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営業秘密メルマガコラム

2025.03.18

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第78回|スポーツ業界において営業秘密が問題となった海外事例

弁護士知財ネット
弁護士 森 茜

PDF版ダウンロード:[営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム] 第78回 スポーツ業界において営業秘密が問題となった海外事例

 

1 はじめに

スポーツチームが価値のある情報として保護したいと考える情報としては、戦略・プレーをまとめたプレイブック、スカウティングレポート、対戦チームの分析レポート、他のクラブとの過去・現在の取引交渉の記録、物理療法、トレーニング技術といったものが考えられる。さらに、近年では、新たなテクノロジーの導入によって集積するデータにより、選手のパフォーマンス評価が劇的に進化している。例えば、メジャーリーグ(MLB)で導入されているStatCastは、選手の動きとボールの軌道を詳細に追跡し、打撃・投球・走塁・守備のあらゆるデータを集積するし、NFSフットボールリーグ(NFL)ではRFIDチップを内蔵した肩パッドにより選手の位置と動きを詳細に計測しデータ化している。さらに、生体認証技術の活用が進み、FitbitやMotusセンサーを用いた心拍数・睡眠データや関節への負荷分析が選手の怪我予防やパフォーマンス向上に寄与している。各チームでは、これらのデータを活用してスターティングメンバーの選定、選手のドラフト戦略、契約延長交渉等をより科学的に行っており、これらデータ、その分析手法及び結果は他チームとの競争に勝利するための源泉となる経済的価値を有する情報といえる。そうすると、スポーツチームがこれらを保護する必要性も一層高まっているところ、これらの情報が営業秘密として保護されないかという議論がある。しかし、日本のスポーツ業界においてはスポーツ特有の情報が営業秘密であるとして争われたケースを見かけることはほとんどない。

本コラムでは、スポーツ産業の市場規模が日本に比べて大きいアメリカにおいて、スポーツチーム等が保有する情報が営業秘密にあたるかについてか問題となった興味深いケースをいくつか紹介する。

 

2 日本における議論

「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいう(不正競争防止法第2条第6項)。①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)の3要件を満たせば、スポーツチームが保有する各種情報は同法上の営業秘密として保護され、侵害行為の差止め(不正競争防止法第3条)、損害賠償(同法第4条)請求等が認められる。スポーツ特有の情報が同法の営業秘密に該当するかは問題となる具体的な情報の種類により検討されるべきであるが、スポーツチームが保有している各データは試合観戦により覚知することができたり、リーグが公開している情報であることが多く、その場合①秘密管理性や③非公知性を充足しない可能性が高いと指摘されている。

 

3 アメリカの事例

アメリカでは、一部の州を除くすべての州で(多少の違いはあるものの)統一営業秘密法(Uniform Trade Secrets Act, UTSA)が制定されており、同法は営業秘密を、数式、パターン、データの集積、プログラム、装置、方法、プロセスなどを含む情報と定義した上で、(a)独立した経済的価値を有し、(b)秘密保持のための合理的な措置が講じられていることが必要であるとしている。つまり、UTSAの下で営業秘密として認められるためには、上記情報が、そこから価値を得る可能性のある他者から合理的な努力によって秘密にされているということを証明することによって、経済的価値を導き出さなければならない。(a)は日本の営業秘密の成立要件②、(b)は日本営業密の成立要件①③に概ね重なるものと考えられる。

 

1. National Football Scouting Inc. v Rang 事件 [1][2]

原告であるナショナル・フットボール・スカウティング(National Football Scouting、以下「NFS」)は、スカウティングレポートを全米NFS・フットボール・リーグ(NFL)の21のクラブに提供するサービスを行っている。同レポートには、各ドラフト候補選手について6ページ分の情報が含まれており、ケガの履歴、選手のモラルや家族背景、大学での成績といった詳細情報が記載されている他、これらの情報をもとに、各選手に「総合選手評価」すなわちNFLで成功する可能性が数値化されている。NFSは、同レポート未公表作品として著作権登録している。同社のレポートはドラフトで使用するために同レポートを購入したNFLの21のクラブにのみ共有されており、同会員クラブはレポートの対価として年間75,000ドルを支払っている。NFSと会員クラブとの契約には、厳格な機密保持条項とそれに違反した場合の重大な罰則が規定されている。当該契約には、「スカウティングレポートに記載された情報(評価点を含む)は一般に知られていない事項であるため、独立した経済的価値を有する『営業秘密』である」と明記されている。また、NFSは、データを電子ファイルに変換するための業務を委託しているコンピューターコンサルティング会社とも機密保持契約を締結している。

被告スポーツ・エクスチェンジ(Sports Xchange)は、独自のインターネットサイトを運営するメディア会社であり、被告ロバート・ラング(Robert Rang)氏は、スポーツ・エクスチェンジのスポーツライターで、同社のサイト「NFLDraftScout.com」のシニアNFLドラフトアナリストを務めている。

2010年から2011年にかけて、ラング氏は、NFLDraftScout.comでドラフト候補選手についての記事を8本執筆し、その中で合計18人分のNFSの「総合選手評価」を無断で公開した。NFSは、ラング氏に対し、著作物の利用及び営業秘密の開示をやめるよう求める書簡を何度も送付、弁護士による警告も行った。しかし、ラング氏は警告を無視して公開を続けた。NFSは、2011年9月、ラング氏及びスポーツ・エクスチェンジを相手取り、「著作権侵害」とワシントン州統一営業秘密法に規定される「営業秘密の不正流用」を理由に提訴した。本コラムのテーマと関連のある営業秘密の不正利用にかかる点について、ワシントン州統一営業秘密法においても、営業秘密の成立要件としては、(a)独立した経済的価値を有し、(b)秘密保持のための合理的な措置が講じられている「情報」であることが必要であるところ、ラング氏は、「総合選手評価」は主観的な「意見」であって「情報」に該当しないため、営業秘密足り得ないと主張していた。

裁判所は、NFSが選手に特定の評価・成績を割り当てたという事実は「情報」であるため、それが営業秘密法の下で保護されるかどうかは、事実問題となるとし、「総合選手評価が一般に知られていないことから経済的価値を得ているかどうか」及び「NFSが総合選手評価の秘密を保持するために合理的な試みを行ったかどうか」について、双方が相反する証拠を提出しており、陪審がこれらの事実問題を決定する必要があると判断した。

最終的に当事者は法廷外の和解を結ぶことを選択したため、陪審による判断が示されることはなかった。裁判資料によると、この和解により、NFSに損害賠償、弁護士費用、及び費用を支払うことがラング氏及びスポーツ・エクスチェンジに義務付けられ、また、ラング氏及びスポーツ・エクスチェンジは「NFSが作成した又はスカウティングレポートから取得した成績またはその他の情報」を公表することを禁じる恒久的な差し止め命令の対象となった[3]

本判決は、各種情報を元にした成績の数値化が秘密管理性と経済的価値を有していた場合に営業秘密として保護され得ると判断したものとして重要であると考えられる。公開されているスポーツのデータ等については秘密管理性等を満たさず営業秘密たり得ないと考えられるものの、データを元にした分析結果や成績の数値化は場合によっては営業秘密として保護される可能性があることになると考えられる。

 

2. ヒューストン・アストロズのデータハッキング事件 [4][5]

2016年7月、MLB所属のカージナルスの元野球開発部長が、同じくMLB所属のヒューストン・アストロズのコンピューターに無断でアクセスした罪で有罪判決を受け、連邦刑務所への収監を命じられた。本事件は刑事事件であって、営業秘密の不正流用に基づく損害賠償請求について争われた事件ではないものの、仮に同民事訴訟がなされていた場合には、(a)独立した経済的価値を有し、(b)秘密保持のための合理的な措置が講じられている「情報」の不正利用が認められていた可能性が大いにあると指摘されている点で本コラムにて掲載するに至った。

事案としては、クリストファー・コレア氏は、2009年から2015年までMLBのカージナルスに所属し、2013年に野球開発部門のディレクターに就任し、分析サポートを担当していた。2011年に元カージナルス幹部のジェフ・ローナウ氏がアストロズのGMに就任し、機密情報を保管するデータベース「Ground Control」を構築。コレア氏は2013年から2014年にかけて、ローナウ氏のカージナルス在籍時の過去のパスワードのバリエーションを用い、アストロズのGround Controlおよびメールアカウントに不正アクセスした。彼は、Ground Controlより、アストロズのスカウティング評価、ドラフト戦略、有望選手リスト、トレード交渉メモなどの機密情報を閲覧。アストロズがセキュリティ対策を講じた後も、ローナウ氏のメールに侵入し、新しいURLやパスワードを取得し、再びアクセスを続けた。結果として、コレア氏は合計118のウェブページにアクセスし、アストロズの機密情報を不正に取得した。

FBI、米国司法省、カージナルスによる別個の調査、MLBによる今回の調査において、コレア氏による不正アクセスは完全に単独で行われていたことが判明したが、MLBは、コレア氏がカージナルスに利益をもたらす形で情報を利用できる立場にあったとして、カージナルスにも責任があると判断し、コレア氏のMLBからの永久追放に加え、カージナルスに対し、アストロズへの2017年のドラフトにおけるカージナルスの上位2つの指名権(56位と75位)の付与と、アストロズへの200万ドルの支払いという厳しい処分を命じた。コレア氏はこの他、裁判所から46ヶ月の実刑判決に加えて27万9038.65ドルの罰金刑を言い渡された。他方、先に述べたように、アストロズはカージナルスに対して民事訴訟を提起しなかった。

 

3. Bolsinger v. Houston Astros, LLC [6][7]

野球における投球サイン盗みとは、相手チームの捕手やコーチが投手に対して出すサインを解読し、打者に伝えることでピッチャーが投げる次の球種を予測し、打者がピッチャーとの勝負において有利に立つことを指す。このサイン盗み自体は、双眼鏡や電子機器を用いない限りルール違反とはされていないものの、近年、MLBにおいて二つの大規模なサイン盗みが発覚した。2017年シーズン、MLB所属のヒューストン・アストロズはワールドシリーズ優勝を果たしたものの、その後の元アストロズ選手の告発により、違法なサイン盗みが行われていたことが発覚した。MLBの調査によると、アストロズは、外野センターフェンスの後ろにカメラを設置し、映った相手捕手のサインをリアルタイムでスタッフが確認して解読し、ダグアウトの屋根や金属製ゴミ箱を叩いて球種を打者に伝達するという手法でサイン盗みを行っていたことが判明している。違法なサイン盗みの結果として、MLBはアストロズに対して500万ドルの罰金と2020年と2021年のドラフトでの1巡目と2巡目の指名権剥奪等の処分を科した。2018年には、ボストン・レッドソックスにおいてもMLB指針に反するサイン盗みが発覚し処分されている。

これらの件は、MLBのサイン盗みに関するルールを明確化するきっかけとなったが[8]、驚くことに選手の一人がこのサイン盗みを法廷闘争に持ち込んだ。すなわち、元MLB投手で元トロント・ブルージェイズに所属していたマイク・ボルシンガー(Mike Bolsinger)氏は、2017年8月4日にアストロズ戦で登板した際に4本のホームランを打たれるなど大炎上し、その後マイナーリーグに降格したが、それを機にMLB復帰の機会を失ったと主張、アストロズのサイン盗みによって自身のキャリアが損なわれたとして損害賠償請求訴訟を提起した。ボルシンガー氏は、ボルシンガー氏及び彼が所属するトロント・ブルージェイズの使用した投球サインがテキサス州統一営業秘密法(Texas Uniform Trade Secrets Act、TUTSA)に基づく営業秘密に該当し、ヒューストン・アストロズが不正なサイン盗みによってこの営業秘密を不正に盗んだと主張したのである。

TUTSAにおいて営業秘密が認められるには、(a)独立した経済的価値を有し、(b)秘密保持のための合理的な措置が講じられていることの要件を満たす必要があるところ、投球サインが営業秘密として認められるとの判断は非常にハードルが高いものと考えられる。というのも、(b)について、チームはサインの内容を非公開とし頻繁に変更するなどの工夫を施したり、キャッチャーはミットを使って打者や相手チームのダグアウトにサインを見られないようにするといった努力を行うが、双眼鏡を持ったセンターのファンやテレビを見ているファンは、その合図を見ることができ、試合中にリアルタイムで相手チームや数百万人の視聴者に前で公開されているとも言えるため、投球サインは、営業秘密のレベルに達するほど十分に秘密管理の下に置かれているわけではない。(a)については、打者に次の球種が知られることで投手は大きな不利を被ることになり、アストロズのように不正利用すれば、個人・チームの勝敗につながり、それによって金銭的・競技的価値が生じるとも言える可能性があるとも指摘されている。また、前提として、投球サインはボルシンガー氏本人にあるのか、トロント・ブルージェイズにあるのかも特定されなければならないという難しい問題も存在する。

本訴訟は結局当事者間での和解が成立したため、投球サインが営業秘密と認められるかについての裁判所の判断は示されなかったものの、上述のとおり営業秘密に該当するハードルは高いものと考えられる。ただ、公開下のスポーツプレー中のコミュニケーションが(b)秘密管理性の要件を満たして営業秘密に該当する場合があり得るのかという論点を提起したという点でこの裁判例は重要であり、この点は公開されているスタッツデータは営業秘密として保護され得ないとの現時点での一般論にも関連する点であり、非常に興味深い事案であったといえる。

 

4. Williamson v. Prime Sports Marketing LLC etc. [9]

現在、NBAのニューオーリンズ・ペリカンズに所属しているザイオン・ウィリアムソン氏は、デューク大学1年生時にフォード氏及びプライムスポーツ社とマーケティング契約を締結した。2019年、ウィリアムソン氏は同契約がノースカロライナ州の統一選手代理人法に違反しているとして同契約の無効を求めて訴訟を提起し、2021年1月、裁判所はウィリアムソン氏の訴えを認め同契約は法的に無効であると判断した。しかし、フォード氏及びプライムスポーツ社は、ウィリアムソン氏のために行った投資を取り戻そうと契約違反及び不法行為を理由とする様々な反訴を提起し、その中で、ウィリアムソン氏によるノースカロライナ州営業秘密保護法(TSPA)違反による営業秘密の不正流用を主張した。

ノースカロライナ州法でも、営業秘密が成立するためには、当該情報が(a)独立した経済的価値を有し、(b)秘密保持のための合理的な措置が講じられていることが必要である。フォード氏及びプライムスポーツ社は、ウィリアムソン氏のために立案した「戦略的かつ包括的なマーケティング計画」が営業秘密に該当すると主張した。より具体的には、第1に、彼らはウィリアムソン氏を「次のレブロン・ジェームズ」ではなく「The First Zion Williamson」としてブランディングするアイデア・コンセプトが営業秘密に該当する、第2に、「1+1=3」は被告独自のマーケティング戦略で営業秘密に該当する、第3に、ウィリアムソン氏のために作成したエンドースメントパートナーのリストが営業秘密に該当すると主張した。

裁判所は、第1の主張に対し、2005年にはレブロン・ジェームズ氏の代理人が「ジェームズを『次のマイケル・ジョーダン』ではなく、『初代レブロン・ジェームズ』として確立することを目指す」と公言していること、ウィリアムソン氏自身が2017年・2018年のインタビューで自分は「次のレブロン」にはなろうとしておらず、「ただ最初のザイオンになろうとしている」と述べていたこと等から、このようなコンセプトは既に広く知られており、新しいブランディング戦略とは言えないため、営業秘密には該当しないと判断した。次に、第2の主張についても、「1+1=3」の概念は一般的に「シナジー効果」を表すマーケティング用語として広く知られており、営業秘密としての価値はなく、営業秘密には該当しないと判断した。第3の主張については、リストにはナイキ、ギャトレード、マクドナルド、Beatsなど、広く知られたスポンサーが含まれており、また、単に企業を「フットウェア&アパレル」「ラグジュアリー」などのカテゴリごとにリスト化しただけのものであり、裁判所は「これらの情報は、NBAのCMを見れば誰でも分かること」ととして、営業秘密には該当しないと判断した。

この判決は、スポーツに限らず、単なる一般的なビジネス戦略や広く知られているコンセプトが、営業秘密としての要件を満たさないことを示す事例となった。

 

5. Y. Knicks, LLC v. Maple Leaf Sports & Ent. Ltd. [10][11]

2023年8月、NBAに所属するニューヨーク・ニックスは、同じくNBAに所属するトロント・ラプターズ(メープルリーフ・スポーツ&エンターテイメント社)を相手取り、スカウティングレポートを含む営業秘密の不正流用を理由に提訴した。ニックスは、ラプターズが元ニックスの分析・ビデオ部門所属のイケチュク・アゾタム氏を引き抜き、同氏を二重スパイとして利用したと主張。アゾタム氏は2023年8月初旬、ニックス在籍中に、ラプターズの指示で機密データを不正送信。スカウティングレポート、プレー頻度データ、対戦相手の分析、主要プレーリスト、準備帳などの文書をラプターズのメールアドレスに送信し、さらに3,000以上のビデオファイルをラプターズのスタッフと共有した。ニックスは、これらの情報は「独自の営業秘密」に該当するとし、ラプターズに対する差止命令と損害賠償を求めている。

ラプターズはこれに対し、NBAの規約に基づき、ニックスとリーグ内の他の全チームが、NBAチーム間の紛争は公のではなく仲裁で解決することに合意したと主張し、仲裁への移行を要求した。さらにラプターズは、元従業員が持ち出したとされる営業秘密は、ニックス固有のものではなく、一般に入手可能な情報に過ぎないと主張している。結局、2024年6月28日、裁判所はラプターズの申し立てを認め、紛争の仲裁を強制した。したがって、今後の判断はNBAコミッショナーによってなされることになる。

 

4 おわりに

以上アメリカにおいて、スポーツチームが保有する価値ある情報について営業秘密該当性が主張された事案を紹介した。日本ではほぼ見ることがない同じリーグに所属するチーム同士、選手、スタッフ間における紛争が裁判所に持ち込まれ、営業秘密についても論点となっていることが分かる(ただし和解で終わることがほとんどで、裁判所がスポーツ特有の情報について先例的な判断を示した裁判例を見つけることはできなかった。)。日本においてスポーツチームが扱う情報が営業秘密として主張されることがほとんどないことの要因として、各リーグに所属する者の紛争は当該リーグ内でまずは解決されるため公開されていないということがあるかもしれないが、そもそも営業秘密が問題とされること自体が少ないように思われる。むしろ、欧米においてスポーツチーム等が自らの営業秘密が侵害されたとして差止請求権や損害賠償請求権を主張する背景として、当該情報に秘密管理措置を施し弁護士を雇って争うだけの大きい経済的価値があることにあるとすると、日本では欧米のスポーツ産業において巨大な収益源となっているスポーツベッティングの解禁がされていないことも含めて、スポーツにおけるデータの集積や分析に対する投資が欧米程は伸びていないという点も一因である可能性がある。他方、スポーツ庁がスポーツ市場規模を2025年までに15兆円に拡大することを目標に掲げていること等からも、今後日本におけるスポーツに対する投資は増加の一途をたどるものと考えられ、データ分析結果等の情報の経済的価値は高まっていくことが想定される。このことを踏まえて、不正競争防止法の営業秘密として保護されるためにも、スポーツチーム等における情報の管理として、パスワード、ファイアウォール等を施してパソコンのセキュリティ対策、従業員に対して秘密保持義務を課す、情報毎に必要最小限のメンバーにアクセスを制限することとするといった対策を講じ、秘密管理性や非公知性の要件を満たすための取組を今から始めるべきである。

 

[1] Nat’l Football Scouting, Inc. v. Rang United States District Court for the Western District of Washington December 13, 2012, Decided; December 13, 2012, Filed CASE NO. 11-cv-5762-RBL

[2] Matthew J. Frankel, Hackers strike out Recent cases of alleged sports analytics IP theft, December 17, 2015<https://journals.sagepub.com/doi/full/10.3233/JSA-150010>

[3] Matthew J. Frankel, Hackers strike out Recent cases of alleged sports analytics IP theft, December 17, 2015<https://journals.sagepub.com/doi/full/10.3233/JSA-150010>

[4] Office of the Commissioner MAJOR LEAGUE BASEBALL, Commissioner’s Opinion and Order on Breach of Astros Systems, January 30, 2017<https://www.courthousenews.com/wp-content/uploads/2017/01/HackingMLB.pdf>

[5] Jenifer Langosch and Brian McTaggart, Astros awarded Cardinals’ first two Draft picks, January 31st, 2017<https://www.mlb.com/news/astros-get-cardinals-first-two-draft-picks-c214730556#:~:text=Commissioner%20Rob%20Manfred%20made%20the,for%20accessing%20the%20Astros’%20information.>

[6] BOLSINGER v. ASTROS CASE NO. 2021-28763 DISTRICT COURT OF TEXAS, 61ST JUDICIAL DISTRICT, HARRIS COUNTY May 13, 2021

[7] Joshua D. Winneker, David Gargone, and Danielle Clifford, Pitcher-Victims of Major League Baseball “Illegal” Sign Stealing Should Have Viable Tortious Interference with Contractual Relations Claims Against the Opposing Teams < Pitcher-Victims of Major League Baseball “Illegal” Sign Stealing Should Have Viable Tortious Interference with Contractual Relations Claims Against the Opposing Teams – New England Law Review>

[8] MLBは2001年に、電子機器や双眼鏡を使用したサイン盗みを禁止する指針(directive)を発表していたが、技術の進化やアストロズとレッドソックスのサイン盗みを受けて、2019-2020シーズンに電子機器を用いたサイン盗みを禁止する新ルールを導入した。ルールの主な内容としては以下である。

  • フェアゾーン内の球場内カメラを全面禁止
  • 他のブルペン及びクラブハウスのテレビモニターは、8秒遅れで試合中継を受信する。
  • ダグアウトとクラブハウス間のトンネルや補助室にはテレビモニターを設置してはならない。
  • 各球団は、球団内のすべてのカメラの用途、配線、信号の視聴場所を詳細に記した監査報告書をMLBに提出しなければならない。
  • 合法なサイン盗みは依然として許容される
  • 電子機器や双眼鏡などの道具を使用しない限り、競技中にサインを解読することは認められる。

例えば、二塁ランナーが捕手のサインを解読し、打者に伝達することは今も戦略の一環とみなされている。2022シーズンからは、キャッチャーが投手に音声で指示を伝える「アンチ・サイン盗みデバイス」の使用が許可された。

[9] Williamson v. Prime Sports Mktg., LLC United States District Court for the Middle District of North Carolina July 15, 2022, Decided; July 18, 2022, Filed 1:19CV593

[10] New York Knicks, Llc V. Maple Leaf Sports & Entertainment Ltd. DBA Toronto Raptors Et Al DISTRICT COURT SOUTHERN DISTRICT OF NEW YORK CASE 1:23-CV-07394

[11] Kevin Paule, Knicks Suit Shows Need For Leagues To Protect Big Data, November 1, 2023< Law360 Knicks Suit Shows Need For Leagues To Protect Big Data.pdf>

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