筆者は、営業秘密の保護に関する規定が不正競争防止法に導入されて営業秘密訴訟が提起されはじめた時期に、東京地裁知的財産部の裁判長として審理に当たっていました。近時は、新日鉄対ポスコ事件等の大型の企業秘密漏洩事件が提起されるに至っており、当時の状況から様変わりしていますが、草分けの時期の裁判所での審理の状況を紹介いたします。また、技術情報を営業秘密として保有する場合には、特許法上の先使用権を保全するための方策が必要となりますが、特許侵害訴訟の審理の経験を踏まえた説明をいたします。
これまで、地方の弁護士として主として中小企業から相談・依頼を受けてきました。また、経済産業省及び独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、本年3月に「企業における営業秘密管理に関する実態調査」の結果を公表しました。これらを踏まえて、中小企業が抱いている営業秘密に対する誤解を整理してみたいと思います。
本コラムでは、筆者が過去に対応した九州の中小企業の営業秘密に関する事案をベースに、実際に会社に行き、仕事現場を把握してはじめて分かる(分かった)情報管理の問題点、営業秘密に関する相談対応の過程で出てくる会社の法的主張、当該主張に関する争点等について、必要な範囲で裁判例を踏まえつつ、お話ししたいと思います。
営業秘密を守る方策として不正競争防止法上の「営業秘密」として保護するほかに、契約によって営業秘密を守る方策が考えられると思います。契約によって営業秘密を守る方策のうち競業避止条項によって営業秘密を守ることについて検討してみたいと思います。
「社長!営業秘密については、せめて段ボール箱に"マル秘"の記載をしてください!!」本コラムでは、営業秘密(秘密情報)の管理についての地方の中小企業の社長の悩みと不満を、筆者の法律家としての悩みと共にお伝えします。
営業秘密の漏洩事案の大半は、退職従業員等によるものです。そこで、従業員や役員の退職時に、企業はどのような方策をとりうるかについて検討するとともに、その際の注意点について検討します。
不正競争防止法上の「営業秘密」に関する相談において、自社が有する全情報=秘密情報である、と考えられている相談者の方が少なからずいらっしゃいます。しかし、「営業秘密」として法的保護を図るためには、多種多様な情報のうち、秘密とすべき具体的情報は何かを把握することが重要です。この重要性について、本コラムでは、裁判例等を題材として検討致します。
不正競争防止法上の営業秘密として保護の対象となる情報は、「秘密管理性」、「有用性」及び「非公知性」の要件を満たす必要があるが、過去の裁判例において、「有用性」の要件を満たさないとしたものは少ない。そのためか、秘密管理性の要件と比較して着目されることの少ない要件であるが、思わぬところで足元をすくわれないためにも、どのようなケースで「有用性」がない情報であると判断されたのかを知っておくことが肝要であると思われる。そこで、本コラムでは、情報に「有用性」がないと認定された裁判例をいくつか紹介する。
弁護士業務において、秘密保持契約書の作成やレビューを依頼されることは非常に多い。弁護士は秘密ができるだけ保持されるような条項の作成を考えるわけであるが、実は、秘密情報を守るためには、秘密保持契約が締結されるまでの協議や締結後の現場の対応が非常に重要である。そこで、秘密保持契約締結において当事者間で協議するべき事柄やそれを実現するための条項案、現場教育などの実務について、秘密情報を守るための方策を検討する。
寒中お見舞い申し上げます。本年もどうぞよろしくお願い致します。さて、営業秘密に関するものに限らず、裁判例の一部については裁判所のサイトで公開されており、誰でも閲覧することができます(こちらのサイトからご覧ください:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1)。 平成27年改正不正競争防止法が平成28年1月1日に全面施行され一年が経過した平成28年末時点において、当該サイト上で「営業秘密」というキーワードで検索するとヒットする裁判例は30件ありました。このうち、今後の訴訟活動等において参考になりそうな裁判例をその勝敗に限らずピックアップして振り返り、ポイント等を解説します。
世界を驚かせた大統領選挙が終了し、トランプ次期大統領の一挙手一投足がこれまでにも増して注目されている米国ですが、知財絡みでは日本にも大きな影響を与えかねないTPPからの脱退等の宣言も注目を集めています。今回は、日本企業にとって今なお最重要な市場の一つといえる米国の営業秘密法制についての最新状況を明らかにしたいと思います。
平成27年改正不正競争防止法により、謙抑的な効果を期待して、一定の営業秘密漏洩行為について刑事罰が強化されたことはご承知のことと思います。刑事手続は非常に厳格な手続であり、一般論として立証の程度が民事よりも高く要求されます。他方、刑事手続において、被告人が自白した場合、営業秘密の該当性は争点になりません。営業秘密について、いわゆる有用性、秘密管理性、非公知性が言われますが、民事手続と刑事手続とにおいて、近年の判例上、どのように取り扱われているか、比較検討してみたいと思います。
知財戦略においては、技術情報や営業情報を問わず自社の中にある情報を営業秘密として管理することの重要性が増しています。営業秘密も最終的には裁判によって権利行使できなければ絵に描いた餅となってしまいますが、特許などと異なり、営業秘密は登録すれば権利行使できるものではなく、適切に管理されていなければ権利行使することができません。これまで様々な裁判例がある中で、管理に問題があったために権利行使が認められなかった事例、いわゆる失敗事例から営業秘密管理に関する教訓を学んでいけたらと思います。
平成27年改正不正競争防止法では、営業秘密の不正利用に関する立証責任の一部が被告に転換され、平成28年1月1日から施行されています。改正法のもとでの被告の防御方法と、被告にならないための予防対策について解説します。
Q 営業秘密訴訟において、原告は、どの程度、営業秘密の内容を裁判所に明らかにしなければなりませんか。先回と同じ裁判例を題材に、さらに深く検討します。 A 先回紹介した口金ノズル事件は、平成5(1993)年から平成10(1998)年まで、何が営業秘密なのかの問題(営業秘密の特定の問題)を粘り強く展開しましたが、何故これが許されたのか、もう少し掘り下げて再検討します。また、従業員が在職中に自ら開発したノウハウ等は会社の営業秘密になるのか、というトンチ問題のような論点についても再検討します。
Q 営業秘密訴訟において、原告は、どの程度、営業秘密の内容を裁判所に明らかにしなければなりませんか。 A 1990年に営業秘密保護を明文化した不正競争防止法が改正された後、あまり時間をおかず、訴訟提起され原告の請求が一部認容された事件があります。これを紹介し裁判の公開原則(憲法82条)との関係で、営業秘密訴訟を提起する原告側の留意点について検討します。また、その後の改正の積み重ねによって今日では営業秘密を守りながらも訴訟をすることが格段にし易くなったことや、従業員開発型営業秘密が不正競争防止法2条1項7号に該当するかの議論についても説明します。