訟に至ったという事案です。
原告は、特許権侵害以外に、指示書等に記載された原告の顧客情報が営業秘密であるとして、被告による不正使用を主張しましたが、原審も控訴審も、原告(控訴人)が、被告(被控訴人)におけるファクシミリの設置状況(被告では多数の従業員が一つのファクシミリを共同で使用していた)を認識しながら、顧客情報を秘匿するための交付方法をとることも、秘密が記載されていることを示す表示をすることもないまま、担当者以外も目にする可能性があるファクシミリに充てて本件指示書等を送付していたことなどから、秘密管理性を否定しました。
また、秘密保持契約についても、当該契約で秘密情報とされる「本件業務に関する甲の機密的または専有的情報」とは、技術的事項を対象としたものであり、製品販売のための営業活動に用いられる顧客に関する情報はその対象に含まれないと判示しました。
秘密保持契約を締結するときには、その取引関係おいて現在または将来生じ得る情報の全体像を把握し、技術情報だけ、営業情報だけに偏っていないか、他に重要な情報はないか等を検討することが重要ということも教えてくれる裁判例です。

(2) 秘密管理措置の形骸化について(取引紛争系・営業情報の裁判例から)

平成28年12月21日(知財高裁4部)の裁判例は、秘密管理措置の形骸化に関するものです。
冠婚葬祭業やその互助会業を営む控訴人が保有する会員情報の営業秘密該当性が争点の一つとなりました。
控訴審は、控訴人は、個々の担当者が会員情報を記載したノートを作成して保管することを日常的に許容し、これに対しては特段の秘密管理措置を講じていなかったのであるから、仮に資料原本が控訴人の主張する態様(施錠した倉庫への保管やパスワードの設定等)で管理されていたとしても、当該措置は実効性を失い、形骸化していたといわざるを得ないとして、秘密管理性を否定しました[2]

本件は、秘密管理措置の形骸化を防止するための参考になる一事例と言えます。すなわち、自社が保有する重要な情報について、もし、資料原本とは別の媒体においても保管や使用等がされていることを把握しているのであれば、その別の媒体についても、保有者の秘密管理意思を秘密管理措置によって明らかにすることで、当該情報が秘密として管理されているということが形骸化することを防止できると考えられます。

(3)  不具合情報について(取引紛争系・技術情報の裁判例から)

平成28年6月30日(東京地裁民事47部)の裁判例は、原告が被告に機械装置の開発を委託したところ、被告が、原告製品の機械装置を開発・製造したことがきっかけとして、基本構成は同じであるものの原告製品と5つの相違点を有する被告製品を製造、販売したという事案です。
情報が特定されていない等として、営業秘密の不正使用等の主張は認められませんでしたが、裁判所は、原告製品の不具合情報とされるものについても、被告が原告製品の修理にも携わっていたことからすれば、同被告がその過程において自ら不具合情報を取得したことが十分考えられ、原告だけがこれらの情報を保有していたとは認められない、と判示しました。
メンテナンス等を通じて、取引の相手方が自社の不具合情報に接触する場合においては、当該不具合情報を秘密として管理したいのであれば、情報の保有者を明らかにした上で秘密保持契約を締結する等の秘密管理措置を講ずることが必要になるということを示唆する裁判例と言えます。

(4) 守秘義務の対象について(退職系・営業情報の裁判例から)

平成28年3月8日(知財高裁3部)の裁判例からは、就業規則や退職時の誓約書において、会社の情報を守秘義務の対象としているのか、あるいは、顧客や取引先の情報を守秘義務の対象としているのか、または両方なのかということを明記して、情報に接する者が秘密として認識し得るようにすることが重要ということが学べます。
当該裁判例は、コンサルタント業務を主たる業務とする法人(控訴人)の従業員2名が、各々、控訴人退職前に、コンサルタント業務を主とする法人を設立し、控訴人の顧客名簿の不正使用等が争われた事件の控訴審です。
原審は、社内における顧客情報の存在及びその管理状況について具体的な出張立証がないと判示して請求を棄却したところ、控訴審は、アクセス制限の状況や就業規則の運用等について細かく認定し言及した上で、「秘密保持に関する誓約書の記載を見ても、秘密情報等の対象とされているのは、控訴人に関係する情報であり、顧客に関係する本件登録情報がこれに含まれるのかは一義的に明確ではない」として、「控訴人が本件登録情報につき、同情報に接する者において秘密として認識し得るようにしていたと認めるのには疑問が残る」と判示し、請求棄却を維持しました。
なお、控訴審は「本件登録情報は、元来、各コンサルタントが顧客から取得する情報」とも判示しており、その趣旨が気になるところですが、おそらく、各コンサルタント(従業員)が顧客から取得する情報であるからこそ、各コンサルタントにおいて、法人が秘密として管理する情報であるということを認識できるようにすべき、という趣旨かと思われます。

(5) 知的財産の違いを意識した秘密管理措置について(取引紛争系・営業情報の裁判例から)

知的財産(権)には、いろいろなものがありますが(知的財産基本法2条1項及び2項参照)、その峻別を意識することの必要性を教えてくれるのが、平成28年7月27日(東京地裁民事29部)の裁判例です。
裁判所は、本件養成講座の参加者に配布する本件マニュアルには、本件マニュアルが著作権及び商標権により保護されている旨及び複製等を禁ずる旨が記載されているにとどまり、その内容を第三者に使用又は開示してはならない旨は記載されていないし、本件受講申込書に印刷された「受講約款」にも、講習の録音、撮影を禁ずる旨の記載はあるが、受講により取得した技術を第三者に使用又は開示してはならない旨の記載はないなどとして、原告が主張する「リンパコンディショニング技術」という情報の秘密管理性を否定しました。
どういう情報をどう守るかがまさに知的財産の話ですが、どの表現が著作権として保護され得るのか、商品・役務についてどの範囲の商標権を取得するのか、そして、どのような情報を営業秘密として保護したいのか等、保護対象の違い・保護範囲の外延等を意識して、何をどの知財権で守るのか・守るべきなのかというところから知財戦略ひいては企業戦略を考えていく必要があるということについても参考となる一事例です。

5.その他

(1) 営業秘密と競業避止義務の外延について

平成28年11月1日(大阪地裁民事21部)の裁判例は、営業秘密と競業避止義務の外延に関する一事例です。
事案の内容は、学習塾を経営する原告が、かつて原告に在職し、現在、原告の経営する学習塾から直線距離で2.18㎞の場所に開設された学習塾で稼働している被告らに対して、同被告らの同学習塾開設に向けての原告在職中の行為を問題としたというものです。
まず、営業秘密の不正使用について、裁判所は、被告らによる原告の顧客情報の不正使用は認められないとしました。すなわち、被告らが塾の開設場所を選定するに当たり、原告の塾生の居住場所を参考にする場合、①原告教室に通塾していたのは小中高生で、当該教室の通塾可能範囲に居住していることは容易に想像でき、また、②塾講師としての日常業務の塾生との会話の中から、塾生の通学する学校や、その居住する地域の情報は十分に得られたはずであり、③その程度のおおまかな居住地域さえ知れば足りたはずとして、被告らが原告の顧客情報である生徒の氏名及び住所にアクセスし、これを使用したと推認できないと判示しました。
次に、原告が就業規則において定めた競業避止義務(非常勤講師は退職後2年間は、会社に不利益をもたらす以下の活動、もしくはそれに準ずる活動を行ってはならない。これに反する場合は、相応の損害賠償請求ほか法的措置をとるものとする。① 会社で指導を担当していた教室から半径2km 以内に自塾を開設すること。以下略。)の違反について、裁判所は、「退職後の競業制限は、公序である労働者の退職後の職業選択の自由を制限することにかかわる規定であるから、もともと要件の有効性さえ問題とされるのであり、少なくとも、それ自体、一義的に明確である距離制限を、「準ずる」との用語の解釈によって拡大する余地は全くないというべきである」として、距離制限を使用者に有利に拡大しようとする原告の解釈は採用できず、半径2㎞という距離制限外にある被告の塾の開設は就業規則の競業避止義務に違反しないと判示しました。

(2) インカメラ審理に関連して

平成28年3月28日(知財高裁2部)の裁判例は、大型の特許権侵害訴訟事案(特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等控訴請求事件)です。
控訴審においても、控訴人(一審被告)から文書提出命令の申立てがなされ、被控訴人は営業秘密に当たるとして提出を拒む正当事由を主張しました。
文書のうち一部について、控訴審は、特許法105条2項に基づく書類提示の決定を行い、被控訴人の訴訟代理人及び従業員の立会いの下、提示を受けた結果、その内容について被控訴人の営業秘密に該当することは確認できたものの、侵害行為を立証すべき証拠としての有用性を基礎付ける記載は見当たらないことから、当事者間に秘密保持契約が締結されていることを考慮しても、秘密としての保護の程度が証拠としての必要性を上回るものであると判断し、提出を拒む「正当事由」を認めました。
また、ソースコードについては、高い営業秘密性を有しており、その提出を命じ、控訴人に解析させることは、被控訴人にとって不利益が大きいとして、加えて、被控訴人において実際に使用されるマニュアルについては、その内容の性質上、営業秘密性が認められるところ、証拠としての必要性の程度が口頭弁論終結時においてこれを上回ると認めることはできないとして、いずれもインカメラ審理を採用せずに、「正当事由」を認めました。

(3) 民事訴訟手続における適正手続と証拠排除について

民事訴訟手続において適正手続の観点から証拠排除について判断される裁判例は珍しいと思われますが、営業秘密に関係するものがありましたので、ご紹介します。
平成28年3月23日(知財高裁2部)の裁判例において、控訴審は、「第1回証拠保全手続においては、被控訴人が営業秘密であることを理由に、任意に開示中であった上記ソースコードを開示しないと翻意し、担当裁判官は、控訴人の撮影担当者に対して撮影したデータの削除を命じたと推認される」として、削除したデータを復旧した撮影データを証拠として用いることは、証拠調手続における裁判官の指揮を無視するものであって、適正手続の観点からみて、許容できるところではないとして、当該証拠を採用しないと結論付けました。

(4) 特許出願するかノウハウとして秘匿するかの権利ないし利益

平成28年6月30日(東京地裁民事29部)は、外資系法人(被告)の従業員であった原告が原告法人の代表者(原告)に対して、被告の営業秘密に属する発明を不正に開示した結果、原告法人により特許の冒認出願がなされたとして、米国、韓国及び日本において訴訟が複数行われている事案です。
裁判所が消滅時効を認めたため、営業秘密については何ら実質的判断がなされなかったのですが、訴訟の中で、被告が「特許出願するかノウハウとして秘匿するかの権利を奪われ、また、営業上の利益を実現する機会を失った」と主張しました。
今後の裁判において、「特許出願するかノウハウとして秘匿するかの権利」ないし利益が主張されるケースが続くのか否か、そして認められるか否か、一つ注目されるところと言えるでしょう。

6.おわりに

30件の裁判例の中には、情報の特定がなされていないとして退けられたものが散見されました。
営業秘密管理指針や、秘密情報の保護ハンドブック、秘密情報の保護ハンドブックのてびき(http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html)等を参考にしながら、メリハリをきかせた情報管理をし、情報の活用につなげていきたいものです。

以上

 

 

[1] 窃盗罪や詐欺罪等の刑罰法規に該当するような行為だけでなく、社会通念上、これと同等の違法性を有すると判断される公序良俗に反する手段を用いる場合をいう(経済産業省知的財産政策室『逐条解説 不正競争防止法』83頁(商事法務、平成28年12月))。

[2] なお、葬儀事前相談見積書についても、見積書の性質上、顧客に交付することが予定され、その第三者の公開が特に禁止されたものではないとして、秘密管理性が否定されました。


○ 営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム バックナンバー

 

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