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商標法(12)裁判外紛争解決手続、仮処分等~紛争を解決するための手続についてもっと教えてください~

              

(最終更新日:2023/9/25)

              

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も商標法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は、商標侵害に関する様々な紛争解決手続に関する質問にお答えします。

 

Q111 訴訟以外で商標権侵害紛争を解決することはできますか。

A111
訴訟以外で商標権侵害紛争を解決する方法としては、任意交渉や、調停及び仲裁等の裁判外紛争解決手続があります。

任意交渉は当事者間で解決を目指して話し合うものです。代理人を介さずに行うこともあれば、片方のみ、あるいは、双方が代理人を立てて交渉を行うこともあります。任意交渉によって速やかに解決できる場合も少なくありませんが、お互いに言い分がある事案等では任意交渉による解決はなかなか期待できません。

調停及び仲裁等の裁判外紛争解決手続は、訴訟手続によらずに民事上の紛争を解決しようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続です(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律第1条)。これら裁判外紛争解決手続では、柔軟で迅速な解決が可能であること、費用が低廉であること、手続が非公開であることといったメリットがあります。また、民事訴訟の訴訟記録は公開されてしまいますが、裁判外紛争解決手続では提出書類等は公開されません。

Q112 調停や仲裁について詳しく教えてください。

A112
「調停」とは、民事紛争の解決のため、第三者(調停人)が中に入って双方が互譲して合意を成立させる手続のことをいいます。知的財産紛争の調停は、民事調停法に基づく裁判所の民事調停制度のほか、日本知的財産仲裁センターによる調停を利用することができます。

裁判所の民事調停については、令和元年10月1日より、東京・大阪地裁知財部において「知財調停」の運用が開始しています。知財調停では、知財部の裁判官1名及び知財事件の経験が豊富な弁護士・弁理士などの専門家(2名)の合計3名から構成される調停委員会が調停案を示します。詳細については以下をご参照ください。
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/l3/Vcms3_00000618.html

また、日本知的財産仲裁センターの調停では、専門知識と経験を有する弁護士、弁理士及び学識経験者が調停人となります。詳細については以下をご参照ください。
https://www.ip-adr.gr.jp/business/mediation/

いずれの調停においても、専門性をもった調停人による公平・中立的な調停を期待できます。
「仲裁」とは、第三者である私人(仲裁人)を選任して、その仲裁人の審理を受け、その結果仲裁人から出された判断内容には有利不利にかかわらず服することを約束して、紛争を解決する手続のことをいいます。仲裁は、仲裁合意がある場合に、日本知的財産仲裁センター等に申立てることができます。同センターによる場合は、弁護士・弁理士が少なくとも各1名参加して構成される3名の仲裁人の判断に委ねられ、仲裁人が示した仲裁判断は、紛争当事者を拘束し、原則として不服の申立(裁判を含む)はできません。詳細については以下をご参照ください。
https://www.ip-adr.gr.jp/business/arbitration/

Q113 商標権侵害訴訟を提起するにあたり,裁判所に納める印紙代はどのように算定するのでしょうか。

A113
訴訟印紙の額は、訴額の合計額に応じて決定されます。

損害賠償請求については、賠償を求める金額(元金)がそのまま訴額となりますので、元金1億円の損害賠償を求める場合においては、訴額は1億円となります(遅延損害金部分は、附帯請求となり、訴額の基礎となりません。民事訴訟法9条2項。)。

差止請求については、原告の年間売上減少額と利益率による方法など、複数の算定方法があります(特許権等と異なり、商標権については権利の残存年数は考慮されません。)。
詳細は、 http://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/sinri/ip/index.html を確認ください。なお、侵害物品の廃棄等の請求や損害賠償についての遅延損害金の請求は、附帯請求ですので、訴額には算入されません(民訴9条2項)。

訴額がいくらの場合に、訴訟印紙代がいくらになるのかについては、以下のURL等を参照ください。
【裁判所HP 手数料】
http://www.courts.go.jp/saiban/tesuuryou/
【裁判所HP 手数料早見表】
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf#search=%27%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E5%8D%B0%E7%B4%99%E4%BB%A3%27

Q114 商標権侵害行為に対して損害賠償を求める訴訟を提起しました。審理の大まかな流れについて,教えてください。

A114
裁判所に訴状を提出すると、まず訴状審査がなされ、問題なければ、被告への訴状の送達とともに、第1回口頭弁論期日が指定されます。商標権侵害訴訟に限らず民事訴訟では、原告と被告が主張・反論を記載した書面(準備書面といいます。)や証拠を提出して期日(口頭弁論期日、弁論準備手続期日等)でそれを確認する、ということを繰り返して審理を進めていきます。期日は、概ね1ヶ月から2ヵ月毎に指定されます。

東京地裁及び大阪地裁等では、商標権侵害訴訟において、侵害の有無を審理する「侵害論」を先行して行い、侵害が認められた場合には損害について審理する「損害論」へ移行する、という2段階審理方式を基本的な運用モデルとしています。そのため、損害賠償を求める訴訟の場合、損害論に移行すれば原告の勝訴、反対に損害論に移行しなければ原則として被告の勝訴となることが見込まれます。

商標権侵害訴訟の大まかな流れについては、大阪地方裁判所が、審理モデルを公開していますので、こちらも参照ください。
【大阪地方裁判所】
https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/file/311004.pdf

Q115 商標権侵害訴訟の第一審判決に不服がある場合,どうすれば良いですか。

A115
控訴をして控訴裁判所で更に審理することができます。控訴をする場合、第一審判決の正本が送達された日の翌日から起算して2週間以内に、控訴状を第一審裁判所(控訴審裁判所ではないことに注意してください)に提出する必要があります(民訴法第285条、第286条第1項)。

第一審裁判所は、控訴の適法性を審査して、適法な控訴があった事件について事件記録一式を控訴審の裁判所へ送付します。
控訴審は、第一審の地方裁判所を管轄する各高等裁判所(東京高裁の場合は、その特別支部である知的財産高等裁判所)が審理します(特許権侵害訴訟の場合と異なり、必ずしも知財高裁が控訴審を審理するとは限りません。)。

Q116 仮処分により,商標権侵害行為を止めることはできますか。

A116
商標権侵害行為が継続しており、侵害行為に対する差止請求訴訟判決の取得やその執行を待っていては被害が拡大してしまう等の「著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」には、「仮の地位を定める仮処分」(民事保全法第23条第2項)を申し立てることにより、製造や販売等の禁止の仮処分を得て、商標権侵害行為を止めることができます。
仮処分は、あくまで侵害行為に対する差止請求訴訟(本案訴訟)の判決がなされるまでの間の仮の判断ですが、製造や販売等の禁止の仮処分が認められると、被疑侵害者は製造や販売等を禁止されます。そのため、本案訴訟において差止めの認容判決が得られた場合と同様の効果を得ることができます。
ただし、被疑侵害者にも多大な不利益をもたらすため、申立人の主張のみにより判断されることはなく、原則として口頭弁論又は相手方の審尋を経る必要がある(民事保全法第23条第4項)ほか、特に事案が複雑であれば比較的高い水準の立証や相当程度の審理期間が必要となります。また、申立てが認められた場合にも相当な金銭を担保として供託する必要があります。
なお、本案訴訟と比較すれば、裁判所に納める手数料を低額に抑えることができます。また、著名ブランドのコピー商品等の侵害が明らかな事案においては迅速な仮処分決定により早期に紛争を解決できる可能性がありますし、和解による解決が期待できる場合等、仮処分手続による早期の紛争解決が期待できる事案もあります。

Q117 商標権侵害行為の差止を求める訴訟を提起されました。この訴訟では商標権に無効理由があると反論する予定ですが,訴訟外でも何らかの手続を採ることはできないでしょうか。

A117
訴訟における無効の抗弁とは別途、特許庁に対し、利害関係人(差止訴訟を提起された者には利害関係が認められます。)として、商標登録の無効審判を請求することができます(商標法第46条第1項)。
無効審判請求がなされた場合には、特許庁の審判官が、侵害訴訟における裁判所とは独立して無効理由の有無について判断することになります(無効審判制度については、Q41ないしQ43もご参照ください。)。
無効審判の審決に不服がある当事者は、30日以内に審決取消訴訟を提起することができます(商標法第63条第1項)。

Q118 審決取消訴訟とは,どのような訴訟ですか。

A118
審決取消訴訟とは、特許庁の審判(これを審決といいます)に対する不服申立てとして、裁判所に対して提起する行政訴訟です。商標法に基づく一定の審決や決定については、行政不服審査法による不服申立てが制限され(商標法第77条、特許法195条の4)、東京高等裁判所(具体的には知的財産高等裁判所)にのみ不服の訴えを提起できるものとされています(商標法第63条第1項)。
商標登録前の特許庁を相手方とする審判(査定系審判などといわれます。具体的には、拒絶査定不服審判(商標法第44条)や補正却下決定不服審判(商標法第45条)など。)と、商標登録後の商標権者等を相手方とする審判(当事者系審判などといわれます。具体的には、無効審判や取消審判等。)と大きく2つの類型に分けられ、前者は特許庁長官を被告とし、後者は当該審判の請求人ないし被請求人を被告として争うこととなります(商標法第63条第2項、特許法第179条)。
審決取消訴訟において、審決が違法と判断されて取り消され、これが確定したときは、再び特許庁の審判手続に戻り、審判官は更に審理を行い、改めて判断を下す必要があります(商標法第63条第2項、特許法第181条第2項)。ただし、審判官は裁判所の判決に拘束されるため(行政事件訴訟法第33条第1項)、裁判所の判決(認定された事実や法律判断も含む)に反する審決を行うことは制限されます。
なお、審決取消訴訟の判決に対しては、一定の理由があれば、最高裁判所に対して上告や上告受理の申立てを行うことができます(民事訴訟法第311条、第318条)。
(拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟については、Q35もご参照ください。)

Q119 商標権侵害行為の差止め及び損害賠償の支払いを求める書面を受け取りました。商標権の調査方法や留意点を教えてください。

A119
日本で登録されている商標については,特許庁が発行する商標公報に設定登録時の商標権者の氏名や住所,指定商品・役務及び登録商標の内容等が記載されています(詳細はQ7をご参照ください。)。

ただし,商標公報では,存続期間中の第三者への譲渡や,更新登録の有無等についての記載はありませんので,商標権の権利内容を正確に調査するためには,商標登録原簿謄本を取得し,その内容を確認する必要があります(商標登録原簿についてはQ10,更新手続についてはQ36をご参照ください。)。

また,商標権の譲渡等があった場合,商標登録原簿が書換えされますが,その手続きには一定の期間を要しますので,書換手続中に商標登録原簿を取得したようなケースでは,再取得が必要となる可能性がありますのでご注意ください。その他,商標登録原簿では商標権の更新登録がされていない場合にも,商標法は,更新登録申請の期間の経過後6か月以内であれば,割増登録料を支払うことで更新登録申請を認めていますし(商標法第20条第3項,第23条第2項),正当な理由がある場合には更新登録申請が行われずに消滅した商標権を回復することも可能です(商標法第21条第1項)。このように,商標登録原簿では更新登録がなかったとしても,その後に更新登録申請が行われる可能性もありますので,ご留意ください。

Q120 商標権侵害に対する刑事罰には,どのようなものがありますか。

A120
商標権又は専用使用権の侵害に対しては、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金の罰則(併科あり)が設けられています(商標法第78条)。故意犯のみを処罰対象としているため、偶然類似した商標を使用してしまった場合等は処罰対象とはなりません。

また、商標法第36条の侵害行為だけでなく、第37条及び第67条の侵害とみなされる行為に対しても、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(併科あり)の罰則が設けられています(商標法第78条の2)。

なお、法人の代表者や従業員等が、法人の業務に関して上記の侵害行為等を行った場合には、法人に対しても、3億円以下の罰金刑が科されます(商標法第82条第1項第1号)。

これらはいずれも告訴権者による告訴がなくとも検察官が起訴することができる非親告罪ですが、多くの場合、商標権者による告訴が捜査の端緒となります。
(商標権侵害行為、侵害とみなされる行為の詳細については、Q52やQ53、Q57をご参照ください。)