営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第39回
営業秘密管理の第一歩を踏み出そう
弁護士知財ネット
弁護士 前田 将貴
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1.はじめに
このコラムをお読みの方の中には、自社の営業秘密管理体制を見直そう、あるいは、営業秘密の管理を本格的にはじめよう、と考えておられる方も少なくないと思います。しかし、あまりにも検討すべき点が多く、どこからはじめればいいか分からない、と言う方も多いのではないでしょうか。そこで、今回のコラムでは、社内の営業秘密管理体制の見直しや導入を考えておられる方に第一歩を踏み出すための概説をしてみようと思います。
なお、本コラムは大まかなイメージを掴んでもらうことを目的としています。そのため、詳細な説明までは行いませんので、具体的な事例に関しては、必ず本コラムの記載を鵜呑みにせず専門家の意見を聴いた上で検討してください。
2.なぜ営業秘密の管理を行う必要があるのか?
(1)「営業秘密」に該当するとどうなるの?
不正競争防止法は、営業秘密に一定の保護を与えており、不正な方法で営業秘密を取得した者に対して民事・刑事責任を課しています。
秘密保持契約を締結した相手方が契約に違反した場合や、従業員が情報管理規定等の就業規則に違反した場合、契約や就業規則の違反を理由として当該相手方や従業員の責任を追及することが可能です。しかし、これらはいずれも契約や就業規則に基づくものです。営業秘密に該当する情報については、そういう特別な関係にない第三者との間でも法的な保護が及びます。要するに、営業秘密としての保護を受けることが出来れば、契約相手方や従業員だけでなく、競業他社等の第三者に対する関係でも保護を受けることができるのです。
(2)営業秘密に該当するためには?
このコラムを継続して読まれている読者の方はもう見飽きたかもしれませんが、営業秘密に該当するためには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性が必要です。
①秘密管理性が認められるためには、営業秘密として保護されるべき情報(企業が営業秘密として保護しようとしている情報)であることを情報に触れる従業員が認識できる形態で管理すること、が必要です。
②有用性とは、「客観的にみて、事業活動にとって有用であること」をいいます。顧客名簿や製造方法に関するノウハウといった直接事業に用いている情報だけでなく、失敗した研究データに関する情報等の現在は事業に用いていないが、潜在的な価値を有する情報も含みます。
③非公知性とは、「一般的に知られておらず、又は容易に知ることができないこと」をいいます。
このように、①は情報管理の態様の問題で、②と③は情報の性質の問題です。したがって、営業秘密として保護すべき社内情報を区分するためには、②有用性及び③非公知性が認められる情報であれば、①秘密管理性が認められる態様で管理を行えば、営業秘密として保護される、と整理できます。
3.では、営業秘密の管理をどのように進めていけばいいのか?
(1)営業秘密として保護すべき情報とはなにか?
ここで、どういった情報を営業秘密として保護すべきか?という点を考えてみましょう。
営業秘密として保護すべき情報を把握するためには、まず自社の強みを再度認識し、事業活動を支えている技術上又は営業上の情報を把握する必要があります。例えば、独創的な製品開発に強みがある会社の場合、製品開発に関する各種データ、製造方法に関するノウハウ、設計図面等の技術上の情報がまず思い浮かぶでしょう。他方、営業に強みがある会社の場合、そういった技術上の情報より、営業ノウハウ、顧客名簿、営業担当者の育成手法等の営業上の情報を優先的に保護する必要があります。このように、営業秘密として保護すべき情報は各社の実態によって様々であり、その実態に即した適切な保護を行わなければなりません。
(2)秘密管理性が認められる管理体制とは?
保護すべき情報が選定できれば、あとはこれを適切に管理するだけです。しかし、この「どのように管理するか」という点が一番悩ましい点です。
細かい話を置いておくと、秘密管理性は、厳重に管理すればするほど認められ易くなります。極端ですが、重要な情報が記載された書類は、一切複製やデータ化をせずに一部の人間しか開錠できない金庫にしまっておくという厳重な管理を行なえば、秘密管理性は認められるでしょう。
しかし、営業秘密は使ってこそ価値があります。そのため、管理を厳重にすればするほど秘密管理性は認められ易く(=営業秘密としての保護が認められ易く)なりますが、反面、使うためにわずらわしいステップ・社内手続きを踏まなければならなくなり生産性を損なって本末転倒な結果・・・ということにもなりかねません。管理と利用の適切なバランスをとる必要があります。
そして、実際にどのような管理を行うのかということは各社の実態に応じて具体的に検討する必要があるのです。そのため、一般的に妥当する管理方法を示すことはできません。以下では、あらゆる会社で重要になると思うポイントを3つ指摘しておきます。
(3)段階的な区分
営業秘密だからといって全てを同じ管理体制で管理する必要はありません。情報の重要度は様々でしょうし、その利用の頻度や態様も様々です。そこで、重要度が相対的に低く利用頻度が高い情報については管理の重要性よりも利用し易さを優先する、重要度が極めて高い情報については利用に支障が出ても厳重な管理を行う、そういう段階的な管理方法を採用することが考えられます。重要性に応じて複数のレベルを設け、レベルごとに適切な管理体制を構築すれば、バランスのより管理体制を実現できるのではないでしょうか。
(4)管理体制の適切な実行と従業員等への周知
秘密管理性が認められるために大切なことは、営業秘密を管理していると外形的に認識できる管理体制を構築すること、です。どれだけ立派な管理体制を定めていても、実態が伴わなければ十分な保護は期待できません。したがって、導入した体制を適切に実行していくことが必須です。
また、適切な管理を実行するためには、情報を保護することの目的や社内情報の管理体制を従業員等に周知する必要があります。そういう認識が共有できていないと、実際に情報を扱っている従業員の方からすると、ただ不便なだけの手続きになってしまいます。その結果、せっかく導入した管理体制が徐々に形骸化し、いざというときに十分な保護が及ばない、、、という悲しい結末にもなりかねません。
(5)定期的な見直し
そして、どの事業者であっても、営業秘密として保護すべき情報は少しずつ変わっていきます。そのため、定期的に営業秘密保護の在り方を見直し、その変化に応じた保護を実施していく必要があります。
4.さいごに
駆け足でしたが、営業秘密管理の概要を説明しました。営業秘密保護の具体的なイメージを持つための手助けとなれば幸いです。
なお、本コラムは初歩的な内容ですが、他のコラムでは相当詳細な点まで踏み込んだ解説がなされています。過去に掲載されたコラムは下記知財ネットURLから閲覧できますので、もっと深く知りたいという方は是非ご参照ください(弁護士知財ネットには知的財産に精通した弁護士が所属しており、営業秘密に関するご相談等にも対応しています。)。
知財ネットURL:https://iplaw-net.com/
以上