Q&A

知財Q&A

商標法(11)ライセンス ~商標のライセンスってなんですか?~

              

(最終更新日:2023/9/25)

              

弁護士知財ネットでは、知的財産に関するQ&Aを公開しています。今回も商標法に関するよくある質問と回答をお届けします。
今回は、商標のライセンスに関する質問にお答えします。

 

Q101 商標ライセンス契約とはなんですか。どういった場合に締結するのでしょうか。

A101
商標ライセンス契約とは、商標権者が自身の商標の使用を他者に許諾するものです。一般的には、許諾の対価として、許諾を受けた者が商標権者に対して一定の使用料を支払うものとされます。使用許諾を行う者をライセンサーといい、使用許諾を受ける者をライセンシーといいます。

商標ライセンス契約は、次のように様々な場面で利用されています。商標ライセンス契約のみが締結される場合もあれば、フランチャイズ契約、販売代理店契約などの各種契約において付帯する条項として商標ライセンスが定められる場合もあります。

① グループ企業間において、親会社から子会社に登録商標の使用を許諾する場合
② フランチャイズ契約において、フランチャイザーからフランチャイジーに対して登録商標の使用を許諾する場合
③ 販売店契約において、メーカー等の製品供給者が販売店に対して、自社の商品の販売にあたって登録商標の使用を許諾する場合
④ 先行する同一又は類似の商標が登録されている場合に、当該商標権者が商標を行使しない旨を合意する場合(禁止権不行使)

なお、商標権者から使用許諾を得ることなく、他者の登録商標を無断で使用した場合、商標権者から損害賠償請求(民法第709条)や差止請求(商標法)を受けるおそれがあります。

 

Q102 商標ライセンス契約を締結するにあたり、事前に何を調べておくべきですか?

A102
商標ライセンス契約を締結するにあたり、許諾を受けようとする者は,商標登録原簿(Q10参照)やJ-Plat Pat(Q29参照)を用いて、また、必要な場合には商標権者等から聴取することによって、少なくとも次の事項を確認しておくべきです。

① 登録商標の内容(登録番号,登録商標,指定商品及び指定役務)
② 商標権者が誰か、共有者の有無
③ 商標権の残存期間
④ 登録・更新料の納付の有無
⑤ 他の使用権設定の有無及びその範囲
⑥ 担保権の設定の有無
⑦ 対象商標権を巡る紛争の有無(無効審判,取消審判,訴訟事件等)

 

Q103  許諾する/される使用権の種類はどのようなものがありますか?それぞれの違いを教えてください。

A103
商標の使用権は、(1)専用使用権(商標法第30条)と(2)通常使用権(同法第31条)に区別され、さらに通常使用権は、①非独占的通常使用権、②独占的通常使用権に分類されます。

(1)専用使用権とは、設定行為で定められた範囲内において排他的かつ独占的な使用権です(商標法第30条第2項)。専用使用権者には、排他的独占的地位が認められ、同権利を侵害する者に対して損害賠償請求及び差止請求を行うことができます(商標法第36条及び同法第38条。なお、専用使用権が設定された場合、商標権者ですら、その設定された範囲においては商標を使用することはできません。)。

専用使用権の設定は、商標登録原簿に登録をしなければその効力を有しません(商標法第30条第4項及び特許法第98条第1項第2号)。

(2)通常使用権とは、商標権者等から差止請求等を受けないという契約上の地位を内容とする権利です(商標法第31条第2項)。通常使用権は、ライセンサーが他の第三者にさらなる使用許諾をすることを禁じる旨の特約の有無によって、①非独占的通常使用権と②独占的通常使用権に分かれ、さらに、独占的通常使用権の中でも、商標権者の使用まで禁止されるものを完全独占的通常使用権と呼びます。

通常使用権者は、あくまで商標権者から権利行使をされないという契約上の地位を有するに過ぎませんので、特に非独占的通常使用権者は、侵害者に対して損害賠償請求及び差止請求を行うことはできないとされています。これに対し、独占的通常使用権者については、侵害者に対する損害賠償請求権の成立を認めうるとした裁判例(東京地判平成15年6月27日判時1840号92頁[花粉のど飴事件])がありますし、商標権者に属する差止請求権を代位行使することができるとする見解もあります。

通常使用権の許諾は、専用使用権の設定と異なり、当事者間の合意のみで成立し、商標登録原簿への登録は要しません(なお、通常使用権についても登録制度は存在し、登録した場合には、通常使用権者は、登録後に商標権又は専用使用権を取得した第三者に対抗することができます。)。

専用使用権

通常使用権

非独占的通常使用権 独占的通常使用権
商標登録原簿への登録の要否

不要

商標権者の使用の可否

×

損害賠償請求の可否

×

差止請求の可否

×

 

Q104 商標ライセンス契約書を作成するにあたって,特に規定すべき条項はありますか?

A104
商標ライセンス契約書は,ライセンスの対象,範囲,対価及び商標使用上のルール等を明確にするものであり,事前にトラブルを回避したり,紛争となった場合の証拠資料として極めて重要です。
ライセンス契約書を作成するにあたっては,通常,次のような事項を検討し、定めます。

①どの商標がライセンス契約の対象であるのか
②許諾する使用権の種類(専用使用権か通常使用権か,通常使用権の場合に独占的か否か)
③許諾対象の商品・役務(ライセンス対象商標の指定商品・役務の全てか一部か)
④許諾する商標の「使用」(商標法第2条第3項各号)行為の種類
⑤使用可能な地理的範囲
⑥契約期間,更新時の処理方法,契約終了後の在庫の処理方法
⑦許諾の対価(使用料)及びその支払方法

また,商標ライセンス契約においては,そのほかにも品質管理義務,侵害排除義務,秘密保持義務,不争義務,契約解除条件など具体的状況に応じて規定しておくべき専門的な事項が多く,必要な規定が欠けていたり、規定の仕方が曖昧だと,後日,紛争の火種となる可能性があります。
具体的にどのような内容を契約書に盛り込むかが重要ですので,是非,弁護士知財ネットにご相談ください。

Q105 ライセンシーが商標を不正使用した場合に,商標権が取消されないために商標権者としてすべき「相当の注意」(商標法第53条第1項但し書き)として,契約においてどのようなことを定めたらよいですか?

A105
ライセンシーが商標を不正使用(指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって,商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの)した場合,誰からでも,当該登録商標の取消審判請求ができ(商標法53条1項),最悪の場合,商標登録が取り消されてしまいます(Q45参照)。

ただし,この場合であっても、当該商標権者がライセンシーの不正使用の事実を知らず,かつ,「相当の注意」をしていた場合は,取消しの対象とはなりません(商標法53条1項但し書き)。
どこまで行えばこの「相当の注意」をしていたと評価されるかについて,事案の性質によって様々ですが,少なくとも単に品質について注意事項を連絡していた程度では足りず,例えば品質や使用態様等について定期的な報告義務を課していた等の対応が必要とされています。

以上に関連して、商標ライセンス契約にあたっては、ライセンシーに許諾対象商品の品質管理義務を課す条項を規定することがよく行われています。具体的事案において「相当の注意」をしていたと評価されるためにどのような義務内容及びその履行確保のための方策を契約書に定めるかが重要ですので、是非,弁護士知財ネットにご相談ください。

 

Q106 商標ライセンス契約を締結する場合に,独占禁止法との関係で気を付けるべきことを教えて下さい。

A106
独占禁止法第21条は「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない」と規定しているところ,商標権者が,他の事業者に対し,ライセンス契約つまり使用権を設定するかしないか,設定するにしても利用させる範囲を限定して使用権を設定するといったことは原則として商標法による権利の行使と認められる行為であるといえます。

しかし,商標ライセンス契約も事業者間の取引として行われるものですから,公正取引委員会による「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」に抵触するような取引条件を定めた場合,それはもはや「権利の行使と認められる行為」とは評価されず,独占禁止法が適用される可能性があります。
例えば,契約締結にあたってライセンサーがライセンシーに対して,当該商標を付した製品に関し販売価格を制限するような場合,権利の行使と認められる行為と評価されず独占禁止法が適用され,拘束条件付取引として不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項,一般指定第12項)に該当し独占禁止法違反(独占禁止法第19条)となる可能性があります。
また,ライセンシーについても,例えば,低廉な並行輸入品が流通することを阻止することを目的として,ライセンシーがライセンサーに対し,並行輸入品の取扱業者に商品を販売させないように義務付けるような場合,不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項,一般指定第12項又は同第14項)に該当し独占禁止法違反となる可能性があります。

ライセンス契約において取引条件を定めるにあたり,どのような場合にどのような内容でどの程度までなら許容されるか否かについては事案の性質によって様々であり,また,上記指針に沿っているかについても検討する必要があるなど,専門的かつ微妙な判断を要することが多いため,是非,弁護士知財ネットにご相談ください。

 

Q107 商標ライセンスの許諾をする際,製造物責任法(同法第2条第3項第2号又は第3号)との関係で気を付けることを教えてください。

A107
製造物責任法では,製造物の欠陥が原因で損害が生じた場合,①自ら当該製造物に商標を表示した者,②当該製造物に製造業者と誤認させるような商標表示をした者,③当該製造物に実質的な製造業者と認めることができる商標表示をした者が,「製造業者等」として損害賠償義務を負うものとされています(製造物責任法第2条第3項第2号,第3号,同法第3条)。

商標ライセンス契約によって,ライセンサーがライセンシーに対し,商標使用を許諾した場合,当該ライセンサーは,上記①ないし③に該当するとして「製造業者等」にあたり,製造物責任を負うものと解されるおそれがあります。実際の裁判例においても,商品に自己の商標を表示させていた販売業者が「製造業者等」にあたると認めた事例が存在します(東京地判平成22年11月17日〔平成19年(ワ)16679号〕)。

したがって,商標ライセンス契約を締結する際には,(i)商標権者が製造業者であると誤認されないような商標の表示方法とする旨や,(ii)仮に,ライセンサーが製造物責任に基づいて損害を賠償した場合には,ライセンシーがこれを補償すべき旨を定めるなどして,上記リスクを抑えるための条項の作成を検討する必要があります。

もっとも,適切な対応策は商品の種類・性質や契約態様等によっても変わり得るため,具体的な条項内容については,是非,弁護士知財ネットにご相談ください。

 

Q108 通常使用権の設定を受けていますが,ライセンサーが破産したり,商標権を譲渡したらどうなりますか?

A108
通常使用権は,当事者間における商標ライセンス契約の締結のみで効力が生じるものであり,特許庁における登録手続は必須ではありません(Q103参照)。

しかしながら,商標権の譲渡等によって商標権者が変更された場合,通常使用権の登録がなされていないと,新商標権者に対しては,もはや当該通常使用権を対抗することができなくなってしまいます(商標法第31条第4項)。
商標権者が破産した場合も同様です。通常使用権が登録されていない場合には,破産管財人に商標ライセンス契約を解除されてしまう可能性があります(破産法第53条第1項)。また,解除されなくても,破産管財人の判断で,第三者に商標権が譲渡されてしまう可能性があり,この場合は,上記と同様に,商標権の譲受人に通常使用権を対抗することができません。

したがって,ライセンサーが破産したり,商標権が譲渡された場合においても通常使用権を維持するためには,通常使用権を設定した旨の登録をしておく必要があります。

なお,以上については、特許権,意匠権及び著作権等において,当事者間におけるライセンス契約のみで,第三者にも通常実施権ないし利用権を対抗できることとされているのとは異なりますので(特許法第99条,意匠法第28条第3項,著作権法第63条の2),注意が必要です。

 

Q109 商標権は譲渡できますか。複数の指定商品があるのですが,指定商品Aに係る商標権をX社に,指定商品Bに係る商標権をY社に譲渡することは可能ですか。

A109
商標権も財産権の一種であるため,原則として譲渡等により第三者に移転することが可能です(なお,一部の商標権は譲渡が制限されています。商標法第24条の2第2項から同第3項)。

また,同一商標権における複数の指定商品を分割して譲渡することも可能であり(商標法第24条の2第1項),このような譲渡方法を分割移転と言います。

したがって,分割移転を行うことにより,指定商品Aに係る商標権をX社に,指定商品Bに係る商標権をY社に譲渡することが可能となります。

なお,一度分割した商標を元に戻すことはできませんのでご注意ください。

 

Q110 商標権の譲渡にあたり,必要な手続を教えてください。

A110
商標権の譲渡の効力を生じさせるためには,特許庁への登録手続が必要です(商標法第35条,特許法第98条第1項第1号)。
具体的な手続としては,特許庁に対し,権利移転申請書・分割移転登録申請書等の所定の書面を提出することが必要となります。
同書面に不備がなければ,申請内容が商標原簿に登録されます。他方,同書面に不備があると認められた場合には,特許庁から手続補正指令書が送付されますので,これに応じて補正をすることになります。