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著作権法(2)著作物 ~どういうものが著作物になりますか?~

              

(最終更新日:2023/9/27)

              

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も前回に引き続き、著作権法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は著作物の要件等についての質問のお答えします。

Q11 著作権法では「著作物」についてどのような定めがありますか?

A11
著作権法第2条第1項第1号において、「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定められています。
この規定から、著作物に該当するための要件は、①「思想又は感情」を内容とするものであること、②「創作的」であること、③「表現したもの」であること、④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」となります。なお、それぞれの要件の内容等については、後のQでご説明します。
また、著作権法第10条第1項各号では、著作権法上の「著作物」の例示として、小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物(1号)、音楽の著作物(2号)、舞踊又は無言劇の著作物(3号)、絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物(4号)、建築の著作物(5号)、地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物(6号)、映画の著作物(7号)、写真の著作物(8号)、プログラムの著作物(9号)の9つの類型が挙げられています。
これらは、あくまで例示ではありますが、対象となる著作物が、いずれの著作物に該当するかによって、著作権法上の取り扱いが異なる場合がありますので注意が必要です。

 

Q12 「著作物」に該当するための各要件はどのような内容ですか?

A12
Q11のとおり、著作物に該当するための要件は、①「思想又は感情」を内容とするものであること、②「創作的」であること、③「表現したもの」であること、④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」となります(著作権法第2条第1項第1号)。
要件①については、それほど厳格な内容は要求されておらず、人の「かんがえ・きもち」程度の広い意味で捉えることで足りるとされています。単なる事実やデータは、「思想又は感情」にはあたらないため、要件①を充足しないと考えられます。
要件②については、著作者の個性が何らかの形で現れていれば足りるとされており、歴史的美術のような高度な創造性や芸術性は不要であるとされています。もっとも、数単語の組み合わせによる短文や定義といった、その内容を表す方法に選択の幅がなく、誰の手によっても同じ表し方になるようなものについては「創作的」であるとは言えず、要件②を充足しない場合が多いとされています。
要件③について、「表現」の方法は、有形・有体的なものに限られず、口述することや口ずさむことでも足りるとされます。なお、「著作物」として保護の対象になるのは、あくまで「表現したもの」であり、その前提となる「アイデア」は保護されません。
要件④については、「文芸、学術、美術又は音楽」は限定列挙ではないと考えられており、広く文化の範囲に属するものであればよく、例えば、設計図やコンピュータープログラム等も、他の要件を充足する限りにおいて、著作物であるとされています。なお、「実用に供され、あるいは産業上利用される美的創作物」(いわゆる「応用美術」)については、要件④の問題になり得ると考えられますが、この点については、後のQにおいて解説する予定です。

 

Q13 著作権の目的となることができない「著作物」はありますか?

A13
著作権法第13条において、「憲法その他の法令」(1号)、国や地方公共団体の機関等による「告知、訓令、通達その他これらに類するもの」(2号)、「裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの」(3号)、これらの「翻訳物及び編集物」で国や地方公共団体の機関等が作成するもの(4号)については、著作権法の規定による「権利の目的となることができない」と定められています。
そのため、これらについては、仮に「著作物」に該当するための各要件を充足するとしても、著作権による保護は認められません。
よって、著作権法第13条各号に定めるものについては、誰でも自由に利用することができます。

 

Q14 著作権法第10条第1項第1号の「言語の著作物」には、どのようなものがありますか?

A14
「言語の著作物」は、言語もしくはそれに類する表現手段により思想・感情が表現されたものであり、具体例としては、小説、論文、詩、講演などが挙げられます。「言語の著作物」であるためには口述でもよく、例えば、録音・録画などにより固定されていない講演であっても「言語の著作物」に当たります。
「言語の著作物」には、言語又はこれと類する手段により表現されたものが広く含まれますが、標語、スローガン、小説・講演のタイトルなどの簡略なフレーズは、表現の選択の幅が狭く、ありふれた表現であって創作性が認められないことを理由として、「言語の著作物」として保護されない場合が多いものとされています。もっとも、小説・講演のタイトルはそれ自体著作物に当たらない場合であっても、小説・講演の「題号」に当たるため、第三者が勝手にこれを変更すれば、それぞれ小説・講演という著作物の同一性保持権侵害となる可能性があります(著作権法第20条第1項)。同一性保持権については、後のQにおいて解説する予定です。

 

Q15 著作権法第10条第1項第2号の「音楽の著作物」には、どのようなものがありますか?

A15
「音楽の著作物」は、音を表現手段として思想又は感情を表現したものをいいます。音楽のジャンルは問わず、旋律だけが主要な要素であっても、また反対に、旋律がなくリズムだけであっても構いません。録音などで固定されていない即興演奏もこれに含まれ、歌詞を伴う楽曲であれば、歌詞も「音楽の著作物」に当たります。
作詞家と作曲家が、それぞれ単独で歌詞と楽曲を制作して音楽を完成させた場合、歌詞と楽曲は別個の著作物として保護されます。作詞家と作曲家がお互いにアイデアを出し合いながら一つの音楽を完成させた場合には、歌詞及び楽曲がそれぞれ、作詞家と作曲家の共同著作物として保護されることもあり得ます。

 

Q16 著作権法第10条第1項第3号の「舞踊」の著作物にはどのようなものがありますか。

A16
「舞踊の著作物」は、人の身体の動作の型である振付によって思想・感情を表現したものをいいます。踊る行為それ自体は著作物ではなく、実演として著作隣接権の対象となります(なお、著作隣接権については、後のQにおいて解説する予定です。)。
ダンスの振付に関する裁判例としては、社交ダンスの振付が著作物に当たらないと判断したもの(Shall weダンス?事件 東京地判平成24・2・28 平成20年(ワ)9300号)や、フラダンスの振付が著作物に当たると判断したもの(大阪地判平成30・9・20判時2416号42頁)などがあります。
なお、フィギュアスケート等のスポーツの振付は、一般的には著作物ではないと解されていますが、フィギュアスケート等は実質から見れば舞踊とほとんど変わりがなく、振付師の美的感覚によって生み出されるものであるため、理論的には著作物性を否定することは難しいとの指摘があります。

 

Q17 著作権法第10条第1項第4号の「美術の著作物」にはどのようなものがありますか?

A17
「美術の著作物」は、形状・色彩・線・明暗で思想又は感情を表現したものをいいます。絵画や彫刻が典型ですが、著作権法第2条1項1号の要件(すなわちQ12で紹介した各要件)を満たせば、いわゆるアーティストの作品に限らず、広く「美術の著作物」に当たります。
美術のうち、いわゆるコンセプチュアルアートと呼ばれるものは、そのアイデアに対して美術的な評価がなされますが、著作権法上は、アイデア自体は保護の対象とならず、具体的な表現に創作性が認められる場合にはじめて著作物として保護されることになります。最近の裁判例としては、公衆電話ボックス様の造作水槽内に金魚を泳がせ、受話器から気泡を発生させている公衆電話機をその水槽内に設置した作品について、一部の表現に創作性を認め、美術の著作物に該当すると判断したものがあります(金魚電話ボックス事件 大阪高判令和3・1・14判時2522号119頁)。
なお、美術の著作物には美術工芸品(一品製作の手工的な美術作品)も含まれますが(著作権法第2条第2項)、そのほか「実用に供され、あるいは産業上利用される美的創作物」(いわゆる「応用美術」)については、著作物として保護されるのか、また保護されるために高い創作性を要求すべきかなど多くの議論があります。応用美術に関する近時の裁判例としては、幼児用椅子が著作物に当たると判断したもの(TRIPP TRAPP事件 知財高判平成27・4・14判時2267号91頁)や、タコの形状を模した滑り台が著作物に当たらないと判断したもの(知財高判令和3・12・8 令和3年(ネ)10044号)などがあります。

 

Q18 著作権法第10条第1項第5号の「建築の著作物」には、どのようなものがありますか?

A18
「建築の著作物」とは、建造物や工作物によって思想又は感情を創作的に表現し、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの、すなわち著作権法第2条第1項第1号の要件(すなわちQ12で紹介した各要件)を満たしたものをいいます。住宅やビルだけでなく、寺社仏閣や城郭、教会、橋梁、記念碑、タワー、墳墓なども対象となりますし、建築物に付随する門や塀、庭園なども一体として建築の著作物とされます。
ただし、「建築の著作物」は、一般の著作物と異なり、実用性や機能性とは別に独立した美的創作性を有することなどが必要であるとされており、例えば住宅展示場にあるような単なる一般住宅は、通常、著作物として保護されません(高級注文住宅のシリーズ商品について著作物に当たらないと判断されたグルニエ・ダイン事件(大阪地判平成15・10・30判時1861号110頁)など)。実際には、著作物として認められるものは全建築物の一部に過ぎません。

 

Q19 著作権法第10条第1項第6号の「図形の著作物」には、どのようなものがありますか?

A19
「図形の著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現した図形をいいます。著作権法第10条第1項第6号では、図形の著作物を「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」と規定しており、地図を典型的な例としていますが、これにとどまらず、「図形の著作物」には、二次元的な地図、海図、設計図、図表、グラフ、図解などのほか、三次元的な地球儀、各種の模型等も対象に含まれます。
地図については、地理上の事象の取捨選択や表記方法の点で創意工夫が見られれば、著作物として認められる場合があります。また、その内容が、デフォルメされていたり、イラスト化されたような地図は、図形の著作物のほか、美術の著作物と評価できる場合もあります。

 

Q20 著作権法第10条第1項第7号の「映画の著作物」には、どのようなものがありまれますか?SNSに投稿したごく短い動画も「映画の著作物」にあたりますか?

A20
「映画の著作物」には、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現」されているものも含まれ(著作権法第2条第3項)、いわゆる商業的な映画作品や自主製作映画などに限られず、テレビ番組やコマーシャル映像なども内容如何で映画の著作物となりますし、商業的か否かを問わず、SNSや、YouTube等の動画共有サービスにアップロードされた動画なども広く対象になる場合があります。また、実写だけでなくアニメ作品なども含まれ、ゲームソフトの映像なども映画の著作物に含まれる場合があると考えられています。そのため、個人がスマートフォン等で撮影してSNSに投稿した数秒程度の動画なども、被写体や撮影角度、構図等を選択して撮影し、適宜の編集・加工がなされるなど、思想感情が表れているものについては、「映画の著作物」として保護される場合があります。
なお、映画の著作物は、他の著作物と異なり、物への固定が必要とされますが(著作権法第2条第3項)、大半の動画については固定の要件を満たしているものと考えられます。
映画の著作物に該当する場合、その著作者や著作権者が誰になるか、といった点も他の著作物とは異なるやや特殊な取扱いとなりますが、この点は別のQにおいて解説する予定です。

 

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