Q&A

知財Q&A

著作権法(3)著作者、著作権者 ~著作者と著作権者ってどう違うのですか?~

              

(最終更新日:2023/9/27)

              

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も前回に引き続き、著作権法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は、著作物の続きと、著作者、著作権者についての質問にお答えします。

Q21 コンピュータプログラムは著作物として保護されますか。

A21
コンピュータプログラムも、著作権法第2条第1項第1号の定める著作物の要件を満たす限り、他の創作物と同様に、著作物として保護されます。著作権法第10条第1項第9号も、著作物の例として「プログラムの著作物」を挙げています。
著作権法の想定する「プログラム」の意味については、著作権法第2条第1項10号の2に規定されています。簡単に言えば、コンピュータに対する指令を組み合わせた表現物、例えばソースコードなどが「プログラム」に含まれます。
コンピュータプログラムが著作物として保護されるか否かは、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をいかなる順序で、どのように組み合わせるかといった点に、プログラムの作成者の個性が表れているか否か(いわゆる著作物としての創作性が認められるか否か)によって判断されます。そのため、指令の組合せ等の選択の幅が狭い場合、例えば、コンピュータに要求する処理内容が決まれば必然的にプログラムの表現も自ずと決まってしまうような場合には、個性が表れる余地が乏しく、創作性は否定されやすいといえます。
なお、著作権法は、創作性のある表現を著作物として保護するものであるため、表現の背後にある原理、アイデア、約束事は、著作物として保護されません。そのため、コンピュータプログラムの場合、プログラム言語それ自体や、個々のプログラムにおける約束事(例えば、通信プロトコルなど)やプログラムにおいて用いられるアルゴリズムといったアイデア自体は、著作物として保護されません(著作権法第10条第3項第1号~第3号)。しかし、プログラムの著作物の著作権を侵害しているか否かを判断する場面では、このアイデアのみが他人に利用されているのか、そうではなく、プログラムの表現が利用されているのか、実際にこれを区別することは難しい場合が多いと言われています。

 

Q22 写真は著作物として保護されますか。

A22
写真も、著作権法第2条第1項第1号の定める著作物の要件を満たす限り、他の創作物と同様に、著作物として保護されます(著作権法第10条第1項第8号参照)。
写真が著作物として保護されるか否かは、被写体の組合せや配置、撮影の構図やカメラアングル、光線・印影、背景の設定や選択等に撮影者の個性が表れているか否かによって判断されます。そのため、例えば、平面的な被写体をそのまま忠実に撮影した場合(言い換えれば、コピーの手段として写真を用いた場合)や、証明写真のように撮影・現像が自動的・機械的に行われる場合など、およそ撮影者の個性が表れる余地がない場合を除けば、広く、著作物として保護されると考えられています。したがって、もし、自分が撮影した写真以外の写真をそのまま利用しようとするときには、基本的には、著作物に当たる可能性が高いことを前提に、対応を考えることが無難といえるでしょう。

 

Q23 工作機械の設計図は著作物として保護されますか。

A23
設計図も、著作権法第2条第1項第1号の定める著作物の要件を満たす限り、他の創作物と同様に、著作物として保護されます(著作権法第10条第1項第6号参照)。
設計図が著作物として保護されるか否かは、対象物から離れて、図面としての表現形式(図面に表現されている作図の過程など)に、設計図の作成者の個性が表れているか否かによって判断する裁判例もあれば、これに加えて、対象物の設計情報も考慮する裁判例もあります。もっとも、これらのいずれの見解に立つ場合であっても、設計図は、通常、一般的な製図法に従って作成されるため、図示すべき対象物が決まるとその表現の幅は自ずと限定され得る(言い換えれば、著作権による保護には一定の限界がある)ことに留意する必要があります。そのため、設計図を無断で利用されることのないよう、”契約関係が終了した場合には、一度交付した設計図であっても返却する/破棄する”ことを合意しておく等、設計図を契約によって保護することが特に重要といえます。

 

Q24 著作権法上、作品の「著作者」として認められるのはどのような場合ですか。

A24
著作者とは、「著作物」を創作する者を意味します(著作権法第2条第1項第2号)。より具体的には、著作物における(創作的な)表現の創作に実質的に関与した者ということができ、例えば、絵画であれば、その絵画を描いた画家が「著作者」に該当することになります。これに対して、例えば、①単に創作を依頼した者は、(具体的な)「表現」の創作に関与していないことから、また、②キーボードの入力等の機械的な作業や資金面の援助といった身体的・物理的な協力をしたにすぎない者は、「創作」に実質的に関与していないことから、いずれも「著作者」には当たらないと考えられています。
なお、出版物に著作者名が表示されている場合や著作物について著作者の実名が登録されている場合などの一定の場合には、その表示又は登録されている者が著作者として推定されます(著作権法第14条、第75条第1項、第3項)。
最後に、「著作者」について特別なルールを定めている職務著作、映画の著作物については、Q27及びQ29の解説をご覧下さい。

 

Q25 作品の「著作者」には、その作品に関しどのような権利が認められるのですか。

A25
著作権法第17条第1項は、著作者に対し、著作物に関する著作権及び著作者人格権を認めています。
著作権(著作財産権)は、著作者の著作物に対する財産的な利益を、著作者人格権は、著作者の有する著作物に対する思い入れやこだわりといった人格的な利益を、それぞれ保護する権利です。
著作財産権には、例えば、著作物をコピーする権利(複製権)、著作物をインターネット上にアップロードする権利(公衆送信権)、著作物をアレンジする権利(翻案権)などがあります。著作者人格権には、著作物を公表するか否かを決める権利(公表権)、著作者名を表示するか否かを決める権利(氏名表示権)、著作物の意に反する改変を受けない権利(同一性保持権)があります。
著作財産権は第三者に譲渡することができますが(著作権法第61条)、著作者人格権は第三者に譲渡することができません(同法第59条。この性質は「一身専属性」と呼ばれることがあります。)。

Q26 「著作者」と「著作権者」の違いは何ですか。

A26
著作者とは、「著作物を創作する者」をいいます(著作権法第2条第1項第2号)。他方で、著作権者とは、著作権(著作財産権。以下同じ。)を有する者のことを指します。
原則として、著作者は、創作により著作権と著作者人格権を取得します。なお、これらの権利発生のために特定の方式は要しません(著作権法第17条第1項。ただし、映画の著作物については著作権の帰属について例外規定が定められています。詳しくはQ29をご参照ください。)。
したがって、原始的には著作者と著作権者は同じ人物ということになります。
もっとも、著作権は他人に譲渡することが可能です(著作権法第61条第1項)。そのため、著作権が他人に譲渡された場合には、当該著作権の譲受人が著作権者となる結果、著作者と著作権者が別々の人になることがあります。この場合、一つの著作物に対して、著作者は著作者人格権を、著作権者は著作権をそれぞれ有するということになります。

 

Q27 会社の従業員が業務上創作した著作物の「著作者」、「著作権者」はそれぞれ誰になるのですか。

A27
著作権法は、原則として、著作物を創作した者を著作者としていますが(著作権法第2条第1項第2号)、これに対する例外として、職務著作という制度が設けられています(著作権法第15条)。
職務著作の成立は、①使用者の発意により、②当該使用者の業務に従事する者が、③職務上作成する著作物のうち、④当該使用者が自己名義で公表するものであって、⑤その作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない場合に認められます(なお、プログラム著作物の場合は④は不要となります。)。
職務著作が成立すると、現実に創作した者(従業員等)ではなく、その使用者(法人等)が著作者となります。
したがって、上記各要件を満たす場合には、著作物を創作した者の使用者が著作者となる結果、著作者人格権及び著作権を有することになりますので(著作権法第17条第1項)、「著作者」及び「著作権者」はいずれも使用者ということになります。なお、職務発明(特許法第35条)とは異なり、職務著作について使用者に対する対価請求は認められていません。また、使用者が著作権を第三者に譲渡した場合、当該第三者が著作権者になり得ることは、Q26に記載したとおりです。

 

Q28 複数人が共同して著作物を制作しました。この場合、著作権は誰に帰属しますか。また、著作権の行使に何か制限はありますか。

A28
ある作品について複数人が共同して創作を行い、それが各人の寄与分を分離して個別的に利用できないものである場合には、共同著作物(著作権法第2条第1項第12号)として、その著作物に関する著作権は、各創作者が共有することになり、また、その著作物に関する著作者人格権は、各創作者がそれぞれ固有の著作者人格権を取得することになります。

この場合、各共同著作者が著作権(共有著作権)及び著作者人格権を行使するには、他の著作者全員の合意が必要となります(著作権法第65条第2項、同第64条第1項)。
これにより、例えば、著作権の共有者の1人が、共同著作物を自分で利用する場合であっても、また、第三者にその利用を許諾等する場合であっても、他の共有者全員の合意を得なければならないことに注意が必要です。
他方で、第三者による権利侵害に対する差止請求並びに損害賠償請求及び不当利得返還請求(自己の持分に対応する範囲に限る)については、各人が他の著作者又は共有者の同意なくして請求可能であるとされています(著作権法第117条第1項)。

Q29 映画などの映像作品の「著作者」、「著作権者」はそれぞれ誰になるのですか。

A29
著作権法は、原則として、著作物を創作した者を著作者とし(著作権法第2条第1項第2号)、著作者が著作権及び著作者人格権を有することとしていますが(著作権法第17条第1項)、これに対する例外として、「映画の著作物」(著作権法第2条3項参照)に関する規定が設けられています(著作権法第29条)。

まず、映画の著作物の著作者は、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(モダンオーサー)であるとされています。なお、映画の原作小説や映画で使用された音楽等の著作者(クラシカルオーサー)は、映画の著作者にはなりません(著作権法第16条)。具体的には、映画の監督やプロデューサー等が、著作者として認められる可能性があります。

なお、監督等が被用者となる職務著作が成立する場合には、映画製作者が著作者となることに注意が必要です(著作権法第16条但し書き参照)。
他方で、著作権者については、映画の著作物の著作者が、映画製作者に対し映画の製作に参加することを約束している場合には、著作者ではなく、その「映画製作者」に著作権が帰属するものとされています(著作権法第29条第1項)。

この「映画製作者」とは、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいい(著作権法第2条第1項第10号)、具体的には、映画製作を企画し、映画製作に係る法律上の権利義務が帰属する主体であって、経済的な収入・支出の主体となる者をいいます。

また、「映画の製作に参加することを約束」とは、監督等の著作者が映画製作に携わる旨の契約を締結する場合などをいい、必ずしも、映画製作者に著作権が帰属することを意図していることまでは必要ないものと解されています。

 

Q30 雑誌やオムニバスCD、プレイリスト等、複数の素材を集めて制作された作品の「著作者」、「著作権者」はそれぞれ誰になるのでしょうか。

A30
複数の素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、編集著作物として著作権法上の保護を受けます(著作権法第12条第1項)。この場合、当該素材の選択又は配列にかかる創作をした者が、編集著作物の著作者及び著作権者となります。

なお、特定の編集方針のもと、素材の収集行為のみを行った者や、編集方針・素材の選択・配列に係る相談に対し単に意見を述べただけの者は、編集著作物の著作者とはなり得ないとされています(地のさざめごと事件〔東京地判昭和55・9・17判時975号3頁〕)。

なお、編集著作権は、編集著作物の部分を構成する著作物(個々の素材等)に係る権利には影響を及ぼしませんので(著作権法第12条第2項)、素材についての著作権は存続することになります。したがって、編集著作物の著作権者であっても、著作物を素材とした編集著作物を利用するに当たっては、当該素材の著作権者の許諾を得る必要がありますので、注意が必要です。

また、情報の集合物たるデータベース(著作権法第2条第1項第10号の3)も編集物の一種と言えますが、著作権法では、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは、データベースの著作物として、編集著作物とは異なる別個の著作物として保護の対象としています(著作権法第12条の2第1項)。