「色彩」「音」「動き」「ホログラム」「位置」
- 5つの新しいタイプの商標
知財よもやま話 第5話
林 いづみ
PDF版ダウンロード:【知財よもやま話(5)】「色彩」「音」「動き」「ホログラム」「位置」-5つの新しいタイプの商標
2015年4月1日から「色彩」「音」「動き」「ホログラム」「位置」の新しい5タイプの商標の出願受付開始
いよいよ「新しいタイプ」の商標の実務が日本でも始まりますね。概要を簡単にご紹介しましょう。
日本における「新しいタイプの商標」の第一弾は1996年改正商標法による「立体」商標制度の導入でした。鳥型饅頭やコーラ飲料ボトルの判決例は有名ですね。
その後、色彩や音等のその他の新しいタイプの商標の導入について、審議会での議論が続いていましたが、ようやく12年後の2014年改正商標法(平成26年法律第36号。以下「改正商標法」という。)によって導入に至りました。
今回導入された新しいタイプの商標は、「色彩」「音」「動き」「ホログラム」「位置」の5タイプです。
改正商標法第2条(定義等)「この法律で『商標』とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下『標章』という。)であつて、次に掲げるものをいう。」(下線部が今回改正部分)。
5タイプのうち、「色彩」と「音」は改正法2条に新たに追加され、「動き商標」と「ホログラム商標」は商標に係る文字や図形等が変化する商標(改正商標法5条2項1号)として整理されますので、改正商標法5条2項5号の「経済産業省令で定める商標」は、現時点では「位置商標」のみです(商標法施行規則4条の7)。「政令」委任の趣旨は、諸外国での権利取得の事例が相当程度ある商標を将来的な保護ニーズの高まりに迅速に対応して保護対象に追加するもので[1]、「におい(香り)」は登録制度がある国でも登録事例が乏しく、今回の導入は見送られています。
新商標の導入に合わせ、特許庁では商標審査基準の改訂を行い、色彩、音などを商標出願においてどのように特定するか、独占に適応しない標章の除外、文字(言語)商標との関係等の基準を規定しています。
改正商標法の施行日及び新しい商標の出願受付開始日は2015年4月1日です。出願人は、出願書類において、どのタイプの商標として出願するかを記載し、商標見本や商標の詳細な説明(音については音源データ)等を提出しなければなりません。詳しくは特許庁のウェブサイトをご覧ください。
http://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/new_shouhyou.htm
(参考)日本企業がすでに海外での出願や権利取得を進めている新しい商標の例[2]
新商標導入の背景と今後
商標は、需要者が、ある商品やサービスを他社のものと区別(識別)するための重要な目印であり、需要者が、商品・サービスの出所や品質、魅力を識別するための重要な情報手段です。
伝統的には、この意味での識別力を持つ目印は、視覚的に識別可能な文字、記号や図形の要素によって構成されていたので、もっぱら、これらが商標登録の対象でした。しかし、現代ビジネスにおいて、需要者に識別情報を伝達する手段は文字、記号や図形に限らず、立体、色彩、音などが同様の識別機能を持つ場合もあります。商標を構成要素よりも商標の本質である識別性によって定義している欧米各国では、これらも商標登録の対象とされて久しく、「非伝統的商標」と呼ばれています。
今回の改正前に特許庁が審議会に示した世界地図では、非伝統的商標を導入していない国は世界中でごく少数(先進国の中では日本のみ)であり、日本企業による海外での新商標登録の事例も増加していました。日本の新商標の導入は国際的にはかなり遅れた導入となりましたが、その分、特許庁としては、各国制度・実務の研究を踏まえ、より良い商標登録審査基準の策定を目指したとのことです。
ところで、諸外国においても、伝統的商標に比べて非伝統的商標の登録は圧倒的に少ないものです。たとえば、大きな話題となった、高級ブランドのハイヒール靴底の赤色商標の登録の可否や権利範囲に関するフランスや米国の判決例では商標の本質にかかわる議論が展開されています。
日本でも、色彩、音などの新しいタイプの商標は、特定の商品・役務の識別性が認められず、商標法3条2項「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、前項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」による登録を目指す場合が多いでしょう。
すでに、一昨年来のTVコマーシャルを見ていると、音商標登録を目指すのではないかと推測されるものもあります。今回の「新しい商標」の導入は、ブランド戦略の重要性を理解する企業にとって、戦略を見直す良い契機となるのではないでしょうか。
※注釈
[1]特許庁総務部総務課制度審議室編『平成26年特許法等の一部改正―産業財産権法の解説』(発明推進協会、2014年)162頁
[2] 以下の図は特許庁「平成26年特許法等の一部を改正する法律について(平成26年特許法等改正説明会テキスト)」(2014年)10頁から引用した。
http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h26_houkaisei/h26text.pdf
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